3話 共にプリムラを育てよう
新年早々働くとはどんな気持ちなのだろうか。田園風景が広がるなか遥か未来よりタイムスリップでもしてきたのか、それとも単なる罰ゲームなのかコンビニがポツンと建っている。
母が子どもの頃はどこもかしこもお店は閉まっていたらしいが、今や閉まっているお店を探す方が難しい気もする。
いつも降りる駅を通りすぎ、さらに街の中心部へと電車は進んでいく。
暖房がよく効いていて、ゆりかごのようにゆっくり電車が揺れる。電車の発する音を聞いているとこのままどこまでも行きたい気分になる。
隣の席に座ってる日菜乃はこれからプレイをするファンタジーワールドの事で頭が一杯なのか、それとも男子と一緒に遊べるのがそんなに嬉しいのかにやにやしながらファンタジーワールドの攻略サイトを読んでいる。
いったいいつからの付き合いになるのだろうか。両親の離婚を機に母の生まれ育ったこの街に来たのが7歳の頃だったはずだ。もう10年近くも一緒にいるためか今では気が置けない仲だ。
心地いい沈黙に身を任せ、日菜乃に寄りかかる。
「どうしたとよ、急に?」
「んーん……何でもない。ただ、こうしたいだけだよ」
これからゲームとはいえファンタジー世界で五泊六日の旅を子どもだけでする事を思うと、柄にもなく緊張してきたようだ。
私達が最後だったようで、待ち合わせ場所のファミレスにはすでに皆揃っていた。
「あけましておめでとう」と、朱莉が手を振りながら席を進める。女子一人で気まずかったのか、安堵の表情が見て取れる。
「何時頃ついたの?」
「今9時前だから15分くらい前かなぁ?」
「お祖父さんのお宅から直接こっちに来たのよね?」
「そうそう。親戚集まっててさ、従兄弟のお兄ちゃんが俺もしたかったぜって嘆いてたよぉ」
朱莉と話をしていると向かいの席に座っている仁井くんからメニューが手渡された。
「半にはここを出るけど何か食うか?」
「いや、私はドリンクバーだけでいいや。ひなのはどうする?」
「うちも同じでよかよ。それよりあと少しで冒険やん! わくわくしてこん?」
「わくわくしすぎてて始まりの街の選択間違わないでよね」
「大丈夫! しっかり覚えとうけん」
ファンタジーワールドはスタート地点となる街が全部で5つあり、その中から1つを選ぶことになっている。
気候が穏やかで緑葉が生い茂るエルベオ地方にある中世ヨーロッパをテーマにした街、フィッシャ。
太陽の日差しが全てを情熱に照らしあげる常夏のタシア地方にあるコーストランド。
金銀財宝や装備を作るのに必要な金属素材が大量に取れる山岳地帯のダルバーグ地方にあるチェッサウッド。
全てを覆い隠す極寒の大地、アルティック地方にあるロペ。
そして江戸時代がテーマで、ヤマト地方にあるミヤズがある。
満場一致で「どうせならファンタジーを体験したい」とのことで中世ヨーロッパをテーマにしたフィッシャを始まりの街にすることにした。
オープンベータでは、おおよその世界地図しかプレイヤーは作ることができずにいた。それによるとヤマト地方を基準として、東にエルベオ地方南にタシア、西にダルバーグ、北にアルティックがある。
また、ヤマト地方は四季があるが、他の地方はそれぞれエルベオ地方は春、タシア地方は夏、ダルバーグ地方は秋、アルティック地方は冬と季節が固定化されているそうだ。
「ここにいる人たちほとんどがファンタジーワールドのプレイヤーみたいだな?」
通路側にいる古川くんが大きな体を揺らしながら他の席を見渡す。
「一万人も集まるのよね? 初詣も人多かったのにそれ以上の人が集まるのね……」
都会ならばそれが日常なのたろうか、想像するだけでも疲れてくる。
「そう言えば、山口くんも参加するらしいよ」
他の参加者だと思わしき人たちがいることで隣の席の男子のことを思い出した。
「山口って誰やった?」
山口くんの特徴を古川くんに伝えようと思い出してみたが、常におどおどしてうつ向いている姿しか思い出せなかった。
眉間に皺を寄せ仁井くんは呟いた。
「でっかいのと小さいのいるよな確か…」
「小さい方の山口くんはぁ、書道が得意で字がめっちゃ綺麗なんだよぉ。大きい方の山口くんはバスケ部の人で、ダンクできるんだってぇ」
朱莉には二人いる山口くんが共に分かるらしいが、私は一人しか分からない。むしろ字が綺麗なのを初めて知った。
「私たちと同じクラスの山口くんだよ」
「なら小さい方の山口くんだぁ」
「あぁ、あいつか分かった分かった」
喉奥に引っ掛かった小骨が取れてスッキリしたのか、古川くんは豪快にフライドポテトを頬張る。
「さて、そろそろいこうぜ」
陣内くんの一言で私たちはお店から出る。
突き刺すような冬の冷気が頬を切り刻む中、KYFF社のアミューズメントパークを目指す。
アミューズメントパークは横に長い巨大なショッピングモールのような形をしていた。ついた頃には既に敷地内に入りきれずに、歩道までプレイヤーの列がはみ出ている。
パーク内には県内のテレビ局だろうか。プレイヤーを見つけてはインタビューをしていた。
「やっぱり人多いよね。間に合うのかな?」
「列の流れはそこそこ速かし、うちらの受け付け時間は向こうが指定してきたやん。やけん間に合うと思うけど」
「間に合うかより早く中に入りたいよぉ。寒すぎない?」
建物の中は吹き抜けのエントランスに円形のインフォメーションがあり、その奥にIDカードを通さないと通れないように自動改札口があった。スタッフの案内に従って私たちは4階の受け付けに通された。
「女性更衣室はこちらです。貴重品は貴重品ボックスに入れて係員までお持ちください。責任をもって預からせていただきます。また、携帯電話の電源はお切り頂くようお願いしております」
小さな化粧箱くらいの箱の中に携帯電話と財布を入れて箱を閉める。最後にIDカードを読み込ませて、パスワードを設定すれば終わりだ。
私は係員に貴重品箱を預けて更衣室に入る。男女比が半々だとするならば5000人分のロッカーがあるのだろうか。
通路の奥が見えないくらい並んでいるロッカーに圧倒される。
ピンク色のロッカーを開くと中に、薄い緑色の病衣に似た服が入っていた。
「これもっとおしゃれにできなかったのかなぁ?」
「やね。うちら入院するみたいやん」
手早く着替え、素足で歩いても負担がないように柔らかい絨毯が敷かれている通路を抜けて、VR室に向かう。
VR室に入ると列が5つできていた。
VRヘルメットをつけて酸素カプセルのようなものに入るとコンベアに流されて別の場所に運ばれていた。
「男性いないねぇ」
「女性専用の入り口だからじゃない?」
「回転寿司みたいにうちらも流されるん?」
「そこは立体駐車場とかさ他の例え出しなよ」
「そうだよぉ、このままだとかぶっと食べられるよぉ」
最初は緊張して無駄口を叩く余裕もなかったが、ここまで来たら吹っ切れたのか二人には笑みが見える。
「VRヘルメットを被ってください。苦しくないですか? そのままお待ちください」
音が聞こえているか、しっかり脳波と繋がっているかをチェックをする。
「異常ございませんでした。このままカプセル内で横になってお待ちください」
酸素カプセルのようなものに入り横になる。
首や頭部に全く負担がかからない。
「では移動しますね」
プッシューとカプセルが閉まる音が聞こえた。目を瞑るようにと指示を受けて目を瞑る。
ゆっくり動いているのがわかる
だんだん速くなってくる
体が重く感じる
そしてふっと体が軽くなったと思ったら眩しい光に照らされる。
『ようこそ『The next generation of fantasy world』の世界へ。チュートリアルを開始します』
『まずはここまで歩いて下さい』
5メートルくらい先に野球ボール程のサイズの球体が光を発して浮かんでいる。それ以外に光源がなく真っ暗で、自分の手さえも見えない。
私は恐る恐る右足を踏み込み、右足に体重をかけて左足を引く。地面を踏んだ感触も左足がついてきてる感覚もある。
『続きまして辺りを見回して下さい』
真っ暗な空間に光が灯り、明るくなった。
回りを見渡すと、アスレチックゾーンがある。
『指示に従い障害物をクリアしてください』
最初はボールを的に当てるように指示が出る。
ゴムボールに触れると、ボールの感触が伝わる。少し強く握るとボールが少し凹む。
普段からボールを投げてるわけじゃないのに、驚くほどのスピードで投げれた。
次は垂直跳びだが、これも想像以上に高く飛べた。続く短距離走も速く走れている。
これは男性平均と女性平均の間の数値がゲームの初期能力値に設定されているからだろう。
女性平均くらいしかない、私の運動能力がいつも以上に発揮されているのが分かる。
『続きまして魔法訓練です。杖を装備してください』
男性は体が思うように動かないで大変だろうなと考えていたら、次は魔法訓練のようだ。
地面から30㎝くらいの、指揮棒に似た杖が1本現れた。
『杖の先端に炎が灯ってる状態を想像してください』
言われたとおりに杖の先端に炎が灯ってるイメージをする。
すると杖先に重りがついたように、若干の重さを感じた。
『次に的にボールを投げる要領で飛ばしてください』
現実の火は重さを感じないが、魔法の火だと重さを感じるのだろうか。と疑問に思いつつも指示に従い、杖を振るう。
火の玉は真っ直ぐ的に飛んでいった。
高校に入学してすぐの頃、ラクロス部の見学に行ったことがある。その時に触らせて貰ったクロスを使ってボールを飛ばす感覚に似ている気がする。
『以上でレクチャーは終わりです。次に進む場合は鏡の前に移動してください。再度レクチャーを希望する場合は所定の位置に移動してください』
魔法訓練をもう少しだけやって、全身を移すくらい大きい鏡の前に移動する。
『アバターの設定をしてください。アバターはゲーム内での仮の姿になります』
グラフィックはあらかじめ考えている。顔を全くの別人に変えるのは抵抗があるため、母を想像しながら大人っぽい未来の理想の自分の姿に変える。いつものおさげから密編みのサイドアップにしてみた。
アバターの設定を終えたら、複雑な模様が描かれたうっすらと青い光を発している円陣の上に立つ。
『最後に職業の設定をします。『前衛』『中衛』『後衛』からお選び下さい。また、職業の変更は冒険者学校で可能です』
『後衛』を選ぶと、淡い光に包まれる。今まで来ていた薄い緑色の病衣から、丈夫な布で作られた真っ白な服に着替えさせられていた。ご丁寧に靴下と薄茶色の革靴もセットだ。
そして、1メートルはある先端が丸みをおびた木の杖が地面から出てきた。
『目をつぶり始まりの都市名を念じてください』
私は中世ヨーロッパがテーマの『フィッシャ』を強く念じた。
エレベーターの浮揚感に近いだろう。体が一瞬軽くなり重力を感じ徐々に重くなってくる。そして、遠くから聞こえていた雑音がだんだんと近くから聞こえてくるようになってきた。
回りの音が鮮明に聞こえるようになり目を開くと薄暗い建物の中にいた。
段々と薄暗さになれて、辺りを見回す。
石造りの建物のようで、床には先ほどと同じよな円陣がいくつも書かれている。
「そこに立っていると、次の人が出てこれませんよ」
リーゼント頭の昭和の不良のような男性に注意されて慌てて円陣から出る。私が今まで居た円陣が赤く光り、赤色の粒子が円陣から吹き出た。そして赤色の粒子が人の形に集まってプレイヤーが現れた。
円陣の上に居ると、その円陣は使えないようだ。
部屋の角まで移動して全体を見渡す。
窓には赤、青、緑、黄などのガラスで作られたステンドグラスが申し訳ない程度に内部を照らしている。
壁や柱には松明が赤々と燃えており、私が転送してきた場所は、一度に40人くらいは乗れそうな大きさの祭壇になっていた。
このままここで待つよりかは外に出た方が合流はしやすいかもしれないと考えて外に出る。
薄暗い場所にいたため、日差しが眩しく感じて目を閉じてしまった。
閉じた目をゆっくりと開くと
人、人、人、人、人、人、人、人、人
外に出たら小さな広場があったが、そこは人で埋め尽くされていた。
初詣よりも人がいそうな大量の人混みの中を、少しでも人が少ない場所へと宛もなく進む。
どこを通ったか定かではないが、路地裏に出れた。ここも人でごった返してはいるものの広場よりはましだろう。
左手につけてるブレスレットを右手で引っ張ると、空中にシステム画面が出る。
「おぉ……すごいな……。えっと……」
事前に登録していたフレンド一覧を見る。日菜乃と朱莉はまだオフラインらしく名前がグレーだ。
「まだひなのたち来てないのか……。どうしようかな」
誰に言うでもない独り言だったのに、ブレスレットが返事をしてくれた。
聞きなれない着信音に慌ててブレスレットを開き、システムメニューを開く。
「確か……。オープン通話は皆に聞こえて、ダイレクト通話は私だけに聞こえるだったかな?」
ぶつぶつと通話の仕方を確認しなが、ダイレクト通話を選択する。
『水田さん? 無事インできた?』
『仁井くん? 水田です。できたよ! どこいけばいいの?』
『ちょっと待ってて、グループ申請するから承認して』
『あなたはグループに誘われています』の文字と『参加する、参加しない』が書かれた画面がシステムに表示されたから、参加するを押す。
『まずマップを開いてくれない?』
マップを開くと真っ白な地図に、小さな点がある。
『マップの右側に『港町 フィッシャ』て書かれてると思うけど、そこをタップして』
マップ画面の右側には囲いがあり、そこに『港町 フィッシャ』と書かれたいた。1度訪れた街はここに追加されるのだろう。仁井くんの指示に従いタップする。
『街は1度でも訪れると、正確な地図が手に入るんだよ。それでさ、北門側に緑の点が2つない?』
今入手したフィッシャの地図を眺める。名所が書かれてないからどこが北門かは分からないが、緑の点が2つ光っている。
『あるある! そこにいけばいいのね』
『そうそう。カンドル亭って名前のお店にいるから、すぐに近くにいる秋水と合流して来れるかな?』
私のいる場所は赤い点だとすると、ほぼ重なって緑の点が1つある。多分これが古川くんだろう。
『分かった。すぐに合流して向かうよ』
地図を拡大して正確な位置を確認すると、一本隣の路地に緑色の点がある。
かなり近くに居てくれてことに安堵するが1度、表通りの人混みに出ないと会いに行けない。しかし、テレビでよく見る満員電車のように混んでいる、表通りの中を進む気持ちにはとてもなれない。
「水田か?」
途方に暮れていると先に古川くんが見つけくれたようだ。
背後からかけられた声に振り返ると、そこには髷を結った無精髭の生えたサムライがいた。
「お侍さんなんだね」
「ああ、お前は普段より大人っぽくなったよな」
「本当? 狙ってたから嬉しいな」
古川くんは顔の形は大きく変わっておらず、髷と無精髭が追加されただけのようだ。
「この中どうやって進もうか悩んでたから助かったよ」
人混みに目を向けると「ふっ」と古川くんが小さく笑う。
「任せてくれ。人混みを突き進むから後をついてきてくれたらいいぞ」
まるでブルドーザーだ。古川くんが人混みを押し分けて強引に進む。
北門付近も人でいっぱいだったが、すぐにお店を見つけることができた。
1階は赤いレンガで建てられていて、2階から上は木造の4階建ての建物だ。目的地について安心したのか、やっと周りを見渡せるだけの余裕が生まれた。
カンドル亭を手前にみて、右手には優に5メートルはある大きな門が口を閉じてそびえ立つ。
門の前には頭上に『NPC』の文字が浮かんでいる鎧を着た兵士が二人いて、他のプレイヤーと話をしている。
左手には、遠くに教会に似た建物が見えた。 後ろを振り返ると『カンドル亭』と全く同じ作りの建物が石畳の道路に沿うように建っている。
「建物って全て同じ形なのかな?」
「いや、この辺は同じ作りってだけじゃないのか? さっきは全てレンガ作りの家があったぞ」
後ろを着いていくので精一杯だった私と違って、古川くんは周りを見渡せる余裕があったらしい。
お店のドアを開けると、からんからんと心地いい鐘の音がする。音色に釣られて、店内にいる人が一斉にこちらを見る。
私は古川くんの袖を摘まみ後ろに隠れるように一歩下がり、店内を見渡す。
入口付近には円卓があり、奥の方には6人で使えそうなダイニングテーブルがある。空席が目立つが誰もいないテーブルはないから、待ち合わせをしているのだろう。
「おーい! こっちこっち」
呼ばれた方を見ると、奥のテーブル席で金髪の男性と茶髪の男性が手を振っている。顔付きに変化がないから誰だか一瞬で分かってしまった。
「仁井くんたちだね」
「そうだな」
頭上に『NPC』と書かれたウエイトレスに紅茶を注文する。
『ご注文承りました。こちらが商品でございます』
注文をしてすぐに、ウエイトレスが持っているお盆が赤く光と共に、お盆の上に紅茶が現れた。
「風情ないでしょ? キッチンから持ってきて欲しいよね」
仁井くんは茶髪で、いつもの真面目な髪型からサイドを刈り上げたソフトモヒカンになっている。
私は苦笑しながらウエイトレスから紅茶を受けとる。
「確かに。速いのはいいことだと思うけど、それでも速すぎるよね」
鼻孔を茶葉の香りが駆け抜け、唇から熱せられた紅茶の温度が感じられる。一口飲んでみると、心地よい渋味が口の中で広がる。
「美味しい! これゲーム何だよね? 味も匂いもしっかりしてるよ」
「だろ? オープニングセレモニーが終わるまでは飲み物しかないらしいけどさ、お昼はここで食べようぜ」
普段の陣内くんはワックスでふわっとセットしているが、ゲーム内だと右サイドのみを編み込んで後ろで1つに縛っている金色の髪型だ。
「いいね。楽しみだよ」
見た目の変化に合わせて少し上品に微笑んでみる。
「水田さんは大人っぽくなったよね。それと、残りの二人もお店のすぐ側にいるみたいだよ」
仁井くんは地図で二人の位置を見ていた。
いつのまにかグループを解散して日菜乃のたちと組み直してたらしいが、相変わらずそつのない対応だ。
10分とたたないうちに二人組の女性が入店した。
一人は金髪のロングストレートに眼鏡をかけた胸の大きい小柄な女性で、もう一人は茶髪にミディアムヘアの長身のスレンダーな女性だ。
仁井くんが、二人の女性に手を振る。
こちらにやってくる女性たちは何処と無く、日菜乃と朱莉に面影がある。
席に座りそれぞれが改めて自己紹介をするが、小柄な女性が日菜乃で長身な女性が朱莉のようだ。
「ひなのってさ、あかりの体型に憧れてたの? あかりもひなのに憧れてたんだね」
「いやーうちもびっくりしたとよ。まさかあかりが背の高いのに憧れとったとか」
平均より10㎝は背が高い日菜乃に平均ジャストの私、そして平均より10cmは低い朱莉。
日菜乃、私、朱莉の順に背が低くなっていく。どうでもいいことだがバストサイズは全くの逆だ。
朱莉が背が低いことを気にしてたのは知ってたけど、日菜乃も背が高いことをどうやら気にしてたらしい。
「ちょっとゆきちゃん聞いてよぉ! ひなちゃんのこれありえなくない? ひなちゃんは大きくないとダメなんだよぉ! 袴着て髪を1つに纏めて弓を構える姿はすっごいかっこいいのに何で金髪でさらに小さくなってるのよぉ」
日菜乃の姿に鬱憤がたまっていたのだろう。席につくやまくし立てるように喋る。
そう言えば以前、日菜乃の弓を射る姿に憧れて弓道部に入ったとか言ってたことを思い出した。
「しかも! この胸! こんなんだと弓引けないよぉ ?えぐれるよぉ? めっちゃ痛いよぉ?」
「分かった分かった、一週間は無料で姿変えれるけん後で変えるよ。でも小さいあかりにうちは憧れとうけどね」
日菜乃が朱莉の勢いに負けて、アバターを変えることを了承する。
「分かるよ、ひなの。朱莉ってさ小動物みたいで可愛いよね」
「餌付けしたかもんね」
「あーもー二人は黙っててぇ! 私はかっこよくなりたいの! 小学生の従姉妹にも負けそうなんだからぁ」
朱莉を弄っていると、ピッピッピとブレスレットから通信を知らせる音がなる。
「お? セレモニーとやらが始まったんじゃね?」
陣内くんが皆にも見えるようにブレスレットから画面を拡大してモニターを出す。
『皆さんこんにちは、ゲームマスターの東出です。』
画面には初老を迎えたであろう男性の顔が写る。
『誠に勝手ながら、皆様にはこれより『The next generation of fantasy world』の世界で生きて頂きます。もちろん生きるわけですから、死も当然ございます。この世界で死ぬことは現実世界での死を意味することになるので、重々ご配慮下さい』
これがオープニングセレモニーなのだろうか。いまいち要領がつかめない。
『AIの知能は驚くほどの速さで進化していますが、果たしてそれでよいのでしょうか? 既存のAIは人間が教えたことしか学習できていません。どこまでいっても意思が生まれることはない! そもそも意思とはなんだ、考えるとはなんだ、感情とはいったい何だろうか? 皆様も疑問に思っていることでしょう』
17年生きてきたが断言できる。思ったことは一度もないと。
『そこで、皆様にはここで生きてAIに教えて欲しいのです。人間の美しくも儚く、そして冷酷で残酷な感情を! 我々人類はいつまでたっても進歩しません。終わることのない戦争、無意味な競争、合理性からかけはなれた根性論、いじめに犯罪、努力することを放棄してただ無情に生き続ける人々』
最初はうるさかった回りの声が聞こえない。みな聞き入っているようだ。
『私は考えたのです。AIが進化しないのは技術力ではなく感情が足らないのでは……と。そして感情には裏表がある。いい感情もあれば悪い感情もある。皆様はここでの生活で是非ともAIに感情を教えてください。そしてともに優秀なAIを、いや神を共に作ろうではありませんか!』
とてもじゃないが神とやらを作る気にはなれない。作りたいなら山奥の小屋で怪しげなミサでも勝手にやればいいことで、私たちを巻き込んで欲しくはない。
『また、外部からの救助は期待しないで下さい。外部から何らかのアクションが確認されしだい一斉に処理をおこなうものとします。処理とはご想像の通りプレイヤーの皆様を一斉に殺害いたします』
辺りがざわつき始めて聞こえにくくなってきた。
「うるさくて聞こえないよ!」
「そうだ! 少しは静かにしろ」
私の叫びに合わせるように、野太い声の男性が一括して店内は静かになった。
『それに合わせて対策の一貫といたしまして、ゲーム内体感時間を1年で1日とさせて頂きました。つまり、こちらの世界で1年経過しても、現実の世界では1日しか経過してないことになります』
先ほどの喧騒の最中に少し話が飛んでしまったようだ。
『ゆっくりと何年でもゲームを楽しんで下さい。繰り返しになりますが、ここでの死は現実世界での死と同期させて頂いております。ご注意ください』
東出は息を大きく吸い歓喜の表情を作る。
『さぁ! 始めようではないか! 共に神を作り出そう』
東出の宣言と共に世界が光で包まれた。
眩しさに閉じてしまった目をゆっくりと開くと、髪型以外は元の姿に戻った日菜乃と朱莉がいた。
12時代と18時代の1日2回投稿をしていまきたが、明日からは18時代のみの1日1回投稿に変更します。
3話はかなり長くなりましたが、読んでいただいてありがとうございます。
これから物語がゆっくりとですが、動き始めます。




