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ゆかりさんとわたし  作者: ユエ
3話 ゆかりさんとわたしと、校舎裏にて
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ずるい……


 

 ゆかりさんのお家で長風呂をするのは初めてのことでした。すっかり頬が火照ったので、うまい具合に赤面を隠してくれています。目元が赤くなっているのはさすがに隠せませんけれど……。


 ええい、散々恥ずかしい姿を見せた後です。堂々といきましょう。



「お待たせ、ゆかりさ……うん?」



 居間に戻るとそこはすでに電灯が消されていて、台所から漏れてくる薄明かりのみでした。

 部屋の中央には布団が敷かれていますが、ゆかりさんの姿はありません。


 その横にいつもは片づけられている卓袱台が出しっぱなしになっていて、その上にはスケッチブック。

 文字が書かれています。薄明かりの下でも十分読めます。台所の電気はわざと消さずにつけておいたようです。


 書かれていたのはゆかりさんからの伝言です。



〝秘密を聞かれて恥ずかしいので、今日はもう寝ます。明日笑顔で会いましょう〟

「…………」



 スケッチブックから目を離し、しんと静まり返った部屋をぐるりと見回します。

 姿は見えなくてもわかります。ゆかりさんはここに居ました。わたしのすぐ近くに。


 スケッチブックに書かれたメッセージはちゃんと伝わりました。今日のことはお互い忘れて、明日からまた普通にお話をしましょうと、そういうことです。



「ずるい……」



 呟くと、ビクリとわずかに空気が震えたような気がして、ゆかりさんの動揺が伝わってきます。


 時々あるのです、姿をくらませた透明なゆかりさんの気配を手に取るように感じることが。研ぎ澄まされた感覚の先に、確かにゆかりさんは居てくれました。


 わたしは静かに布団を回り込み、肩掛け鞄を持ち上げます。

 台所に行って、そこの電気を消します。部屋の中はさらに暗くなり、雨戸から溢れる月の薄明かりで物の影が見える程度です。


 わたしは注意深く居間の襖を開き、廊下へ出ます。振り返り、居間の中へ向かって、そこに居るであろうゆかりさんへ向かって、声をかけます。



「じゃあね、ゆかりさん。いい夢を見てね」



 襖を締め切る直前、



「また、明日ね」



 そう言い残して。


 わたしはゆかりさんのお家をあとにして、自宅のマンションへと帰りました。

 相も変わらず、誰もただいまを言ってくれない寂しい空気に満ち満ちた部屋の中、わたしはさっさと自室へ引き上げ、布団にもぐりこみます。

 

 一人になり、思い返されるのはゆかりさんとのやり取りのこと。恥ずかしいとも、哀しいとも思いません。そういうことを考え始めるよりも先に、微睡の中に引きずり込まれていました。


 どうしてでしょうか。あんなことがあったというのに、その夜は不思議と安らかに眠ることができたのです。

 

 


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