表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆかりさんとわたし  作者: ユエ
1話 ゆかりさんとわたしと、図書室にて
24/79

おかえりなさい


 

 その翌日、飛んでさらに次の次の日。


 三日後。


 そろそろな気がしていました。今日あたり返って来てくれるんじゃないかと、胸の奥がざわめいたのです。

 わたしは放課後になるとさっさと高校を出て、軽やかな足取りでゆかりさんのお家へと向かいました。


 勢いよく扉を開きます。


 果たして。

 彼女はそこに居て、何も変わらずわたしを待っていてくれました。

 


「おかえりなさい、ゆかりさん!」



 にこやかに出迎えてくれた彼女へ、挨拶もそこそこに寄り添います。


 まずはちゃんと帰って来てくれたお礼と、何か変わったことは無かったか、少しだけなら遊んでいっても大丈夫か。

 そういう心配事を口に出して伝えます。

 

 ゆかりさんは嬉しそうに目を細めて可憐に微笑み、スケッチブックの紙面を見せてきます。

 そこには既に文字が書かれていました。



〝待っていたわ。みぃちゃんならいつでも大歓迎よ〟



 わたしの考えていることなど、何でもお見通しのようです。


 いつもの縁側に面した居間に入ると、既に布団が敷かれていました。ゆかりさんはそこに腰を下ろします。

 わたしが来るまで横になって休んでいたようです。


 ゆかりさんはお布団が好きな人で、暇さえあれば毛布に包ってごろごろしています。寝たきりの生活の影響でしょうか?


 せっかくの楽しみを邪魔されたくはないでしょうし、今日の家事は全部代わってあげるつもりで密かに気合いを入れます。


 そんなわたしを見つめ、ゆかりさんはさらさらと言葉を書き、スケッチブックを見せてきます。



〝それで、何があったの?〟



 簡素に書かれたその言葉は、わたしをドキリとさせます。

 何かあったことを前提に訊ねられています。そんなに顔に出やすいタイプでしょうか、わたし……。



「えっと……、何がって、なあに?」



 にこっ、と愛想笑いを作ってみますが、じとっ、ととした半眼で見つめられてしまえばもうごまかせません。


 吊り上げた頬がひくっと引き攣ってしまいます。


 ゆかりさんは両手を伸ばし、わたしの両の頬をつねって軽く左右へ引っ張ります。



「いひゃいわ、ゆかりしゃん……」



 実際はまったく痛くありませんが、ひんやりと大変心地良いですが、そんな風に言ってみます。


 するとゆかりさんは、ぱっと手を離してわたしを解放し、それから頬をわざと大きく膨らませます。



〝正直に話してくれないと怒るわ〟



 上目遣いに見つめてくる黒い瞳が、そう訴えかけてきます。


 ゆかりさんは無口ですが、その代わりとするため表情がとても豊かな子です。


 クールな雰囲気を持つ彼女の無邪気な変化がとても好きで、だからこういう風に見つめられてしまうともう隠し事なんてできないのです。



「ごめんなさい、ゆかりさん。ちゃんと話すから怒らないで?」



 借りてきた本の話題はまた今度ということになりそうです。


 本当は、わたしはゆかりさんに図書室での事件のことを聞いてもらいたかったのかもしれません。


 彼女に話せばわたしの胸のわだかまりがすっきりするかもしれないと、そんな風に思って、そうやってまた彼女に頼ってしまうのです。


 だからせめてもと思い抵抗したものの、結果は惨敗。

 これもまたいつものことでした。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読了、ありがとうございました。
感想・評価いただけると嬉しいです! 最新話下部にあります!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ