希望を守る者 #2
多くの人々が目覚め出勤や通学で道を埋め尽くす早朝。
横断歩道で信号が赤から青に変わるのを待つ人の集団の中に、少しサイズの大きい青のブレザーを着た頭一つ小さな少年がいた。
「ふわぁ〜」
欠伸をして大きな黒い瞳に涙を溜めた彼の身長は百五十五センチ。猫のように背中を丸めているので、余計小さく見え、背中の緑のリュックも亀の甲羅のように大きく見える。
「眠い……」
声変わりをしておらず、まるで女の子のような声音と可愛らしい顔立ちで、ショートカットの女の子に見えるし、実際よく間違えられる。
インドア派なので、日焼けしていない白い肌も女の子に間違えられる原因の一つだ。
空気を含んだような柔らかそうな黒髪に幼い顔立ちから、中学生くらいに見えるが、れっきとした高校一年生である。
欠伸をした表情もどこか微笑ましい彼の名前は星空勇太。ちょっと幼い印象のどこにでもいる高校生だ。
昨日ガーディマン見すぎたなー。いやでもあの回は前後編一気見しないとね。
横断歩道で待っている間、何度目かの欠伸を噛み殺しながら、ユウタは深夜見た大好きなアニメを思い返していた。
面白かったけど、フワリ姉には悪いことしちゃったな。学校で会ったら謝らないと。
夜更かししてまで見た代償で寝坊してしまい、待たせるのも悪いので、いつも一緒に登校する幼馴染は先に学校に向かってもらった。今頃学校に着いている頃だろう。
『……マンによって倒された怪獣を操っていた犯人は、昨日潜伏していた拠点に突入したCEFによって逮捕されました。次のニュースです……』
信号を待つ間、耳に入ってきた声の方を見ると、街頭ビジョンに女性アナウンサーが映り、今日起きたニュースを読んでいた。
『今日早朝、護送中に逃げ出したジュパエル星人は三時間経った今も発見されておりません』
まだ捕まってないんだ。
他の人は街頭ビジョンに目をやっても、すぐに興味を失い腕時計や携帯端末に目を戻している中で、ユウタだけが食い入るように見ていた。
『市全体に検問をはっていますが、手掛かりは見つかっておらず、警察では内通者及び脱獄を手助けした協力者がいると見て……」
ニュースに白と黒の縞模様の囚人服を着た囚人の写真が映し出される。純金のラグビーボールを縦に置いたような楕円形の顔に、雀蜂のような凶悪な目を持ち、鼻や口らしきものは見当たらない。
一番目を引くのは、流れる川のように滑らかな頭部から肩まで伸びた金髪だ。
写真と共に脱獄囚の名前が表示される。彼女の名前はジュパー。地球の宝石店を狙う連続窃盗犯で捕まっては脱獄して又捕まるを何度も繰り返していた。
『目撃者の証言によると、犯人と良く似た容姿の警察官が黒いワゴンに乗り込むのが目撃されており、犯人は警察官の格好をしていると思われます。今日の特集は、私達が地下生活から解放されて二十年……』
穴が開くように街頭ビジョンの写真を見ていたせいで、青信号が点滅しているのに気づくのが遅れた。
あっ、しまった。
歩き出そうとするも時すでに遅し。すでに信号は点滅を止め赤く点灯してしまった。
流石に車が行き交う中横断歩道を通るわけにはいかないが、ここ最近遅刻が増えていて、できる事なら今にも走り出したい気分だ。
母さんにバレたら大変だ。お小遣い減らされちゃうよ。
ユウタにとって、成績云々よりも、お小遣いの増減の方が死活問題である。何故なら欲しいグッズが買えなくなってしまうから。
慌てて街頭ビジョンの時計を確認して、ユウタは安堵の溜息をついた。まだ時間に余裕はあった。
次の電車に乗れば五分前には間に合うな。
そんな事を思いながら次の青信号を待っていた時だった。遠くから、複数の甲高い音が聞こえてくる。パトカーのサイレンだ。
その音を聞いてユウタのみならず、後から来て横断歩道で待っている人達も、何事かと音が聞こえる方に目を向ける。
パトカーのサイレンは珍しくない。ただ音が大きくなっている。どうやらこちらに近づいてきているようだ。
横断歩道を走るエレカ達が警告音を鳴らし、操られるように一斉に歩道側に寄る。内蔵されたAIが緊急車両の接近を感知したからだ。そして横断歩道前にも通行禁止のフェンスが勢いよく下から現れた。
一般車両が道の脇に整列した直後、黒い車とサイレンを鳴らすパトカー二台がユウタと通行人達の目の前を通り過ぎる。
車を追ってる?
パトカーは事件現場に急行しているわけではなかった。逃げるように走る黒いワゴンを追いかけていたのだ。
逃げるワゴンと追うパトカーが通り過ぎた直後、横断歩道のフェンスが解除され、信号が青に変わった。
それを待っていた人たちは何事もなかったかのように車道を横断していく中にはオーパスの液晶に目を落としている人もいて、今の出来事を呟いているのかもしれない。
その中で一人、ユウタだけは渡らずに、通り過ぎていったワゴンを視線で追っていた。さっきのニュースで脱獄犯が黒いワゴンに乗り込んだと言っていたことを思い出していた。
横断歩道を渡らずに踵を返して人の波に逆らいながら、ユウタは二十一世紀に誰もが持っていたスマートフォンによく似た万能端末オーパスを取り出す。
これひとつあれば、携帯、電子マネー、身分証明証となる物で、超大国の大統領から今生まれたばかりの赤ちゃんにも専用のものが用意されている。地球に住む人類にとって必要不可欠なものである。
ユウタのオーパスは保護ケースに収められていて、そのケースには大好きなヒーロー《鋼の巨人ガーディマン》が描かれていた。
右手で電話帳を開き、その中の一人に電話をかけて耳に当てる。




