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ゆかりさんとわたし  作者: ユエ
1話 ゆかりさんとわたしと、図書室にて
26/79

許せないわね


 

 ゆかりさんはわたしをからかって愉快そうに微笑んだのち、がらりと雰囲気を変えて再び訊ねてきます。



〝みぃちゃんは何が気になるのかしら?〟



 今度はちゃんとゆかりさんの所作を見ていました。


 メッセージを見逃さず、きちんと質問に答えます。



「えっと、それが良く分からなくて……」



 とはいえ、曖昧にそうとしか返せないのですが。



「逢引きをしていた二人を庇うわけではないんだけど、本当にあの二人がやったのかなって思ってしまって……。クラスの図書委員の子に聞いたんだけど、本の破損、つまり本が汚される事件がやっぱり最近多いみたいなの」



 ゆかりさんはスケッチブックに質問を書きます。



〝その二人以外にも逢引きをしている生徒がいたということ?〟

「たぶんそう。全然気がつかなかったけれど。ただ、全部が全部そういう、……その、あ、あれで、……そういうもので、汚されたわけじゃないみたい」



 思わずしどろもどろになるわたしを見て、ゆかりさんはふふふ、と笑います。


 スケッチブックの裏面をくるり。



〝恥ずかしがる顔、可愛い〟



 顔から火が出そうでした。



「と、とにかく! 今回みたいに色水を使ったりした意図的にいたずらで汚される本が増えていて。そういうのが全部あの二人のせいにされそうなの。それに……」



 詰まってしまったその言葉の先を、ゆかりさんが引き継ぎます。



〝そっちの件でも容疑者として疑われているのね?〟



 わたしは弱々しく頷きます。



「うん。放課後に図書室に居ることが多いから。本当に一応念のためということらしいけど……。正直、良い気分じゃないかも……」



 ゆかりさんは同情するように深々と頷いてくれました。


 そして、スケッチブックに書きます。

 それは、たったひと言。



〝許せないわね〟

「ゆかりさん?」



 くるりと裏返し、



〝そんなことでみぃちゃんを疑うだなんて、許せないわ〟



 ゆかりさんはスッと眼差しを細めます。まるでここにはいない誰かを睨みつけるように。


 もしかして、怒ってる?



「あの、ゆかりさん?」



 問いかける声に返事はありません。


 ゆかりさんは瞳を閉じると、一つ間を置き、スケッチブックにペンを走らせて、



〝一度、整理してみましょうか〟



 そう切り出しました。



「整理?」



 ゆかりさんはこくりと頷きます。

 それからスケッチブックに矢継ぎ早に質問を書き連ねます。


 わたしが答える前に次の質問を裏面に書くので、会話に合間がなくなります。



〝そもそも、みぃちゃんはどうしてその二人が犯人だと思わないのかしら?〟

「えっと……」

〝何が引っかかっているのかしら。思い出してみて〟

「そう言われても。ううん……」

〝違和感を覚えているのは、二人の会話を聞いている時? それ以外?〟

「……聞いている時ではないと思う」

〝それは図書室の中? それ以外?〟

「図書室にいた時かな?」

〝つまり、事件が起きてその直後。もしくは後片付けの時ということね〟

「うん。そうだね」

〝じゃあ、どっちかしら?〟

「……直後じゃなかった気が―――あ」



 突如、頭の中でその瞬間がフラッシュバックします。


 図書室の床に飛び散った色水と、それに汚されてしまった本。


 率先して片づけに入る先生と相原さん。


 後ろで怪訝そうな顔をする半裸の逢引き男女……。



「そう、後片付けをしている時よ! 入れ物が、容器がなかった!」



 それが違和感の正体でした。


 本を真っ赤に汚した色付きの水は、つまりは液体。

 それを入れる容器がなければ、持ち運ぶことも図書室に運び入れることもできません。

 後片付けをしている際中、そういったものをまったく目にしなかったのです。



「あの時二人とも制服を脱いで水を払ったり絞ったりしていたから、隠し持ってはいなかっただろうし……。そうよ、あの二人が色水を持ち込んだのならその容器が出てこないのはおかしい。変よ!」



 満足そうな笑みを見せるゆかりさんは、とっくにこのことに気づいていたのでしょう。


 わたしから話を聞いただけで違和感の正体を見抜くなんて、信じられません。何という推察力でしょうか。


 今気づいたばかりのわたしは、湧き上がる考えを少々大きな声で吐き出します。胸のつかえがとれたようにすごくすっきりしました。


 ですが、そこで新たな疑問が出てきます。



「でも、そうなると、誰がどうやって色水を持ち込んで、どうしてあんなことをしたのかな。それに一体どうやって……」



 押し寄せる思考の波に飲まれて、またも考え込んでしまうわたし。


 ゆかりさんの細い指先が、ちょん、とわたしの頬を突きます。

 意識を戻すと、目の前でゆかりさんが自分の胸をとんとんと叩きました。



〝落ちついて〟



 そう言っているようでした。


 

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