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工房に行きます。

 放課後、フライヤに案内してもらって、学園内の武器を管理している“工房”へと向かった。

 校舎を出て、敷地内を東へ少し歩いたところに林となっている一角がある。その手前までくると、林の前に建てられたレンガ造りの横に長い建物が目についた。


「あちらの建物が“工房”ですわ」

「ありがとう、フレイヤ」

「い、いえ、どいたしまして」


 礼を言って微笑むと、フレイヤが顔を赤らめて顔を逸らした。




 ――さすがイケメンスマイルだな。


『嬉しくないって』




 少し離れたここからでも、カンカンと金属を叩く音が聞こえる。おそらく、鍛冶屋と同じように武器の製作や修理を行っているのだろう。

 私たちは、小気味よいリズムで響く槌の音を聞きながら、工房に併設されている事務所の方に入っていった。


「はいはい、なんですか?」


 受付にいたのは、メガネの痩せた職員だった。


「すみません、刃落とし処理をお願いしたいのですが」

「刃落としね。じゃあ、この書類に必要事項を書いて」


 職員に言われた通り、書類に名前やら学年やら色々と書いて提出する。


「今だと、15分ぐらいで終わるけど、どうする? ここで待ってるかい?」

「えっと、そうします。フレイヤは、待たせちゃ悪いから帰っても――」

「いえ、わたしもお待ちしますわ」

「そ、そう、ありがとう」


 刃落とし処理をしてもらう剣を渡し、待っている間、事務所の一角に売り物として陳列されている武器を見て回ることにした。工房は、武器の販売もしているということだったが、生徒の特性に合わせ様々な武器が並んでいる。


「どれも見事なものばかりだな。ここの職人は腕がいい」

「それはそうですわ。ここは、あの魔人国宝、オルテガ・ツヴァイクが工房長なのですから」

「オルテガ・ツヴァイクって?」

「もう、本当に世間のことに疎いですわね。オルテガ氏は、かの勇者の剣を鍛え、“神の手”と言われたガイア・ヌルエンスキーに直接教えを受けた弟子ですのよ。そして、そんなオルテガ氏のもとには、国の中でも屈指の職人が集まっていますわ。ですから武器の質は折り紙付きで、学園外からも注文が入るほどですわ」

「へぇ、凄いんだな」


 そんな凄い人物が工房長だとは全く知らなかったが、オルテガの師匠である“ガイア”という鍛冶師には聞いた覚えがあった。


「その“神の手”って言われたガイアという人は、ドワーフだったり?」

「そうですけど」


 ああ、あいつだ。ドワーフの里に行った時、住人からも変人扱いされていた男だ。

 鍛冶屋として腕はそれなりによかったけど、やたらデカい剣とかグネグネ曲がる剣とか、“キワモノ”を色々作っていたな。『俺は剣の声が聞こえる』ってしょっちゅう呟いてて。


「ドワーフの里が魔族に襲われそうになった時に、勇者はガイアの店にあった剣で戦ったんだよな。それで、里を出るとき『その剣がお前を選んだ、持っていけ』と言って、剣をくれて」

「そうですわ。勇者の伝記に出てくる、あの高名な武器職人ですわ」


 ああ、やっぱり。

 ちなみに、勇者はもらった武器を次の村ですぐに売っていた。


 その後も、何度か里を訪れることがあり、『旅の中で手に入れた珍しい武器を見せて欲しい』と彼が言うので、訪れる度に見せてあげていた。

 そして、見せる度にインスピレーションを受けた彼が叫ぶんだ。



「ひょわああぁぁぁぁぁ!!」



 そうそう、こんな感じで…………ん?


 事務所の奥にある扉の向こう――実際に処理をする工房の方から、尋常じゃない叫び声が聞こえた。

 直後、バンッと扉が開いて小柄な老人が飛び出してきた。手には私の剣がある。


「ど、ど、ど、どうして、こここ、こんなものが!? だれじゃ!? だれが持ってきた!?」

「オルテガさん、そんなに慌ててどうしたんですか?」

「うるさい! この剣はどいつが持ってきたのかと聞いておるんじゃ!」

「え? あそこにいる男の子ですけど……」


 事務所の職員が私の方を指さして言った。すると血走ったオルテガの目が私にぎろりと向けられる。

 ちょっと怖い。思わず後ずさりしてしまった。

 オルテガは、ずんずんと私の方まで歩いてくると、私を穴が開くかというほど睨みつけながら口を開いた。


「おぬし、この剣をどこで手に入れたんじゃ?」

「も、森です。森で拾いました……」

「……ちょっと来い!」


 そう言って、オルテガは私の腕を掴んで外に引っ張っていった。


「構えてみろ」

「え? あの……」

「いいからやれ!」


 訳も分からず、差し出された剣を受け取って構えた。すると今度は、「素振りをしてみろ」という。「本気でだぞ!」と念も押して。

 私はしょうがなく剣を何回か振ってみせた。


「あの、これでいいですか?」

「……うむ、おぬしの剣で間違いないようだ。お主、名前は?」

「メリットです」

「メリット? 本名か?」

「は、はい」


 なんだか納得したみたいで、うんうんとオルテガが頷く。そこへ、彼の弟子たちが走ってやって来た。


「師匠! どうしたんですか!?」

「そうですよ。叫んだと思ったら出て行っちゃって」

「あの剣、そんなに凄いものなんですか? 師匠」

「やかましい、一度にしゃべるな!」


 オルテガは、弟子たちに一喝入れると、私のもつ剣を見据えながら神妙な面持ちで口を開いた。


「……わしも、わしの師であるガイア師匠から話でしか聞いたことがないが、あの剣は 、間違いない……“霊剣セレンティリオス”じゃ」


 なにかよく分からないが、森で木から引っこ抜いた剣が凄い剣だったらしい。


「その昔、妖精の国の王が、妖精たちの持つ技術の粋を集めて作らせたという名剣じゃ」

「師匠、では材質はやはり……」

「“ミスリル”……今では製造技術が失われた幻の金属じゃ」


 オルテガの弟子たちが沸き立ち、私の持っている剣をみなでしげしげと眺めてきた。勉強熱心な職人ばかりなのだろうが、視線がなんともくすぐったい。


「この剣ってそんなに凄いものだったんですね。出来のいい剣だとは思っていましたが、そんな逸品だとは、まったく知りませんでした」

「メリット、おぬし、その霊剣自身が持ち主と認めるほどの腕じゃが、全く気づいておらんようじゃな。その剣の“真の力”に」

「“真の力”ですか?」

「見せた方が早かろう。それに、伝聞だけじゃから、わしも実際に見てみたいしの」


 するとオルテガは、弟子の1人に「炉から炎熱石を一つ持って来い。小さいやつでいい」と言いつけた。言われた弟子が工房に走っていく。その後、すぐに彼は帰ってきた。手には鍋のようなものを持っている。


「おぬし、この炎熱石を切ってみい」

「え?」

「ほれ」


 弟子から鍋型の容器を受け取ったオルテガが突然、私に向かって容器の中身をひっくり返した。


「わっ……」


 真っ赤に熱せられた小石が1つ、弧を描いて飛んできたので、驚きながらも言われた通り空中で真っ二つにする。

 その直後、不思議なことが起こった。ぽとりと足元に落ちた小石だったが、赤みが突然なくなりただの黒い石になってしまったのである。いきなり熱を失ってしまったように見える。


「ほう、柄の宝玉の色が変わりおった」


 オルテガに言われて、剣の柄を見ると透明だった宝玉が赤に変わっていた。それに、剣を持っている私には、剣から圧力のようなものを感じるようになった。溜め込まれて、解放されるのを待っている、そんな力だ。


「今おぬしが切ったのは、炎熱石といって炉にくべる魔法石の一種じゃ。それで、次はここからあの切り株に向かって、魔法を放つ感覚で剣を振ってみろ」


 魔法を放ったことがないからその感覚が分からないんだけど……。

 でも、今感じている圧力を解放させるような感じなのだろう。私は、そう解釈して、少し離れたところにある切り株に向かって剣を振った。


 ――ボウッ!


 次の瞬間、振った剣の軌跡が炎を纏い、その炎が一直線に切り株に向かって飛んで行った。

 炎がぶつかった切り株が火柱に飲まれ轟轟と燃える。


「え……」


 自分のやったことに頭の整理が追い付かない。


「ひょわああぁぁ! す、すごい! これがセレンティリオスの力か!」


 オルテガは目見開いて、師匠譲りの“例の雄たけび”を上げた。興奮の絶頂なのは彼だけでなく、弟子たちも「うおぉぉ!」とか「すげぇぇ!」とか叫んで、辺りはお祭り騒ぎのようである。


「やかましいですわね。まったく、なんなんですの? 確かに、魔法を放つ剣は珍しいですが、そこまで騒ぐほどでは」


 弟子たちと一緒に見ていたフレイヤが、喧噪に顔をしかめた。


「お嬢さん、バカ言っちゃいかん」

「な、バカって、失礼ですわね」

「あの剣はの、魔力の籠った物体を切ることで、物体から魔力を吸い取り、魔法として放つことができるんじゃ。つまり、魔力を一切消費せずに魔法が使える」

「それてつまりマジックアイテムではなくて?」

「いや、あんなちんけなものではない。セレンティリオスの真価は、吸い取った魔力を“増幅”できる点なのじゃ。見てみい、あの切り株を。あの親指ほど炎熱石で、あの威力にまで上がるんじゃぞ? これは、とんでもないことじゃ」



 その後、「こんな名剣に、刃落とし処理なんて罰当たりな」と猛反対するオルテガをなんとか説得して、授業で使えるように処理をしてもらった。

 処理は、物理的に刃を潰すわけではなく、魔法で切れないようにするだけで、いつでも解除して真剣にすることができるらしい。駆除のアルバイトの時は問題なく使えるようだ。


「ああ、そうじゃ。メリット」


 刃落とし処理を終えて仕上がった剣を私に手渡す時だった。オルテガが私に話しかけてきた。


「この剣は、素材さえあればそれを切って様々な魔法が使えるじゃろう。何が出来るのかまでは、わしにも分からんが、色々試してみて覚えていくんじゃ」

「分かりました」

「で、たまにここに来て、その成果を教えてくれ。そんで、セレンティリオスをよく調べさせてくれんか」

「最後の方が本音でしょ」


 オルテガは、カッカッカと皺だらけの顔にさらにくちゃくちゃにして豪快に笑った。私もつられて、ふふっと笑顔になる。

 この時、私は少し浮かれていたのだ。この世界でも魔法が使えないと思っていたが、思いもよらない方法で魔法が使えると分かったから。

 ただ、この力が“ある問題”を解決する鍵になることは、まだこの時は考えが至っていなかったのだった。



今回出てきた霊剣セレンティリオスは、ラスボスのちょっと前で手に入るそのキャラの最強武器っぽい設定。


ゲームにおいて、心にぐっとくるイベントで手に入れた強い武器が、ラストダンジョンの宝箱から出てきた武器にあっさり性能で抜かれると複雑な気分になる。

まさに、“ぽっと出”に負ける。

まぁ強い方を使うんですけどね。


※6話に挿し絵を掲載しました。良かったら見てみてください。

感想などもどしどしお送りください。

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