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ゆかりさんとわたし  作者: ユエ
2話 ゆかりさんとわたしと、洋館にて
36/79

楽しいからいいんじゃない?


 

「……ごめんなさい、ゆかりさん」



 突然謝られたことにびっくりしたのか、



〝どうしたの?〟



 と、ゆかりさんは首を傾げます。



「わたし、本の内容を事細かに暗記して話しているわけじゃなくて……。だからどんな風なのかちゃんと伝わっていないかも。そうなるとこの謎かけそのものが……」



 わたしは申し訳なさでいっぱいで、暗い気持ちになってしまいます。

 それでもゆかりさんが何やらスケッチブックに書き始めたので、顔を上げないわけにはいきません。


 ゆかりさんは、



〝楽しいからいいんじゃない?〟



 そう書いたスケッチブックを手元で掲げながら、にこやかな笑みを浮かべていました。



「ゆかりさん……」



 何を申し訳なく思っているのか本当に分からないといった様子で、わたしの話下手などまったく気にしていない様子で、そんなことを伝えてきます。



〝楽しいからそれでいいのよ〟



 同じ言葉をもう一度スケッチブックに書いて見せてきます。


 しかし、わたしは納得できません。



「楽しいって……。でも、ちゃんとした謎かけになっていないし」

〝謎かけを解くことが目的じゃないでしょ?〟



 ゆかりさんは裏側に素早く続きの言葉を書いて、スケッチブックを裏返します。



〝私たちは探偵でも警察でもない。事件をちゃんと解決する必要はないし、そもそも現実に事件なんて起きていない〟



 続きを書ききれなかったのでしょう。ゆかりさんは新しいページを開いて、さらさらと文字を書きます。

 わたしを励ます言葉を書き連ねます。



〝おしゃべりを楽しみたくて、ひとつの話題として持ってきてくれたのでしょう? なら、もう十分満足じゃない。みぃちゃんとお話しできて私はとっても楽しいわ〟

「それは、わたしも楽しいけど……」

〝なら、それでいいんじゃないかしら?〟



 屈託なく、甘く蕩けるような微笑みを投げかけられて。

 ぞくり、と背筋が痺れてしまったわたしは、もうそういう風にしか考えられなくなりました。


 ちゃんとしていなくていい。楽しむことが一番大事。


 会話が弾むタネになってくれれば、それで十分。



「うん……。ちょっと肩を張り過ぎたかも。不思議。ゆかりさんとはずっと一緒に居るのにね」



 遠慮しているわけでは決してないのですが、ゆかりさんを楽しませなければ、と意固地になっていたのかもしれません。


 そんな必要はありませんでした。

 こんなわたしと話しているだけで楽しいと、ゆかりさんはそう伝えてきてくれるのですから。

 その言葉を疑う理由はどこにも存在しません。


 わたしの呟きに、ゆかりさんは腕を回すように肩を上下に動かすジェスチャーをします。



〝リラックス、リラックス〟



 声なき言葉でしたが、十分に伝わりました。



「うん。ありがとう、ゆかりさん」



 ゆかりさんのアドバイスに心から感謝し、わたしは軽くなった気持ちのままに、ゆかりさんへの謎かけを再開します。


 今日のこのおしゃべりをもっと二人で楽しむために。



「じゃあ、次の事件ね」


 

 

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