さあ、行きましょう
翌日の放課後。
わたしは相原さんを通して峰岸さんを呼び出し、ことの真相全てを伝えました。
「ですから、もしこれ以上何かあるようなら、そのラブレターを書いた女の子を探して彼女を説得するしかありません。筆跡ならわたしが覚えていますし、女子相手なら相原さんも」
隣の彼女に視線を向けると、力強く頷いてくれました。
「ええ、もちろん協力するわ。そういうことなら喜んで」
「ありがとうございます。以上が事件の真相と今後の対応策です。真犯人をどうするのかは峰岸さんにお任せします」
「あ、ああ……わかった……」
峰岸さんは、無理もありませんが、わたしの話に、ゆかりさんの推理に戸惑いを隠せない様子でした。
「正直いまだに信じられないが……。あいつらが俺を……。だが、ちゃんと考えておく。ちゃんと自分で答えを出すから」
迷いながらも決心を固めた瞳。
もう大丈夫そうです。
「それではわたしはこれで」
「あ、ちょっと待ってくれないか?」
「はい?」
背中を向けたわたしに、初めて出会った時のように引き止める声がかかります。
「どうして俺のためにここまでしてくれたんだ? ひょとして……俺のこと好きなのか?」
突然の問いかけに、
「いいえ、違います」
驚くほどすんなりと答えが返せました。
自分でもどうかと思うほど酷く冷たい物言いでしたが、不思議と後悔も反省も湧き上がってきませんでした。
相原さんが一瞬峰岸さんに驚愕の表情を向けて、それからわたしを見て、わたしの答えを聞いて、
「ぷっ! あっはっはっは!」
そして堪らず吹き出しました。
「くっ……。おい、笑うなよ相原……っ」
「馬鹿だ! 馬鹿がいる! 信じられない! 助けてもらった後輩の子になんて妄言伝えているの?」
相原さんは人目もはばからずひとしきり峰岸さんを笑い者にして、それからわたしを向き直り、にっこり笑顔。
「ああ、いいわ。あなたすごくいい。前の時にそう思ったけれど、今はもっと気に入ったわ」
ぐっと立てた親指を向けられて、きれいにウィンクされます。
「えっと、ありがとうございます」
わたしはお辞儀を残して、その場から逃げるように走っていきました。
峰岸さんにとっては勇気をふり絞った告白だったのでしょう。けれど、応えてあげることはできません。
だって、わたしが好きなのは、
本当に大切なのは、ひとりだけ。
「……ふふ」
ふと彼女の笑顔を思い浮かべます。これで用事は終わりました。心置きなくゆかりさんのお家へ向かえます。
さあ、行きましょう。わたしを待ってくれている彼女のところへ。
読了ありがとうございます。第三話、これにて完結です。




