毒なんて入っていないわよ?
「この後、駆けつけた警察の人たちの前で、探偵役である相談部の二人が推理を披露するの。……どう? ゆかりさん。何か分かった? 質問は三つまでよ?」
話を終え、さっそく訊ねると、ゆかりさんは少し考えてスケッチブックに文字を書きます。
その間にわたしは、喉を潤おそうとお茶が入った湯呑を持ち上げて、
「…………」
ほんの一瞬逡巡した後、ごくりとそれを流し込みます。少しぬるくなっていましたが美味しいです。
ゆかりさんがスケッチブックをこちらに向けたので、そちらへ目をやります。
〝毒なんて入っていないわよ?〟
見抜かれていました。
「いや、それはもちろんそうなんだけどね? 疑ったわけじゃないんだけど、こういう話をした後だと、ちょっと……ね?」
曖昧にはにかんだわたしを見つめるゆかりさんは、ご機嫌なにこにこ笑顔です。
「うう……。もうっ、ゆかりさん!」
なんだか今日はからかわれてばかりです。何か仕返しをしてみたくて、こんなことを言ってみます。
「それが一つ目の質問ね。さ、あと二つは?」
ゆかりさんはちょっと驚いて、首を傾げて、
〝質問なのかしら、これ〟
とスケッチブックに書き加えたので、あっさりと溜飲が下がりました。
それでも、つーんとした表情をしていると、ゆかりさんは、
〝ごめんなさい〟
と、神妙な顔で両手を合わせて上目遣いに訴えて来るものですから、
「……。……ふふっ」
わたしは堪え切れませんでした。ゆかりさんも笑顔に戻り、二人で笑い合います。
「それで、どう? ゆかりさん」
ゆかりさんはこくりと頷いて見せて、一つ目の質問を書きました。
〝毒は紅茶に入っていたのかしら? カップに塗られていたのかしら?〟
「え、それってなにか違いがあるの?」
訊ねながら、わたしは終盤の推理パートの文章に目を走らせていきます。
「あった。ええと、使われたのは液体状の薬物で、紅茶に入っていたみたい。あ……」
〝どうかした?〟
ゆかりさんが視線だけで訊ねてきます。
わたしは答えます。
「いや、小説の中で主人公のサヤカがゆかりさんと同じことを訊ねていて……」
そうです。小説の中に同じセリフを見つけてしまいました。
毒物が液体状だったと知った後、サヤカは警察の人に訊ねるのです。『それはカップに塗られていたの? 紅茶に混ぜられていたの?』と。
警察の人は、『紅茶に混ぜられていたようだ』と答えています。
わたしは思わず呻いてしまいます。
「むう。ゆかりさんの考えは答えに近いということね」
そういえば今思い返してみると、第一、第二の事件の時もゆかりさんは一見見方がおかしい、けれど的確な質問をしているように感じます。
もっとも、答えを知らないわたしにはどのくらい的を得ているのか図りかねますが。
ひょっとしてゆかりさんは、最初から犯人も動機もトリックももう全部分かっていたんじゃないでしょうか。
つまり、以前この本を読んだことがあって、それでわたしに気を遣って付き合ってくれているだけなんじゃ……。




