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ゆかりさんとわたし  作者: ユエ
3話 ゆかりさんとわたしと、校舎裏にて
73/79

真犯人は、


 

 ゆかりさんはスケッチブックで訊ねてきます。



〝真犯人は誰かしら? 状況的に一番怪しいのは?〟

「真犯人……窓ガラスを割った犯人は、峰岸さんを罠に陥れた人。つまり、ラブレターを送った女子生徒?」

〝でもその動機はどうかしら?〟

「え、動機?」



 少々ゆかりさんの口調、いえ、様子が変わったのが分かりました。たぶん、わたしは見当違いの答えを出してしまったのでしょう。


 ラブレターを送った女子生徒は、わたしにとっては領域外の人物。わたしの話から事件を推理したゆかりさんにとってもそう。


 ラブレターの彼女の動機を推測はできません。状況的にそうなのです。だとすると動機がありそうなのは……。



「もしかして、野球部の三人の誰か? いいえ、全員ね?」



 後者の答えにゆかりさんは頷きを返してくれました。



〝三人の目的は何かしら? 主将さんを貶めることで、三人は何を得るのかしら?〟

「えっと……」



 ここで返しに詰まります。


 野球部の二年生は彼らだけで、一緒に野球部に入るほど仲が良かったはず。


 仲たがいした理由、きっかけ、それは? 


 ……最近の出来事に起因する?



「もしかして峰岸さんが主将になったこと? そう、自分がなれなかったこと、かな?」



 自信なさげに顔を上げると、ゆかりさんは良くできましたと言いたげに優しく微笑んでくれました。

 褒められました。とても嬉しい。


 浮かれるわたしに、ゆかりさんは答えを書いたスケッチブックの紙面を見せてきます。



〝野球部の三人は主将になった主将さんを妬ましく思い、罠に嵌めて部内での立場を悪くしようと企てたの。あわよくばその座を奪い取ろうとね。手紙を使って主将さんをおびき出し、自分達で窓ガラスを割って、さもそれを発見したかのように装った。ご丁寧に投げ込まれたとする石まで用意してね〟

「なるほど……。確かに構図としては分かりやすい。疑うべきは第一発見者というわけね。さすが、ゆかりさん」



 ゆかりさんはやんわり否定します。



〝全部みぃちゃんが辿り着いた答えなのよ。自信を持って。あたなは素晴らしいわ〟

「そんな風に言われると照れちゃうけど……」



 ですがまあ、せっかくこう言ってくれているのですし。少し誇らしく思っていいのかも。

 

 とはいえ、まだ分からないことがあるので、ここは素直に質問します。



「でも、どうやって強化ガラスを外側から割ったのかな? 廊下にガラスが散乱していたんだから、外から力を加えないといけないよね?」



 ゆかりさんはすんなりと答えて見せます。



〝金属バットで思い切りスイングすれば割れるんじゃないかしら? 窓の桟に腰を掛けて足だけ固定すれば、上半身のひねりだけでも相当威力を出せるはず〟

「ああ、なるほど。野球部ならではね。素人には難しくても、普段からそういう鍛え方をしているんだし。でも、そんなことをしたら目立たない?」

〝役割分担したのよ。割る役と見張り役。彼らは三人もいたんだから〟



 ゆかりさんは、打てば響く鐘のようにすらすらと知りたいことを教えてくれます。本当にすごい。


 さらに続く文字をスケッチブックに書き込みます。少し時間が掛かりましたが、こういう風に待っている間もどことなくわくわくします。



〝もちろん割ったのは主将がいなくなった後。音で気づかれてしまうから。彼らが主将を目撃したと申告しなかったのは、下手なことを言ってどこかへ行ってしまった彼の証言と食い違わないようにするためよ。その分、主将さんは校舎裏に居たということを強く印象付けるため、何度も繰り返し呼び出したの。それによって主将さんは近頃不審な動きをしていたという話が出来上がって、あとは状況から犯人にでっち上げられる〟



 わたしは、うんうんと頷くしかありません。



「すごく考えられていたのね……って、感心したらダメだけど。でもこれで峰岸さんの無実を証明することが―――……」



 わたしの発言は途中で止まりました。


 そうです、証明することはできません。


 ここまでの推理はすべて、ゆかりさんとわたしのお話の中で出てきたもの。野球部の三人が窓ガラスを割ったという決定的な証拠がないのです。

 これでは峰岸さんが犯人でないと証明できません。



「ど、どうすれば……」

 

 

 

 

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