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ゆかりさんとわたし  作者: ユエ
0話 ゆかりさんとわたし
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また、明日……


 ゆかりさんの後でわたしもお湯をいただき、まだ湿っぽい髪の毛をタオルで拭きながら、居間へ戻ってきました。


 ゆかりさんと違って、肩ぐらいまでの長さしかないとはいえ、それなり毛量があるので中々乾きにくく……。

 長時間ずっとドライヤーをかけて電気を使い続けるのは、少々憚られます。親しき仲にも礼儀ありです。


 遠くの山向こうへ夕陽が沈みゆく中、ゆかりさんは卓袱台の上でノートパソコンを開いていました。


 幽霊は電子機器を壊してしまうとよく言われていますが、彼女はパソコンや携帯わたしのを巧みに使いこなします。


 キーボードを見もせずにもの凄い速さでキータッチしている様子を見て、



「うわあ……」



 呆れとも感心ともつかないため息が口から漏れます。機械が苦手なわたしでは、とても扱いきれそうにありません。


 わたしとゆかりさん、立ち位置入れ替わった方が収まりが良さそうです。


 ゆかりさんは多趣味です。自由で退屈な時間を少しでも楽しもうと、絵を描いたり、本を読んだり、パソコンをしたり。

 それゆえか、漫画やアニメを好む性格で、時に深夜の観賞会にわたしを誘います。


 家に彼女ひとりでいる時に、極力電気を使いたくはないのだそうです。不審に思われてしまっては厄介なので。


 わたしは当然寝落ちです。毎回目が覚めると、ゆかりさんの身体や膝を枕にしていて、それはひんやりと心地良く……。



「…………」



 不埒なことを思い出し、顔を赤くして黙り込んだわたし。


 ゆかりさんはちらりとこちらを盗み見て、パソコンの画面をちょいちょいと指差します。

 覗くと、パソコン内のアプリケーションを利用した白い画面に文字が浮かんでいました。



〝どうかしたの?〟

「ううん。何でもないよ」



 わたしは首を横に振ってから、ふと外の夕暮れに目をやります。


 オレンジから紫へグラデーションがかった空を見上げ、もうすぐ夜がやって来ることを意識して、ぽつりと。



「ゆかりさん。わたし、そろそろ帰るね」



 ゆかりさんはすごい速さでカタカタとキータッチ。画面をわたしの方へ向けてきます。



〝今日もありがとうね、みぃちゃん。楽しかったわ〟



 そして、にこりと花が咲くような笑顔。


 いつも通りのお別れの言葉。しんみりする必要はありません。

 毎日のように繰り返していることです。日常の一部と化した挨拶です。

 ゆかりさんと一緒にいるだけであんなにも楽しい時間を過ごしているというのに……。


 わたしは、どうしてもこの時ばかりは上手く笑えていない気がするのです。

 だって、もしかしたらこれが本当に最後のお別れになるのかも知れないから。


 不安に押し潰されそうな胸をきゅっと掴み、



「うん、わたしも」



 無理やりに言葉を絞り出すと、ゆかりさんは立ち上がってわたしの頭を引き寄せ、ぽんぽんと優しく撫でてくれました。


 わたしが落ち込んでいると、彼女はすぐに察してこうして励ましてくれます。

 わたしができる程度のごまかしはまったく通用しません。ゆかりさんにはお見通しです。


 こういう時、決まってわたしは彼女の優しさに甘え、そのぬくもりに安らぎを感じて目を閉じ、彼女の柔らかさを堪能します。


 幽霊であっても、ひんやりとした身体のその向こうに確かな温かさを感じ、それがとても心地良く。

 そうして後で叫びたくなるのです。立場が逆だと。わたしがしっかりしなくてどうするのだと。


 情けない自分を思い切り、叱りつけてやりたくなります。


 わたしのダメな一面を知ってか知らずか。いいえ、きっとこれもお見通しなのでしょう。

 ゆかりさんは、



〝ありがとう〟



 と、そう伝えてきます。



〝私のために一緒に居てくれて、ありがとう〟



 と。


 何の不満もないと言うように。穏やかな幸せに包まれているとでも言いたげに。屈託なく微笑みながら。



「……じゃあ、また明日ね」



 そんな優しさが、どうしようもなく嬉しくて……。


 けれど同時に、強く強くわたしの胸を締め付けるのです。



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[良い点] みぃちゃんと、ゆかりさんの仲の良さと、世界観に引き込まれます。
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