表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆかりさんとわたし  作者: ユエ
1話 ゆかりさんとわたしと、図書室にて
14/79

放課後の徘徊

一章開幕です。

放課後の図書館を徘徊していたわたしを襲う、ちょっとしたミステリな出来事。どうぞ、最後まで楽しんでいってください。

 

 


 

 その日、わたしは放課後の校舎を徘徊していました。


 夕暮れが近づく校庭では運動部の人たちの元気の良い声が響き、校舎内では吹奏楽部の練習演奏を背景音楽に文科系の部活動が行われています。


 どこにも所属していないわたしは、そんな賑やかな喧騒の中を目的もなく歩き回っています。


 強いて言うのなら、何か面白いことはないか、変わったことは無いかとそんなことを考えながら。


 普段はこんな怪しい行為などしないで、ホームルームが終わり次第真っ直ぐゆかりさんのお家に向かうのですが、今日ゆかりさんはそこに居ません。

 病室で眠る身体の所に居ます。


 時々そういうことがあるのです。

 気分的に近くに居たい日があるのだとか。


 良く分かりませんが、それは自分の身体のことなんですから、気に掛けて当たり前でしょう。


 普段は家の敷地から出られない彼女ですが、そういう気分になると決まって病室に入れてしまうのだとか。

 不思議な話です。


 本当は気分どうこうの問題ではなくて、肉体が魂を呼び戻そうとしている表れなんじゃないかとわたしは勘ぐっているのですが、ゆかりさんに訊ねても判然とせず。


 それなら変に問い詰めたりしないで、自由にさせてあげるのが一番でしょう。


 昨日の夕食時、ゆかりさんは、ちょっとそんな気分になったから明日行ってくるね、と書いたスケッチブックをわたしに見せてきました。


 というわけで、わたしは持て余した時間を使い、何か面白いことは無いかと校内を徘徊しています。


 病室に行けば会えるのかというと、まあ確かにそうなんですが、しかし。ゆかりさんの姿を見ることができるのはわたしだけ。


 眠っているゆかりさんに声を掛けるふりを装うことはできますが、それでもいつも通りのやり取りをするわけにもいかず。

 結局、病室でぼんやりしているしかありません。


 そんなことをしていれば、当然お母さんに気を遣わせてしまうだけなので、ここは素直に大人しくしています。気になりますが、仕方ないのです。


 それにきっと、ゆかりさんも自分の身体が気がかりで、わたしと遊ぶ余裕はないはずです。


 数日もすれば、ゆかりさんはまたあの古風なお家に戻って来てくれるので大丈夫……なはず。



「……って、わたしが暗くなっても意味ないか」



 ひとつ深呼吸をして、胸のざわざわを掃出し、すっきりと気持ちを切り替えます。


 気に病んではいけません。

 わたしは待っていればいい。

 そうすればまた楽しい日々が、ゆかりさんと過ごす大切な時間が訪れます。


 あと数日の辛抱です。


 たとえ、明日が駄目でも明後日があります。もっと長くゆかりさんに会えなかった時期もあるのです。

 心に余裕を持って気長に待ちましょう。


 そして、帰ってきたゆかりさんに笑顔でおかえりなさいをしましょう。



「よし」



 そのためにも、わたしは放課後の徘徊を続けます。


 ゆかりさんを楽しませることができそうな、彼女の退屈を晴らせるような、奇妙な話のタネを求めて。


    

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読了、ありがとうございました。
感想・評価いただけると嬉しいです! 最新話下部にあります!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ