営業一課ルーキー伊藤君。。。
「すまんな和田。せやけど今の女、何処の部署や? 愛想の無い女やなぁ」
うわーこの人、主任の彼女に向かって凄い事言っちゃったなぁと俺は目を丸くした。
けど其れを遥かに上回って俺を驚かせたのは、主任がキレた事だった!
ガタイの良いおっさんのシャツの襟を、主任が正に締め上げて
「俺の女をアンタにとやかく言われる筋合いは無い言うとんのじゃっ」
と怒鳴った。
営業部のフロアに居た全員が度肝を抜かれた。
「…誰に向かって口聞いてんじゃコラァっ和田ぁっ」
コレもんかよと疑いたくなるドスの効いた声に怯む事無く、主任は相手のおっさんを詰る。
「…アレを悪く言うんやったら、なんぼ佐野さんでも容赦せえへんからなっ」
そう言った主任は営業部を飛び出して行った。きっと芳野さんの所に行ったんだ。
そうだよな、芳野さん、さっきの朝見さんとこのおっさんとのやり取り聞いてたんだ、心中穏やかじゃないよな。
幾ら、『クールビューティ』だって。
「オイ、さっき出てった女が和田のコレか」
誰にと言う訳でもなく、小指を立てたおっさんが質問を投げる。俺は助けを求める様に夏さんに視線を向けた。
答えたのは、主任と親しい神崎さんだった。
夏さん、実はビビリか…。
「そうです、もう随分長く付き合ってらっしゃるみたいですよ」
おっさんは未だ何かを言いたそうだったが、一つ咳払いをするとブリーフケースを手にし立ち去ろうとした。
ところが其処に、呆然と立ち尽くす朝見さんを見たおっさんは
「お茶おおきに」
と言い、大きな足音を立てフロアを出て行った。
部外者が(いや正確には、同じ会社の人間だけれど)出て行った事で、営業部の空気が一気に和らいだ。
「てか主任もキレたりするんスねっ!」
俺が思った事をそのまんま口にすると、視線の合った神崎さんが俺を笑う。
「伊藤お前も、あんま成長ないとキレられるんじゃないの」
「マジっスかっ?!」
「マジっスよ」
俺はさっきの主任の形相を思い返し、頭を抱えた。