表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆかりさんとわたし  作者: ユエ
0話 ゆかりさんとわたし
1/79

ただいま?

 

 学校からの帰り道。


 ”寄り道はせずに真っ直ぐお家に帰りましょう”なんて、小学生の時からよく耳にしている注意事項だけど、わたしは毎日のように寄り道をします。


 いつものコンクリートの道路を通り、見慣れた四つ角を右へ曲がり、左右を木の塀で挟まれた入り組んだ道のりを間違えないように進みます。


 先の注意喚起に真っ向から反しているけれど、わたしにとってはこれが日々の習慣だから。昔から繰り返されてきたことだから。それこそ小学校に通い始める前からずっと。

 

 とはいえ、物覚えの悪いわたしは、未だにそこへ至る道のりを空で言って誰かに伝えられるほど暗記できてはいません。そこまでの道のりは複雑です。


 誰か他の人に説明するとしたら、それはしどろもどろの滅茶苦茶なものになってしまい、ひどく相手を混乱させることになるでしょう。


 そうなる自信があります。目指す場所へは、いくつかの目印を経てようやくたどり着くのです。


 それはたとえば、電柱の陰の駄菓子屋さん。

 ぽつんとひとつだけ立っている寂れた自動販売機。

 四つ角の石塀の下の方に空いた穴。通称ネコの通り道。名付けたのはわたし。


 そういう目印を八つほど目にして、通り過ぎ、最後の角を曲がった突き当り。その建物はあります。

 石塀に囲まれた広い前庭を持つ、純和風建築の古めかしい日本家屋。ゆかりさんのお家です。



「こんにちは、ゆかりさん」



 玄関のガラスの引き戸を開きながら、わたしは薄暗い家屋の中へと挨拶を投げかけます。

 すると、奥の部屋から”コン、コン”と乾いた音がしました。中指の背で木製の板を叩いたようなその音は、いらっしゃいの合図です。



「おじゃまします」



 靴を脱いで揃え、わたしは家屋の奥の部屋へと向かいます。

 

 若草香る初夏だというのに、廊下はひんやりとした空気に満たされています。


 縁側に面した襖を薄く開けると、そこは十二畳ほどの部屋で中央に布団が敷かれていて、そこにいた儚げな少女と目が合います。


 半身を起こした彼女は、わたしににこりと笑顔を見せ、いつもの言葉を手話で伝えてきました。



〝おかえりなさい〟

「えと……」



 ゆかりさんがこう言うのはいつものことですが、ここはわたしの家ではないので、やはり少し戸惑いがちになってしまいます。


 ひとつ間を置き、



「ただいま?」



 曖昧な笑みを浮かべるわたしに、ゆかりさんはさらに目を細めて微笑みかけてくれるのでした。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読了、ありがとうございました。
感想・評価いただけると嬉しいです! 最新話下部にあります!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ