さすが、ゆかりさんです
わたしは固まってしまって、頭の中を整理するために全機能を総動員させてしまっていて、ゆかりさんの見事な推理に対して反応を返すことができません。
その間、静かな居間にさらさらとペンを走らせる音だけが聞こえていました。
意識を戻します。
ゆかりさんは最後の謎について、色水の仕掛けとその方法についてスケッチブックで解説していました。
イラストつきでとても分かりやすいです。
まとめると、こう。
司書の先生は、色水を入れた物(ゆかりさんは水風船だと推測しています。お祭りで見かけるあれではなく、市販の風船を使ったお手製のものです。)を図書室に持ち込みました。
本と本の間にそれを挟みます。あらかじめ本棚から何冊か抜いておき、スペースを使って本を斜めらせ、その陰に水風船を置いたのです。
こうすれば、少しの振動で隣の本がバランスを崩して水風船の上に倒れ込み、押し潰して破裂させ、中身を飛び散らせます。
市販の風船なら大量の水が入りますし、空気も一緒に入れてパンパンにしておけばかなり広範囲に水を飛び散らせることができます。
ゆかりさんはそう結論付けました。
あの時聞いた破裂音は、つまりこれだったのです。
「でも、そんなもの本の間に挟んでおいたら、逢引き中とはいえさすがに二人の目に入るんじゃないの?」
わたしの疑問に、
〝じゃあ、こういうのはどうかしら?〟
ゆかりさんはすぐに代案を出してきます。
こちらもイラストつきです。凄いペンの速さでした。
心なしか、ゆかりさんは謎を解くことを楽しんでいるように見えます。
代案によると、風船は本と本の間ではなく本棚の板と本の間に挟まれています。
大判の本を壁に立て掛けておいて、下のあいたスペースに水風船を仕掛けたのです。
これなら大判の本の影に入って正面からでないと見つからない上に、少しの揺れで大判の本のバランスが崩れ、重力に従って水風船の方へ落下し、押し潰して破裂させます。
もしかしたら針か何かを取り付けておいて、より確実に風船が破裂するようにしておいたのかもしれないとのこと。
わたしは「なるほど……」と思わず口に出して感心してしまいます。
〝あとは驚いているあなたたちに気づかれないよう、率先して片付けを始めればいい。色水で汚れた本に割れた風船を挟んでしまえば、一緒に仕掛けの証拠を持ち出して処分できるわ〟
そして、ゆかりさんはくるりとスケッチブックを裏返します。
〝これにて、証明終了〟
それから、〝どう?〟と得意満面な笑みでわたしを見つめてきます。
わたしはもう、拍手するしかありません。
「すごい……。ゆかりさんって、すごい!」
ものすごく幼稚な感想ですが、それしか言えませんでした。
わたしの話からここまで納得のいく推理をしてしまうだなんて……。
ゆかりさんを尊敬する気持ちでいっぱいです。
〝あくまでこれは私なりの推論に過ぎないわ〟
ゆかりさんは恥ずかしそうに謙遜しますが、わたしはとてもすっきりしました。
胸のもやもやが消え去っています。
さすが、ゆかりさんです。




