第三の事件 前篇
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狙撃。それはあまりにも明確な殺意でした。
ユウトとサヤカを始め、親族の人たちはここでようやく自分たちが何者かに狙われているという可能性に思い至ります。
一同騒然とするものの、しかし姿の見えない暗殺者を相手に有効な手だてなどなく。比較的冷静さを保てていたユウトたちが何とかその場を収めます。
とにかく、ひとりで行動することと窓の近くは危険だという意見から、全員が大広間に集まって一夜を明かすことになりました。
広い部屋を蝋燭の明かりで埋め尽くし、ユウトとサヤカとミカ、残った親族六人、加えて家政婦のミタさんと執事のサキモリさんは大きな長テーブルを囲みます。
話題は当然、亡くなった二人のこと。殺人者の存在が確かなものとなった今、皆口々にその正体を探ります。
果たして、遺産を狙う内部の者か。もしくは全く無関係の愉快犯か。状況的に後者はないと結論付けられました。
一人目の犠牲者である記者のシンさんも、偶発的な事故などではなく何か仕掛けられていたんじゃないか、という意見が出され、全員の顔が恐怖に染まります。
しばしの静寂。そして始まるのが親族同士の醜い言い争いです。
誰々は、多大な借金があって云々。
誰それは、経営が傾いていてかんぬん。
誰が誰にどれだけの恨みを持っていたからどうのこうの。
キリがありません。
部外者であるユウトとサヤカ、雇われただけのサキモリさんとミタさん、そしてまだ高校生のミカは完全に蚊帳の外でした。
そこで五人は洋館内を調べることにします。殺人者がうろついてはいないか、もしくは洋館内に侵入した形跡がないか、知っておく必要がありました。
本音を言うと、その場にいないミカの父親がやり玉に挙げられて、反論の余地なく言いたい放題言われている状況からミカを連れ出す口実が欲しかったのです。
こうして五人は、時に二手に分かれながら、真っ暗な洋館内を探索していきます。
懐中電灯を全部持ってきたので、闇の中を進むのにそれほど苦労はありません。
どこからか何者かが飛び出してくる恐れがありましたが、怒鳴り合っている中に居るよりはいくらか気が楽でした。
「私たちは部外者だから狙われる理由がないし、大人数を相手にいきなり襲い掛かってくるとは思えないわ」
サヤカの言葉にユウトが頷きます。
言いながら、しかし二人はミカから決して目を離さず、彼女を護るために周囲への警戒を怠りませんでした。