表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆかりさんとわたし  作者: ユエ
3話 ゆかりさんとわたしと、校舎裏にて
54/79

告白と変わらないんじゃないかしら


 

「じゃあ、ゆかりさんはどうするの?」



 慈しみの視線に耐え切れず、わたしは勢い任せに問い返します。

 そうです、むしろ普通とは違う生活を送ってきたゆかりさんの意見こそ、聞いておけば話のタネになるというもの。


 ゆかりさんは天井を仰いで少し考えて、さらさらとペンを動かして、スケッチブックを見せてきます。



〝みぃちゃんからラブレター貰ったら、素直に嬉しくて喜ぶと思うわ〟

「ごほ……っ」



 むせました。ゆかりさんが背中をさすってくれます。


 ただ、からかっている風ではなくて本気で心配している様子。まさか本音を書いたのでしょうか?



「ど、どうしてラブレターの相手がわたしなの……?」



 ゆかりさんはすごくきょとんとして、当たり前のことしか言っていないような顔をして、こんなことを伝えてきます。



〝他にくれそうな人がいないもの〟

「いるでしょう、たくさんっ。ゆかりさん、すごく美人さんなんだもの。たとえば―――……」

 


 そこで言葉が詰まりました。例えられる人がいませんでした。 


 生まれた時から入院していて、学校に通っていなくて……。

 幽霊となった今、ゆかりさんがひとり暮らしをするこのお家を訪ねて来るのは、たぶんわたしだけ。他の誰からも認識されないゆかりさんの交友関係は、わたしだけでした。



「…………」



 酷いことを言ってしまったかもしれないと暗くなるわたしを、ゆかりさんはあくまでにこやかに見つめてきます。



〝いないでしょ?〟



 そう言いたげでした。



「えっと、でも……。普通に学校に行っていればたくさんもらえたと思うし! ラブレター!」



 無理やり明るく言ってみますが、



〝通っていないからもらえないわ〟



 ばっさり切り捨てられました。



「ごめんなさい……」



 わたしはもう謝るしかありません。


 そんなわたしに、それでもゆかりさんは優しく微笑みかけてくれるのです。月明かりのように穏やかな笑みで、全てを包み込むようにわたしを許してくれるのです。



〝みぃちゃんがいてくれるから、私はそれでいいの〟



 わたしは伏せていた顔を上げて、確かめるようにゆかりさんの瞳を見つめます。

 

 スケッチブックの言葉は続きます。



〝私は、みぃちゃんが側にいてくれることが幸せなの。だからラブレターを貰えれば嬉しいのよ〟

「ゆかりさん……」



 照れるというより泣きそうでした。


 何年にも渡って病室を訪ねてきたことが、特異な存在となっても変わらず一緒に居続けた日々が、ちゃんとゆかりさんを楽しい気持ちに、幸せな気持ちにできていた……。


 そんな風に伝えてくれることが、何よりもわたしの心を救ってくれたように感じました。


 ゆかりさんの優しさに報いたい。彼女の願いを叶えてあげたい。わたしにできることならなんでも……。



「じゃあ、今度書いてくるから。ラブレター」



 ゆかりさんを幸せにする。わたしなりの決意を込めて、告げました。


 すると、ゆかりさんは、



「……。どうして笑うの、ゆかりさん?」



 頬を赤くし、口元を押さえて肩をガタガタと震わせるものですから、わたしには訳が分かりません。これ以上ないほど、真剣に言ったつもりだったのですけれど……。


 ゆかりさんはひとしきり笑うと、笑ってしまったことを謝りました。



〝ごめんなさい。あんまり真剣な顔をして言うものだから、堪え切れなくて〟

「え、何かおかしかったかな……」



 ゆかりさんは、さらさらとスケッチブックに続く言葉を書きます。



〝面と面を向かってラブレターを書いてくるなんて言ったら、それはもう告白と変わらないんじゃないかしら〟

「こ、告白っ!? ち、ち、違う違う! そんなつもりで言ったわけじゃ……っ」

〝あら、違うの? 残念。私はみぃちゃんのことがこんなに好きなのに。みぃちゃんは私のことが嫌い?〟

「ううん! 好きっ! じゃなくて、好きだけど、友達としてであってね? 決して告白とかじゃないのよ。聞いてる、ゆかりさん!」



 しどろもどろの慌て口調でまくし立てたので、途中から自分でも何を言っているのか分からなくなり……。 


 ゆかりさんは終始楽しそうに笑って、真っ赤になったわたしをからかっていました。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読了、ありがとうございました。
感想・評価いただけると嬉しいです! 最新話下部にあります!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ