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ゆかりさんとわたし  作者: ユエ
2話 ゆかりさんとわたしと、洋館にて
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真犯人は、


 

 不満顔のわたしを見て、しかしゆかりさんは気にすることなく言い放ちます。いいえ、スケッチブックで伝えてきます。



〝私たちは探偵でも警察でもないのよ、みぃちゃん。小説におけるトリックを解くことを目的としているの。書かれていることはもちろん、書かれていないこともすべて含めて謎を解く手がかりとなるのよ〟

「それはそうなんだろうけど……。」



 なんかさっきと言っていることが違くない? とか思ってしまい、わたしはやや口をへの字に曲げます。



「でも、じゃあ、執事さんがそんなことをした理由は? どうして自殺なんかしたの?」



 納得できないわたしは、つい動機についてゆかりさんに問いかけてしまいました。それは今回謎かけの対象から外すと、わたしが言ったというのに……。


 しかしさすがはゆかりさん、とでもいうべきか。わたしの子供っぽいところまで全部お見通しでした。


 スケッチブックを捲って、あらかじめ書かれている文字を見せてきます。



〝彼が一連の事件の犯人だったからよ〟

「え、そうなの? 執事さんが犯人なの?」



 ゆかりさんはしっかりと頷いて、続きの文を見せてくれます。けっこうな長さです。



〝執事さんが二つの事件を起こした犯人。みぃちゃんの話から推測するだけでも、状況的な証拠がいくつか出てくるわ。まず、裏口の鍵を自由に扱えること。可燃性の液体をより多くかけるために、ドアの前で一度立ち止まらせる必要があるから。それを持っているのは洋館を管理している執事さんか家政婦さんだけ〟

「うわ、立ち止まらせる時間まで考えられていたんだ……」


〝次に脚立の置かれている場所を知っていること。洋館の管理をしている人なら簡単に見つけられるし扱いにも慣れている。双子を隠して置ける場所についても、洋館内部に精通している執事さんなら親族皆の捜索の目をかいくぐることもできた。もしかしたら、そこはもう自分が探したから別の場所を、とか。そういうセリフがあるかもね〟

「あー、確かにあったかも。そんなセリフ」


〝最後にブレイカー。今回は雨だったり雷だったり、偶発的な天候の変化がないと成立しないトリックばかりよね?〟

「うん、確かにそうかも。偶然雨が降っていなければ水を混ぜた油なんて使えないし、雷で停電にならなければ携帯電話の光を頼りに狙撃できない」


〝でも、雨なら予測はできるでしょう?〟

「そうだね。天気予報とか空の色で。じゃあ一つ目の事件はある程度計画的な犯行だったのね」


〝停電に関しても別に雷じゃなくてもいいの。ブレイカーさえ落ちればいいんだから、そういう仕掛けをしておけばいい。調子が悪いとか故障だとか言ってしまえば、もうそれまで。そしてそれができるのも、トラブルが起きたら最初に原因を確認しに行くであろう、執事さんならではということよ〟

「へえ……。すごく考えられているのねえ」



 提示された情報を改めて眺めてみて、しみじみと呟きます。



「わたしったら、半分も理解しないで読んでいたかも」



 素直に感嘆を口にすると、ゆかりさんも頷いて同意を示してくれます。



〝私も普段そんな風に読んではいないわ。今回は謎かけだから頑張って考えただけ〟



 スケッチブックにはそんな風に書かれていましたが、とてもそれだけでここまで考えつくとは思えません。ゆかりさんはやっぱりミステリーに強いようです。


 今後もこういう機会を増やしていこうか、などともう終わった気になって次のことを考えているわたしに、ゆかりさんはスケッチブックのページを捲って、続く言葉を見せてきました。



〝執事さんが自殺した理由だけど〟



 そう書かれていて、わたしは驚きます。



「え。今のが理由じゃないの? 執事さんが犯人でっていう……」



 ゆかりさんは不思議そうな顔をして、新しいページにこんなことを書きます。



〝今のはただの前置きよ。執事さんが犯人だっていう証拠をただ述べただけ。それだけじゃあ自殺の理由にならないでしょう?〟

「あ、それもそっか……」



 まったくその通りなので、わたしは二の句が継げません。


 執事さんが犯人であるなら、人を殺してしまった罪悪感に堪えかねて自殺した、もしくは殺したい人を殺して目的を果たしたから自殺した。勝手にそんな風に考えてしまっていたのです。


 そう正直に明かすと、ゆかりさんは紙面に文字を躍らせて言葉を返してくれます。



〝そういう展開もあるかも知れないけれど、もしかしたらそっちが正解なのかもしれないけれど、でも今回私の考えは違う〟



 ゆかりさんはスケッチブックを裏返します。



〝間違えてミカを撃ってしまったこと。それこそが彼が自殺した理由だと私は思うわ〟

「ミカを? どういうこと?」



 ゆかりさんは、〝ここからは完全に私の想像で妄想で創作だけど〟と、前置きしてから答えます。



〝執事さんはミカのお父さんから特定の親族の殺害を依頼されていたの。それが標的にされた二人。たぶん遺産は関係ない個人的な恨みじゃないかしら。親族会を舞台にしたのは、遺産目的の犯行であるとカムフラージュするためよ。同時にミカの身辺的な警護も依頼して、遺産を取り合う親族たちから護ってやってほしいと頼んでいたんだわ〟

「ええっ、執事さんにそんな役割があったの?」



 ゆかりさんは頷きを返して、続きを見せてくれます。



〝それなのにミカを間違って殺しかけるという失態を犯した自分が許せなくて、せめてもの罪滅ぼしで自殺を選んだの〟



 そして、こんなことを付け加えます。



〝どう? この方が物語として面白くない?〟



 妙に自信ありげな表情で訊ねてくるので、わたしは思わず笑ってしまいました。



「ふふふ、たしかにそうかも。その方が驚きがあるよね。ゆかりさん、すごい」



 素直に褒めると、ゆかりさんは得意顔で胸を張ります。



〝えへん。もっと褒めていいのよ〟



 とか、そんな風に言いそうでした。


 ……それはさすがにイメージと合わないかな? 撤回します。

 

 

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