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学食に行きます。

 次の日になると、学園では授業が始まり、私も学生らしい生活を送ることになった。

 机に教科書を開いて、教員の話を聞きながら板書をノートに取るという、授業では当たり前のことも、それをクラスの中で皆一緒に行うのは私にとって新鮮だ。

 それに全く知らない世界の事柄なので、歴史、生物、社会など一般的な教科でも初めて知ることばかりで、学ぶことが楽しい。

 授業で習ったことは、主人公の記憶にもない事柄が多い。500年前の人間だからだろう。

 その日は、発見ばかりであっという間にお昼になってしまった。


「あの、メリット。お、お昼ご一緒しません?」


 昼休みに声を掛けてきたのはフレイヤだった。


「え? うん、いいよ」

「……やった!」

「え?」

「いえいえ、なんでもないですわ、おほほほ。では食堂に参りましょう」


 できれば昼休みはラードとじっくり話したかったんだけど、彼はもう教室にはいなかった。昼休みになった途端、クラスを出ていったみたいだ。

 避けられている、のだろうな。

 ラードの影を捜して教室を軽く見回していると、フレイヤが腕を引っ張った。


「さ、さ、早く早く」


 彼女はどうしたのだろ?

 疑問に思いながら、妙にせかすフレイヤに引っ張られ学園内の食堂にやって来た。

 食堂では学生たちが食券を販売機で買って、その券で料理を注文している。学生食堂は初めてだが、食堂というシステム事態は本の中でも同じのようだ。


 あとは何を食べるかだけれど……よく分からない料理名が並んでいるな。

 辛いのか、甘いのか、まったく味の想像がつかない。

 ちらりと隣の食券販売機を見ると、フレイヤが迷いなくボタンを押していた。


「おすすめですのよ」


 私の視線に気づいた彼女がにこやかに言う。


『ボルスガーンのデスメギドソース煮』


 なんだこれ……煮ることしか分からない。


 ただ、幸い豚肉や鳥肉などはこの世界でも同じなようで、私はそういった文言が入った料理を注文することにした。

 ちなみに魔獣の肉とかも、この時代は食べるのだろうか……


「さて、いただきましょう」

「うん、いただきます」


 料理を受け取り、席に着いた私たちはさっそく食べることにした。

 しかし、フレイヤの料理……赤い! ひたすらに赤い!

 例えるなら沸き立つマグマの様だ。マグマのスープである。

 それをスプーンですくって、美味しそうに飲んでいる。あれは、『ボルスガーンのデスメギドソース煮』とは、いったいどんな味なんだ?

 まぁいい、私は私の料理を堪能しよう。


「そういえば、明日から武術の授業が始まりますけど、メリットはもう剣の刃落とし処理はされまして?」


 料理を食べつつ、彼女の方から話を振ってきた


「ああ、魔法で切れなくする処理だっけ? いや、まだだけど」

「せっかく自分の武器があるんですから、それで授業を受けた方がいいと思いますけど」

「確かにそうかもな。でも、どこでその処理を出来るのか知らないんだ」

「あら? でしたら放課後、わたくしと一緒に“工房”の方に参りましょ?」

「工房? ということは、お金が必要なのかな?」

「いいえ。“工房”というのは通称で、学園内にある武器関連の管理・販売などをしている所ですわ。刃落とし処理は無料です」

「へぇ、じゃあ、放課後に案内してもらえるかな」

「ええ、もちろんですわ! ウフフ……やった」


 フレイヤがテーブルの下で小さくガッツポーズをしたのが見えた。


「あーフレイヤが抜け駆けしてる!」

「ずるいぞぉ、フレイヤちゃん」


 突然、声を掛けられそちらを見ると、フライヤの後ろに女学生が2人立っていた。料理の乗った盆を持って、これから席に着こうとしていたようだ。


「げっ、ラヴィ、ハピス」


 振り返ったフレイヤが、ひきつった声を上げた。


「げっ、じゃないよ。昼休みになった途端にいなくなったと思ったら、こういうことだったのね」

「そうだよぉ。もおぉ」


 文句を垂れながら、2人は私の前の席に並んで座る。その後、状況が呑み込めないでいる私に、彼女たちの方から話してくれた。


「あ、メリット君、あたしはラヴィ。まだ覚えてないかもだけど、同じクラスなんだよ、よろしくね」


 ウサギの耳が生えた女の子が言った。彼女たち3人の中では一番小さく、やや早口ではきはきと活発な印象の子だ。


「わたしはハピスぅ。私も同じクラスなんだよぉ、仲良くしてねぇ」


 ラヴィとは対照的にふわふわした喋り方の彼女は、おっとりとした印象だ。それと手が羽毛に覆われている。制服で見えないが、彼女は腕が羽になっているのかも。

 私は知り合ったクラスメイトたちに、愛想よく笑って返事を返す。


「えっと、ラヴィ、ハピス、よろしくね」

「うわ、ハンサムスマイルきたー! 眩し!」


 ラヴィは何を言っているのだろうか。褒められているようだが、ハンサムってあんまり嬉しくない。だって女だもん。


「これを独り占めしようとは、この不届き者をどうしてくれよう」

「はて、なんのことですの?」

「昨日、メリット君とはぁ、みんなでお話ししようっていったよぉ」

「兵法においては、先手必勝ですわ」

「兵法って、あたしたちは戦争でもしてるんか」


 その後は、わいわいきゃっきゃと女の子たち会話が繰り広げられ、あれこれ質問もされ、賑やかな昼食となった。

 同年代の友達がいないので、女学生たちの会話がこんなにも賑やかなことに少々驚かされる。話もたわいないことばかりだ。でも、こういうのも悪くはない。


「お、メリット君の食べているのは、ボロルソース炒めだね」


 ラヴィが私の食べている料理――豚肉と春野菜のボロルソース炒め――を見て言った。

 食券を買うときはボロルソースがどんなものだか分からなかったが、実際、食べてみると甘辛なタレが少し焦げて香ばしい野菜炒めだった。中々の美味だ。


「ああ、そうだが」

「私もそれと迷ったんだよね。ちょっと交換しないかい?」

「ああ、構わない」


 ラヴィの料理は、米を肉などの具材と炒めたもののようだが、あちらも中々美味しそうだ。私は自分の皿を彼女の方に差し出して、「どうぞ」と好きに取っていくように促す。すると彼女が顔を横に振って言った。


「ちがう、ちがう。あ~ん」


 彼女が口を開け、食べさせるようにねだったので、私はスプーンで料理をすくって彼女の口に入れてやる。

 前にカフェ(物語の外)で見た女学生たちは、確かにこうやって自分たちのケーキを食べさせ合っていた。“シェアする”とかいったかな。

 ふふふ、学生かつ友達らしい感じだな。


「ちょっと、ラヴィ! ずるいですわよ」

「ふふふ、先手必勝なのだ」


 今度は、「はい、メリットの分」と言ってラヴィが私に食べさせてくれた。


「ああ! お、おのれ……メリット、わ、わたくしとも交換いたしましょ? ね?」

「う、うん」

「そ、それでは、まずメリットからいただけます?」


 若干、フレイヤの圧が強い。

 彼女があ~んと口を開けたので、さっきと同じように料理を口に入れてやった。

 ん~とか言って幸せそうな表情で咀嚼している姿は、なんとも可愛らしい。それに、スプーンで1口しかあげていないが、それでこんなに喜んでくれるとこっちとしても気分がいいものだ。


「うふふ、美味しかったですわ。では、今度はわたくしが」


 フレイヤが自分の料理をすくって差し出してくれた。

 見るとスプーンに真っ赤な液体とそれに浸かった具材が乗っている。『ボルスガーンのデスメギドソース煮』――まったくもってどんな料理なのか、使用している具材すら分からない。

 でも、彼女は美味しそうに食べていたし、きっと大丈夫なはずだ。それに、私に食べさせてくれようとしている友人の好意を無碍にはできない。


「では、いただきます」

「あ~ん」


 私は彼女の差し出すスプーンをぱくりと咥えた。


 ………………


 …………


 ……



 一瞬、意識が飛んだ気がする。


 あの“マグマ”を美味しそうに食べるとは、火竜王の子孫というのは伊達じゃないな……。

 午後の授業はずっと口の中が痛かった。



異世界に転移して1番困りそうなのって、食事じゃないかなと思う。

海外旅行とかしょっちゅう行っていて、現地料理なんでも食べますって人なら大丈夫だろうけど、そうでないなら厳しそう。

私は無理だと思う。


モンスターの肉とかを食材にする世界は、そのモンスターを想像して食べられなくなりそう。

調味料もあまり多くないか、口に合わなそうだしなぁ。


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