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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「二人の少女」像

作者: 虹村 萌前

 むかし、むかし。

 ある人間の国の土地を、攻めてきた魔族が治めていた時のこと。

 一人の人間の女の子と、一人の魔族の女の子は、お互いに大好きな友達でした。




 人間の女の子は言いました。


「わたしね、大きくなったら勇者になって、みんなが優しくなれるようにするんだ。」


 人間の女の子の瞳には、きらきらが溢れています。


 すると、魔族の女の子は言いました。


「でも、勇者って怖いんでしょ?おばあちゃんが言ってたよ。」


 魔族の女の子は不安でした。


「だから、そんなふうになっちゃ、やだよ……」


 泣きそうになる魔族の女の子をなだめるように、人間の女の子は優しく言いました。


「勇者ってね、すっごいことをできる人なんだ。でもね、どんなすっごいことをするかは、勇者になった人が決めるんだよ。」


 人間の女の子は、魔族の女の子の涙をそっとぬぐいました。


「じゃあ、大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。一緒に幸せになるために、一緒にみんなを優しくしよう?」

「うん。」


 それは幼い日の約束となって、二人の胸にそっとしまい込まれる思い出となるはずだった記憶でした。




「あんた、またあの子と一緒にいたの?」

「……うん。」


 人間の女の子のお母さんは、人間の女の子が魔族の女の子と一緒にいることを嫌がるのでした。


「わかってるの?あの子は魔族なのよ?」

「でも……!」

「でもじゃない! 二度とあの子に近づかないで。」


 お母さんの声はとってもトゲトゲしていて、女の子は胸が苦しくなりました。


「いやだ。」

「嫌ってどういうことよ! 親の言うことが聞けないの!?」

「いやったらいやだ!」

「何度言ったらわかるのよ!? あの子は魔族なの! 劣悪で非道な種族なのよ!」


「れつあく」とか、「ひどー」とか。

 女の子にはまだわからない言葉でしたが、とにかく魔族の女の子が悪者にされていることだけはわかりました。


「わからずやはお母さんだよ!! 私はあの子がだいすきなの!!」


 そう言うと女の子は、自分のお家を飛び出してしまいました。




「あら? こんな時間にどうしたの?」


 人間の女の子がとっさに向かったのは、魔族の女の子の家でした。


「家出してきたの。」


 魔族の女の子のお母さんは、人間の女の子をいつも優しく出迎えてくれます。

 優しい優しい魔族の女の子の優しさは、やっぱりこの人がお母さんからもらったのかな? と、人間の女の子はいつも思うのでした。


「どうして?」

「お母さんが、魔族の人たちに優しくなくって、私たちのことも離れさせようとするの。でも私、そんなの嫌だから……」

「そう。大変だったわね……」


 人間の女の子は、そっと優しさに包まれます。


「あんなお母さん嫌い。おばさんが私のお母さんだったらいいのに……」

「そう? ありがとう。でもね、確かにあなたのお母さんはあなたの好きを好きになれないかもしれない。あなたがそんなお母さんを嫌いになるのも自然なことなのかもしれない。けれど、これだけは覚えておいて。」


 お母さんであって欲しいと思ったその人は、人間の女の子をそっと撫でながら言うのでした。


「あなたのお母さんはきっと、あなたのことが大好きよ。」


 その時でした。

 さっきまで自分を優しさで包んでくれたその人の、何かに気づいた様子を見て、人間の女の子は窓の向こう、外を伺います。


「燃やせー!追い出せー!ここは俺たちの国だー!魔族なんて、追い出しちまえー!」




 窓から火のついた瓶が投げ込まれて、人間の女の子は何がなんだかさっぱりわかりませんでした。


「あの子は向こうの部屋にいるから、一緒に地下室に逃げなさい!」


 外から怒号が響いて来る中、人間の女の子に向かって叫ぶ魔族の女の子のお母さんはさっきまでとは全然違って、とても必死そうでした。


「早く行って! 私は後から何とかするから!!」


 人間の女の子はどうしたらいいのかわからず、廊下を夢中で走りました。




「わたしと一緒に逃げよう!」


 人間の女の子が走ってきた廊下は、もう奥のほうは炎で見えません。


「地下室はどっち?」


 魔族の女の子は窓からの景色が恐ろしくて動けなくなっていましたが、人間の女の子が来て少しだけ落ち着きました。


「……あ、あっち……」


 人間の女の子と魔族の女の子は、手をつないで走り出しました。




 二人の女の子が地下室に入って、もうずっと経ちます。

 外への扉は開かなくなっていて、二人はただ座って何かを待つのでした。


「私たち、このままどうなっちゃうのかな?」


 魔族の女の子の手は、小刻みに震えていました。


「大丈夫。私が何とかするから。」


 それを握り返す人間の女の子の手も、震えてしまっているのでした。


 人間の女の子は暗い暗い部屋の中に、お母さんのよく作るシチューが浮き上がるのを眺めます。

 おいしい。おいしいけれど、それ以上にホッとする。そんな味を思い出すのです。

 思えば、きっと人間にも魔族にも、本当に優しくない人などいないのでした。


「約束……」


 魔族の女の子は小さな声でつぶやきます。


「この世界のみんなが優しくなって、ずっと一緒に……」

「そうだね。私が勇者になって、みんながみんなに優しくなって。そして二人でずっと一緒にいよう。」


 いつの間にか、二人とも手の震えは止まっていて。

 人間の女の子と魔族の女の子は、体を寄せ合って永い眠りにつくのでした。

今考えている長編小説のサイドストーリーを、先に短編にしてしまいました。

本編はもっと明るい話になる予定です。

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