容赦はありませんでした
司書の先生が神妙な表情で頷きを返したので、逢引き男女はぎょっと目を剥きます。
「おい!」
「ちょっと!」
「違えよっ! ふざけんなよ! あんな赤い水のことなんて、オレら知らねえよ!」
「そうよ! 言ったでしょ! 誰かのイタズラだって!」
二人は必死で訴えかけますが、無情にも先生の首は横へ振られました。
「勘違いしないで。色水の件についてはまだ取り調べ中。あなたたちに降すのは、淫行と図書室の本の破損についてよ」
「だからそれは!」
「証人がいて、証拠がある。言い逃れはできないわ」
「……っ!」
司書の先生からぴしゃりと言われ、逢引き男子は二の句が継げなくなりました。自然と逢引き女子も黙り込みます。
言葉を失った二人を前にして、厳格な神罰の執行者のように先生は続けます。
「あなたたちの処分は職員会議で決定します。ふしだらな密会も、器物破損行為も、どちらかひとつとっても重大な校則違反です。どんなに軽くても一ヶ月の停学。退学もあり得るから覚悟していなさい」
そこへ相原さんが追い打ちをかけます。
「どうせ色水のことだって、あんたたちが持ち込んだんでしょ。ポケットか何かに入れていた入れ物をぶつかった衝撃でぶちまけてしまったんじゃない? もしくはわざと本を汚そうとして失敗したとか? 間抜けな話ね」
完全に優位に立った相原さんに、逢引き男子は苦い顔をして反論を口にします。
「んなことしてねえよ……」
声にまったく迫力がありません。意気消沈です。
ここぞとばかりに相原さんは不敵に微笑みます。
「はっ、どうだか。ついさっき平気で嘘を吐いたような人の話を誰が信用するものですか!」
「…………」
それをあなたが言うんですか?
そう思いましたが、心の中に閉まっておくことにしました。
司書の先生は、当然の如く相原さんに同意します。
「もしそうなら、退学処分は免れないわね。せいぜい自分たちの行いを反省しつつ、大人しく処分が降るのを待つことね」
容赦はありませんでした。
傍から見ていて少し言い方がきついような気もしましたが、そうです、この人は図書室の司書の先生で、本に愛情を注いでいる人でした。
相原さんと同じく、いえ、それ以上に。逢引き男女がやらかした本への侮辱行為に激しい怒りを感じているのでしょう。
「…………」
「…………」
顔を伏せて黙り込む逢引き男女を、わたしは少しだけ可哀想に思いました。
好きな人とずっと一緒に居たいという気持ちが分からなくもないだけに、ほんの少しだけ同情しました。
この結果の一因が自分にあることを改めて意識して、
「…………」
わたしはつい、二人から顔を逸らしてしまいました。