おかえりなさい
その翌日、飛んでさらに次の次の日。
三日後。
そろそろな気がしていました。今日あたり返って来てくれるんじゃないかと、胸の奥がざわめいたのです。
わたしは放課後になるとさっさと高校を出て、軽やかな足取りでゆかりさんのお家へと向かいました。
勢いよく扉を開きます。
果たして。
彼女はそこに居て、何も変わらずわたしを待っていてくれました。
「おかえりなさい、ゆかりさん!」
にこやかに出迎えてくれた彼女へ、挨拶もそこそこに寄り添います。
まずはちゃんと帰って来てくれたお礼と、何か変わったことは無かったか、少しだけなら遊んでいっても大丈夫か。
そういう心配事を口に出して伝えます。
ゆかりさんは嬉しそうに目を細めて可憐に微笑み、スケッチブックの紙面を見せてきます。
そこには既に文字が書かれていました。
〝待っていたわ。みぃちゃんならいつでも大歓迎よ〟
わたしの考えていることなど、何でもお見通しのようです。
いつもの縁側に面した居間に入ると、既に布団が敷かれていました。ゆかりさんはそこに腰を下ろします。
わたしが来るまで横になって休んでいたようです。
ゆかりさんはお布団が好きな人で、暇さえあれば毛布に包ってごろごろしています。寝たきりの生活の影響でしょうか?
せっかくの楽しみを邪魔されたくはないでしょうし、今日の家事は全部代わってあげるつもりで密かに気合いを入れます。
そんなわたしを見つめ、ゆかりさんはさらさらと言葉を書き、スケッチブックを見せてきます。
〝それで、何があったの?〟
簡素に書かれたその言葉は、わたしをドキリとさせます。
何かあったことを前提に訊ねられています。そんなに顔に出やすいタイプでしょうか、わたし……。
「えっと……、何がって、なあに?」
にこっ、と愛想笑いを作ってみますが、じとっ、ととした半眼で見つめられてしまえばもうごまかせません。
吊り上げた頬がひくっと引き攣ってしまいます。
ゆかりさんは両手を伸ばし、わたしの両の頬をつねって軽く左右へ引っ張ります。
「いひゃいわ、ゆかりしゃん……」
実際はまったく痛くありませんが、ひんやりと大変心地良いですが、そんな風に言ってみます。
するとゆかりさんは、ぱっと手を離してわたしを解放し、それから頬をわざと大きく膨らませます。
〝正直に話してくれないと怒るわ〟
上目遣いに見つめてくる黒い瞳が、そう訴えかけてきます。
ゆかりさんは無口ですが、その代わりとするため表情がとても豊かな子です。
クールな雰囲気を持つ彼女の無邪気な変化がとても好きで、だからこういう風に見つめられてしまうともう隠し事なんてできないのです。
「ごめんなさい、ゆかりさん。ちゃんと話すから怒らないで?」
借りてきた本の話題はまた今度ということになりそうです。
本当は、わたしはゆかりさんに図書室での事件のことを聞いてもらいたかったのかもしれません。
彼女に話せばわたしの胸のわだかまりがすっきりするかもしれないと、そんな風に思って、そうやってまた彼女に頼ってしまうのです。
だからせめてもと思い抵抗したものの、結果は惨敗。
これもまたいつものことでした。




