希望を守る者 #6
警察官と女子高生を救けたガーディマンは逃げているジュパーを探しつつ、こんな事を考えていた。
あの制服、僕の学校の制服に似てたな。でも誰だろう? 身長高かったから先輩かな? 駄目だ全然分からないや。後でフワリ姉に聞いてみよう。
重力から解放されたガーディマンは空を飛びながらお腹を抑える。腹痛ではない。お腹がすいてきたのだ。
生き物は力を使うとお腹が減る。それは金属生命体でもある彼にも当てはまる事だ。
マズイな。朝ごはん食べてきたのにもうお腹すいてきた。力使いすぎたな。
早く見つけようと血眼になって探していると、ユウタのオーパスが着信を告げる。
こんな時に誰……わっ、フワリ姉からだ。
無視する訳にもいかず、視界にオーパスの液晶画面を表示させ、右手で操作して電話に出る。
「もしもし」
まるで本当の姉のように優しげな声音がガーディマンの鼓膜を震わせる。
『もしもしフワリだよ。ユーくん、まだ学校につかないの? 教室にもいないし、そろそろ予鈴鳴っちゃうよ』
彼女の名前は照愛浮羽凛。マンションの同じ階でお隣に住む一つ上の幼馴染だ。
「ごめんフワリ姉。えっとちょっと……」
必死に言い訳を考えるもうまいこと思いつかず、更に逃げている車も探しているので余計に集中できない。
『ユーくん。そっち、すごい風吹いてるみたいだけど何かあった?』
「風?」
「うん。ゴーゴーってすごい唸ってるよ」
それはきっと空を飛んでるからだよ。なんて言えないよな……そうだ!
フワリの言葉からヒントをもらいユウタはこんな言い訳を考える。
「そう、そうなんだよ。強風で飛ばされた石が、電車の窓ガラスを割って、そのせいで止まっちゃったんだ」
『大変! 怪我してる人はいない? ユーくんも大丈夫なの?』
信じてくれたようだが、彼女の優しい性格につけ込んで嘘をついたので、ユウタの心に小さな棘が刺さったような痛みが走る。
「誰も怪我してないし、僕も大丈夫だよ」
嘘ついてごめん。あっ、あの車!
フワリとの会話中に、視界に動くものを捉えた。
「あっ、そろそろ動くみたいだから電話切るね」
『うん、分かった。先生にはフワリから言っておく。それと急いでいる時は周りに気をつけてね。そういう時が一番危ないんだから』
「心配してくれてありがとう。じゃあ学校で』
通話を終える直前、チャイムの音を捉える。
今のは予鈴、あと五分しかない。
黒のワゴンを止める前にユウタは時間配分を考える。
三分で捕まえて、その後、全速力で飛べば一分で学校に着く。よし、それで行こう。
「タイマーを三分にセットしてスタート」
『セットしました』
ユウタはオーパスに指示を出しタイマーを起動させた。視界に表示された時間が規則正しいリズムを刻んで減っていく。
改めて確認のため道路に目を落とす。
走っているのは二台。後ろから、赤色灯を点滅させているのがパトカーで、その前を逃げるように走るのは黒いワゴンだ。
ワゴンの屋根に降りてそのまま中に突入して捕まえる!
ガーディマンはワゴンのルーフに降りる為に、両腕を脇にくっつけて降下姿勢をとり、重力に捕まった流星のような勢いで落ちていく。
降りる途中、ワゴンの割れた後部ウィンドウから細い鉄の棒が何本も生えてくるのが見えた。
あれは……マズイ! このままじゃパトカーが蜂の巣だ!
計画を変更し、スピードを上げて降り立ったのは、パトカーのボンネットの上だった。少し勢いが強すぎてへこんだような感触を感じたが気にしない事にする。
もし何か請求されたらCEFに何とかしてもらおうっと。
「うわ! なんだ一体⁈」
後ろを振り向くと、車内の警官二人が、突然落ちてきたガーディマンに驚いているようだ。
「早く降りなさい! 前が見えない」
「すいません。ハンドルはそのままでお願いします」
ガーディマンは警察に謝ってから正面を見据え、音声入力で第一ロックを解除する。
「《シルドウォール》!」
次に、両手の人差し指と中指を立てて、先端にエネルギーを集中させ、正面に長方形を描くように動かして第二ロックが解除された。
前方に現れたのは、エメラルド色の長方形のバリアーで、大きさはガーディマンのみならず、パトカーの幅いっぱいに広がる。
その直後、ワゴンから生えていた鉄の棒に見えた六つの銃身が一斉に火を吹いた。
車も人も易々と貫く弾丸がエメラルドグリーンの壁に激突し、二人の警官は身を守る為に同時に頭を下げた。
音速を超える弾丸は氷を削るアイスピックのようにアスファルトを削り取っていくが、パトカーには届かない。ガーディマンが作り出したバリアーであるシルドウォールが防いでいるのだ。
銃撃を防いだまま、後ろの警官に声を掛ける。
「このままアクセル全開でお願いします」
意図を汲んでくれたのか、パトカーのスピードが上がり、銃撃を物ともせずにワゴンとの距離を詰めていく。
弾丸は防げても、流石に音までは防ぐことが出来ず、エネルギーの壁に阻まれた百発以上の弾丸が火花を散らして爆発するように消滅する音と、風船のような破裂音が三人の頭の中を駆け巡る。
突然銃撃が止んだ。飛行機のエンジン音のような耳鳴りがする中、その一瞬の隙をついてワゴンに乗り込もうとすると、段々とパトカーの速度が落ちて距離が開いてしまう。
下を覗くと、片方の前輪のタイヤに穴が開いてパンクしていた。恐らく防ぎきれなかった銃弾が当たってしまったのだろう。
こうなってしまっては車は走れない。ワゴンはそんなパトカーを嘲笑うように速度を上げて離れていきカーブを曲がってビルの陰に消えてしまった。
「もう少しだったのに、あの、大丈夫ですか?」
車内に声をかけると、二人の警官から返事が帰ってくる。どうやら大きな怪我はしていないようだ。
「僕は犯人を追います。パトカーへこませちゃってごめんなさい!」
ガーディマンは謝りながら走り出し、勢いよく飛んで背中のアンチグラビティブースターを発動させて逃げるワゴンを追いかけた。




