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ゆかりさんとわたし  作者: ユエ
3話 ゆかりさんとわたしと、校舎裏にて
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呼び出し

      

 

 放課後になって、駆け足でゆかりさんのお家へ向かいたい気持ちをぐっと押さえ、職員室の扉を開きます。



「失礼します」

「おお、来たか。こっちだ」



 担任の先生に手招きされて、そちらへ。もう一人呼び出された生徒がいました。



「やあ」



 主将さんでした。



「……こんにちは」



 わたしは目礼だけ返して、先生の前に立ちます。



「えっと、どうして呼び出されたのでしょうか?」

「ん? ああ。先に聞いておきたいことがあるんだが、いいか?」



 先生は意味のない前置きをして、勝手に質問に入ります。



「昨日の放課後、校舎裏に行ったか?」



 わたしは正直に答えます。



「はい。行きました」

「そこで何をしていた?」

「いえ、何も。通りかかっただけです」

「何もない校舎裏をか?」

「はい」



 少々淡泊な返しになりましたが、その通りなのでそういう風に答えるしかありません。


 先生は疑っているような納得しているような様子で曖昧にひとつ頷いて、質問の方向性を変えます。



「じゃあ、そこで峰岸を見たか?」

「どなたですか?」



 返答は横からありました。



「俺だ。改めて、二年の峰岸だ。野球部の主将をやっている」

「ああ、なるほど。はい、見ました」



 再度先生からの質問です。



「峰岸は何をしていた?」

「何って、ええっと……」



 わたしは一瞬返答を迷いましたが、何とか答えます。



「人を、待っていました」



 ラブレターの相手であるとか、そんなことまで言う必要はないでしょう。



「……それだけか?」

「はい。わたしが見た限りでは」

「ふむ……」



 わたしが答え終えると、



「ほら、だからそう言ったじゃないですか、先生!」



 またも横から主将さん、改め峰岸さんが声を荒げて詰め寄ります。


 何となく話が見えてきましたが、埒が明かないのでわたしから訊ねることにします。早くゆかりさんの所へ行かないと。



「あの、何があったのか教えてください」



 先生がわたしの方を見て答えます。



「いや、すまなかった。窓ガラスが割られていた件で、放課後にあの辺りにいた生徒から事情を聞いていたんだ。そこでお前の名前も挙がったから一応念のために、な?」

「そうですか。いいえ、大丈夫です」



 すんなり納得しかけたわたしでしたが、横の峰岸さんはまったく納得いっていない様子です。



「一応念のため? 俺を犯人だと疑っているから、俺の言葉に嘘がないか確認のために呼んだんでしょ!」

「おい、落ち着け。峰岸」

「くそっ……」



 峰岸さんはどうにも不服な様子で、なだめようとする先生から顔を背けます。


 どうしたものか、と視線を泳がせた先生とわたしの目が合います。バツが悪そうに先生は事情を話してくれました。今度は正直に。



「いや、その、なんだ……。別に峰岸だけを疑っているわけじゃないんだが」



 先生はちらりと視線を峰岸さんへ向けますが、彼はそっぽを向いたままです。



「峰岸はここ最近、よく校舎裏をうろついているところを目撃されているんだ。しかも部活を嘘の理由で休んで放課後の時間ずっとだ」



 その理由をわたしは知っていましたが、先生は知らないようです。

 きっと峰岸さんが話していないのでしょう。さっき迂闊なことを言わないで良かったです。



「その矢先にこういうことが起きて……。おかしいと思われても仕方ないじゃないか。しかもお前は野球部のエースだし」



 付け加えられた言葉に疑問を覚えました。



「どんな関係が?」

「割られていた窓ガラスのすぐそばに、ガラスの破片と一緒に拳大くらいの石が落ちていたんだ。それを投げ込んで割ったとみて間違いない。つまり、それを投げ込んだ奴がいるはずだ」

「それが峰岸さん?」

「だから、俺じゃないって!」



 わたしの不用意な発言に、峰岸さんが噛みつきます。



「俺はただ、あそこで人を待っていただけなんです! さっきこの一年生がそれを証明したでしょ! それに、俺はその後部活に出て、顧問の先生に頭を下げて自主練していったんですよ? ガラス割った人間ならさっさと逃げているでしょ!」

「だがなあ……。ずっとその場にいたわけじゃないんだろう?」



 先生がわたしを見て訊ねて来たので、わたしは少し思い出しつつ、正直に答えます。



「はい。だいたい三分くらいだったかと」

「時刻は分かるか?」

「放課後が始まってすぐのことなので、十六時前でした」

「窓ガラスが割られたのは部活の終わり間際、十八時近くだ。二時間も前に数分通りかかったやつの言葉では何の証言にもならない」

「そんな……」



 峰岸さんが一気にトーンダウンする横で、だったらどうしてわたしを呼び出したのかと考えていましたが、余計なことを突っ込むのも面倒です。


 代わりにわたしは峰岸さんに言います。



「峰岸さんは呼び出されてあそこで人を待っていたのでしょう? だったらその手紙を見せれば証拠になるのでは?」



 すると、峰岸さんは苦い顔をします。



「あの手紙は……。破いて捨ててしまった」

「どうして?」

「いつまで待っても来ないから腹立たしくなって、つい……」

「そうでしたか……。すみません」

「いや……」



 昨日も部活動が終わるまで待っていたようです。それでこんなことに巻き込まれていたのでは、なんとも……。

 掛ける言葉が見つかりませんでした。



「ですが、わたしはその手紙を見せてもらいました。明らかに女子生徒の筆跡でした。この証言は呼び出しの証拠になるのでは?」

「おお、そうだった! そうなんですよ、先生!」



 峰岸さんの瞳に期待が宿ります。


 しかし先生は、相変わらず疑り深い顔でわたしたちを交互に見て、



「しかしなあ……。実物がないとなんとも……。お前たちが口裏を合わせているのかもしれないし」

「…………」

「…………」



 峰岸さんは絶句し、わたしも言葉が出ませんでした。それこそ、その滅茶苦茶な推論の証拠を出して欲しいくらいです。

 


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