低脳なサルどもの馬鹿騒ぎ
「どうしても嫌なら耳を塞いでいなさい」
図書委員さんは何でもないことのように平然とした様子でそう言って、携帯電話を取り出します。
「誰か助けを呼ぶんですか?」
わたしは縋るような気持ちで訊ねますが、図書委員さんは無慈悲に首を横に振ります。
「いいえ。盗撮するの」
「な、何を……?」
「低脳なサルどもの馬鹿騒ぎ」
「…………」
何というか。
唖然とする、とはこのような気持ちのことを言うのでしょう。
発言が衝撃的過ぎて、絶句でした。
辛辣な言葉で比喩する図書委員さんは、堪え切れない静かな怒りを胸の内に秘めているようです。
口元が若干引き攣っています。眼鏡の奥の瞳がきつい光を放っています。
あまり聞きたくないような気もしますが、気になったのでわたしは訊ねることにします。
「録画したものを二人に聞かせて、もうやめるように言うつもりですか?」
「違うわ。先生に突きつけてあの二人を処分してもらうのよ」
「しょ、処分って、退学? 何もそこまでしなくても……」
返ってきた答えに、思わずわたしは苦言を呈します。
好きな人と一緒に居ることで嬉しくなって浮かれてしまう気持ちは、まあ分からなくありません。
もちろん時間と場所を弁えず、やり過ぎるのは良くないと思いますが。
しかし、図書委員さんの怒りは収まりません。
「いいえ。神聖な学び舎で淫らな行為に及ぼうとする素行不良者を見過ごすわけにはいかないわ」
「ですが、誰かに迷惑をかけているわけでは……」
「私とあなたがまさしく奴らの被害者じゃない」
「それはそうかもしれませんけれど……」
「それに、実害が全くないわけじゃないのよ」
図書委員さんはそう前置きして、つらつらと恨み言を吐き出します。
「最近、汚されてしまう本がとても多いの。そういう本はもう貸し出せないから捨てるしかないわ。やっているのはあの連中よ。みんなが手に取る本を破損させるなんて許せないわ。どういう風に汚れていたかはどうか訊かないで。言いたくないから」
「わたしも聞きたくありません、そんなこと……」
想像もしたくありません。
頭が痛くなりそうです。既にくらくらしています。
図書委員さんは手元の携帯電話を構え直します。
「そういうわけだから、私には彼らの行動を監視して、先生に報告する正当な理由があるの。図書委員として、これ以上本を破損させる現場を見過ごすわけにはいかないわ。悪いけど大人しくしていてね」
「これから起こることも聞きたくないです……」
涙ながらの訴えかけは、残念ながら無視されてしまいました。