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ゆかりさんとわたし  作者: ユエ
0話 ゆかりさんとわたし
10/79

絶句。硬直。からの赤面。

 

 

 それから十年。


 小学生の時も、中学生の時も、高校生になった今も。ゆかりさんと過ごす日々が楽しみで、楽しくて、仕方がなくて。


 わたしは、ゆかりさんの側で彼女とともに生きてきました。何よりも彼女と居る時間を優先してきました。

 それはゆかりさんが眠りに就いたあの日も、その後も、ずっと変わることなく。


 そんなわたしに、ゆかりさんは伝えてきます。



〝私とばかりじゃなくて、他の友達を作った方がいいわ。だって、みぃちゃんはこんなにも素敵なんだから。きっと良い友達が見つかるし、私なんかよりもそういう子たちと楽しく遊びたいでしょう?〟



 そんな文字をスケッチブックに見つけたわたしの返しは、



「わたしが遊びに来ると迷惑かな……。わたし、ゆかりさんの負担になっている?」



 つい、そんな風に訊いてしまいました。


 すると、彼女は猛烈に首を振って、



「そんな訳ないでしょ!」



 鈴のように澄んだ声で、わたしを叱りつけました。


 めっきりと口数が減った彼女の声を聞いたのは、これで何回目になるのか。

 正確には覚えていないけれど、数えきれる程度にしかなくて、思わず。



「ゆかりさんの声、きれい……」



 うっとりと、場違いにもそんなことを呟いたものですから、ゆかりさんは困惑顔で憮然と眼差しを細めます。



「ご、ごめんなさい。おかしなことを言って。ええと、違くて、そうじゃなくて!」



 身振り手振り満載で弁明するわたしの様子が、あまりにも間抜けだったのでしょう。


 ふふっ、とゆかりさんは堪え切れずに吹き出して、楽しそうに身体を揺らして。

 それからまなじりの涙を拭いて、



「こんなことで喜んでくれるのなら、じゃあこれからはこうしていようかしら」



 言葉に声を乗せて、わたしに微笑みかけてきます。

 晴れた空のように透き通った、本当にとてもきれいな声です。いつまでも聞いていたいくらい。


 でもそれは、とても小さく儚げで。今にも壊れてしまいそうで……。


 わたしは慌てて首を振ります。



「ああっ、違うの。そうじゃなくて。ゆかりさんの声はきれいでずっと聞いていたいけれど、でもたまに聞くからレアというか、すごく幸せな気持ちになれて!」

「ふふふ、そう?」

「そうなの。だから決して無理をさせたいわけじゃなくてっ」

「わかった。じゃあ、最後にこれだけは言わせて」



 ゆかりさんは穏やかな顔をしていますが、相当無理をしているはずです。こんなにも長くしゃべる彼女を見るのは初めてでした。


 そんな焦りを感じながら、わたしは早く会話を終わらせたくて、無理をさせたくなくて、意味もなく早口で訊ね返します。



「な、なあに?」

「私、みぃちゃんのことが大好き」

「………………………………え?」



 絶句。硬直。からの赤面。


 二の句が継げなくなったわたしに構わず、ゆかりさんはさらさらとスケッチブックにペンを走らせ、



〝だからずっと側に居てね〟



 にっこり笑顔で、そんな紙面をわたしに向けてくるのだから、もう……。


 わたしがなんとか再起動するまで、しばらくかかりました。


 その間、ゆかりさんは楽しくわたしの様子を観察していたそうです。


 

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