Prerequisites [ii]
※なろう投稿システムの練習中です。内容や話順は予告なしに変更される場合があります。
冒頭はスターウォーズへのオマージュ(笑)です。
"Not so long future, in a country not so far, far away..."
――仮想実体験ゲームコンテンツ、「テンペスツ・エピソード1/オブヴィアス・メナス」の導入部メッセージより
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"Tempests Episode I: The Obvious Menace™"
漆黒の地に星瞬く、宇宙めいた背景に当該コンテンツのタイトルロゴが鮮やかな黄色で大書され、次第に遠ざかるかのようにスクロールしていく。それに連れて下方から前振りが。曰く――
今は宇宙際紛争の時代である。正体不明の勢力が根拠地から深い原生林に紛れて出撃し、N州軍用地の砂漠に出現した「境界」の「向こう側」に確保していた我が方の前進拠点に対して初の襲撃を成功させた。それを受け、我らA国は拠点の防御強化と予てから良好な試験結果を得ていた特殊装備「テンペス(※1)」の実戦投入前倒しを決定した。テンペスツ――それは即ち動力鎧を纏った歩兵であり、1/4トンの自重を物ともせず障害の多い不整地を踏破しつつ各種戦闘行動を継続して行えるほどに強力である。
火力の集中投入により、俄かには理解し難い謎の技を操る勢力――「非科学的技術セクター」の脅威は一先ずは払われた。が彼らが我らに敵意を抱いていることは一目瞭然である。テンペスツの投入により、機械力の進入が困難で未だ不明な点が多い「向こう側」の状況を把握し、引いては彼らの脅威をより遠ざけることができる……
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■太平洋標準時 14:38、「向こう側」前進拠点より東北(※2)へ凡そ9キロメートル離れた地点にて――
……(SE: prrrr…)……IR SENSOR ACTIVATED……TARGET CAPTURED……ENUMERATED, ENUMERATED, ENUMERATED, _
「イチローより分隊、赤外に感あり、二時の方向、100メートル……監督、お出迎えです……」
……俺達メジャー分隊の面々、つまり分隊の長たる監督こと俺と愉快な四名の仲間たちは互いにやや距離を取り姿勢を低くしてこの先に潜んでいるかも知れぬ敵、いや現地勢力の動向を探っていた。誰も居なければそれはそれで結構なのだが……残念ながらそうは問屋が卸さなかったようだ。手頃な木の幹をカバーにしつつ前方に探りを入れていた最古参のイチローが、開きっ放しにしてある分隊内通信回線に小声で相手方の接近を伝えてきたからである。
近いな――がこの鬱蒼とした気味の良くない異界の森の中、加えて現地は深夜(※3)という状況では先手を取られなかっただけでも良しとするしかない。一応聞き返しておく。
「了解、数は?」
「……三、四……マズいな……」
途端に歯切れが悪くなることを訝しむ。まさか。
「どうした?」
「突然赤外でも見えにくく……恐らく五、六名は」
「……例の噂通り、って訳ですかい」
「嫌な予感がするぜ……」
「腰抜けが適当なこと抜かしてるだけだと思ったんだがなあ」
前々から見えない敵が云々、といった与太話はよくある戦場の噂の一つとして同業の連中の間で実しやかに語られていたのだが、ここ最近になって赤外センサーに弱い反応しか示さない現地勢力の存在を仄めかす出来事が増えつつあるのはこの場に居る皆が承知している。そう、これに似たようなことは我々も既に経験しているのだ。
現地勢力には我が方では未だに実現できていない、完璧に近い光学迷彩を施す技術が存在することが知られており、今では周囲警戒を怠ると漏れなく近接格闘戦距離で獲物を振り被った状態のクソ共(※4)といきなり鉢合わせすることになるのだから。殊「向こう側」に於いては、見えない敵は与太話でも何でもない。
「あー、お前ら黙れ、そして落ち着け……イチロー、全く見えない訳ではないんだな?」
「ええ、注視していれば何とか」
こうやって会話している間にも彼我の距離は詰められつつあるのだ。実に容易ならざる状況ながらも、分隊指揮官として速やかにかつ適切な判断を示さねば。ああ、これがただ単に敵を無力化するだけなら重機関銃で薙ぎ倒すかひたすら伏撃に徹すればよいのだが、俺達テンペスツに求められているのは幅広い意味での「向こう側」の状況把握であって現地勢力の殲滅ではない。その分、というのも変な言い方だがずばり余計な苦労を強いられる訳で、まあ威力偵察みたいなものだと割り切るしかないだろう。
「よし判った、では手短に話す……まず全員で二時を向け、そして赤外でそれらしい当りを付けろ、ああ、ガワやケツも気にはしたいが今は余裕がない……いいぞ、そのまま聞いてくれ、回線閉じる間際に合図を入れるから皆で一斉に三点射、ああそうだ、当たって隠し身が解けてくれるといいな、でジュンとコージーは俺と一緒に吶喊してCQC、イチローとダルには吶喊組の支援を任せる……」
■太平洋標準時 14:43、「向こう側」前進拠点より東北、凡そ9キロメートル地点――
三点射の斉射で二目標――板金鎧と皮鎧の剣士二名――を炙り出すことに成功したメジャー分隊は、白煙と駆動音を放ちながら急速に先行する吶喊組と慎重に距離を詰めつつ単射で牽制する支援組の二手に分かれた。全く忌々しいことに、どういう訳なのかこいつらは5.56mmNATO弾程度の銃撃を数発は耐えるような頑丈さ、あるいは光学迷彩のような我々には未知の防御技術を披露することがしばしばあり、今この場に於いても、先の皮鎧には少々出血を強いる程度の損害しか与えられておらず、板金鎧などは至って平然とした風でこちらに切り掛かってこようとする有様である。
そしていよいよ互いに部隊を先導する形になった俺と件の板金鎧が乱闘戦(※5)距離に入る。先ずは板金鎧が上段に振り被った段平を叩き付けてきた。対して俺は最新鋭防刃・防弾セラミックプレートの性能を信じ、交差させた両腕でそれを受ける。幸い断ち割られることはなかったが当然その衝撃は抜けてきた、衝撃吸収素材も多分に使われてはいるのだが気休めにも等しい。
「痛えな、この野郎!」
必殺の一撃を腕で防がれ、体勢に隙ができているところへ返礼として体重・装備・携行品込みで800ポンド超の重量を乗せた中段回し蹴りをくれてやる。銃声の拍子と剣戟の楽神との不協和音に、背部のアリス(※6)熱電池の放つ熱い蒸気の咆哮と、主要骨格部の増力機構が奏でる滾る油圧の響きとの情熱的なハーモニー。綺麗に入った右脚が板金鎧を変形させながらその着用者諸共数ヤード強制的に横移動させた。受身を取れずもんどりうって転がり、そこらの木にぶつかって止まると身動きもしない。忘れ物の段平を明後日へ蹴り飛ばして武装解除一丁上がり。
見回すと出迎え側の格闘要員は未だ四体が健在、対してこちらは吶喊組が三名でやや不利か。一方で支援組は適宜合いの手を入れてはいるが今一つ効果に乏しく、かといって今からCQCに投入するには距離があるな……ならば何時の間にか二人ずつを相手取っている形のコージー達に加勢するか、と考えていると上手い支援が転がってきた。
「爆発するぞー、閃光手榴弾!」
よし、いい仕事だ。だがそれを視界から外し瞼を下ろそうとしたところでふと彼方の脅威と視線が合う。クソっ、手弩かよ……その射線を回避すべく目をきつく伏せながらも咄嗟に己の身を捻り倒そうと無茶を試みる。耳の保護は「鎧」に頼るしかないが……即ちにアシストされる無茶振り、くっ、首が痛てぇ!弩箭が至近を掠める矢音に続いて鈍い爆発の衝撃波、そして瞼越しにも真白き閃光が辺りを染め上げて……
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■太平洋標準時 16:41、「向こう側」前進拠点より東北東、凡そ14キロメートル地点にある建造物内――
……キナ臭い白煙が視界を妨げ執拗に眼咽喉を痛めつける。自然石らしき造りの回廊を咽ながらも駆け抜け、突き当たりの木製扉を増力機構に物言わせて蹴り破ると階下からの熱風が己の身を叩きつけてきた。クソっ、既に下の階は火の海と化しているらしい。そして俺達が今纏っている「鎧」は残念ながら火炎やガスには対応していない。つまり、進退窮まる、だ。
一旦後退して姿勢を低くし、左視界1/3ほどに薄く映し出されている分隊掌握概略図――分隊員五名分の姓名、階級、そして現在の健康状態と装備品の損耗度を可視化したもの――を一瞥して安堵する。深刻な損害を被っている奴はいないようなので。弾薬の消耗がやや気になるが、まあ致し方ないだろう。分隊内通信回線を開く。
「監督より分隊、二階まで火の手が回った、各員可及的速やかに本建物より撤収」
するとそう間を置かずに軍用デジタル無線越しのざらついた音声が返ってくる。
「イチローより監督、これより撤収」
「ダルより監督、右に同じ、終わり」
こいつらはバディ組んでるからか揃って応答があった。ああ、今更だが監督だのイチローだのは勿論符牒名だ。ついでやや遅れて別の声が。
「こちらジュン、ただいまコージーと資料撮影中」
「ジュン、何をしている、何か見つけたのか」
「あー、現地勢力のものと思われる文書を多数発見、目下記録している次第で」
現地情報の収集も重要な任務ではあるがさて。
「それはいいが、無理は禁物だ。適当なところで切り上げろ」
「ジュン了解、二分を目処に――」
「いや一分だ、火の回りを侮るな、いいか」
「了解、一分で」
「コージー了解」
「よし俺も撤収する、通信終わり」
徐に立ち上がり、外部に向けた回廊の開口部――手近な窓に手足を掛けよじ登る。途端に今まで大人しくしていたアリス熱電池が吼え増力機構が唸りをあげた。時置かずして勇躍己の身を異界の夜空に躍らせる。そして僅かな無重量体験の後、地面に接するや否や五接地転回法を決めた……こう淡々と述べちゃいるが結構きついんだわ。1/4トン鎧を着込み装備品を抱えている上にあちこち生傷だらけな訳でさ。
全身が悲鳴を上げそうな苦痛に耐えつつも身を起こし、素早く周囲を見渡す。可視光よし、赤外は――駄目だ、ハレーション起こしてる、近紫外は――よし。切迫した脅威のないことを確認し、近くの植込みを飛び越え手頃な潅木の陰に身を隠した……
■太平洋標準時 16:55、「向こう側」前進拠点より東北東、凡そ14キロメートル地点――
……今や目前の、古風な造りの建造物は盛大に燃え盛り派手に火の粉を撒き散らしている。無事に火災現場から脱出した我らがメジャー分隊は夜闇と草木に身を潜めつつ滞りなく再集結を果たした。一同の表情に多分の疲労は隠せないが憔悴や不安の色は見られない。慌しく装備品の再確認と負傷の応急処置を済ませると上級部隊との通信回線を開き、手短に報告する。
「メジャー分隊より司令部、遭遇した敵性勢力の無力化、および拠点の制圧を完了、我が方損害軽微。なお若干の情報収集成果あり」
「……司令部了解、よくやった、喜べ、『傀儡のタカ派(※7)』の飛行許可が降りた、迎えを送る、十分待て」
本気かよ、操縦手殺す気か、と思ったが確かこいつは無人ヘリだったな。いや、罷り間違ってうっかり乗っちまったら俺達がヤバいだろうが、ちっとも喜べん。大体、ここは色んな意味で「向こう側」であって狩り残しもまだ居るかも知れんのにな。一応一言入れておくか。
「あー、我メジャー、未遭遇の脅威が相当数残存すると具申」
「メジャーへ、これは実地運用試験も兼ねている、気遣い無用、通信終わり」
あーあ、これどうするんだよ。司令部は実地テストとかほざいているが徒労もいいところだろう。回線を閉じ、皆を見回すが何だ、その生暖かい顔付きは。
「さて、上は自信満々のようだが、こいつをどう思う?」
「……」
「……」
「すごく……無謀です……」
無反応な奴に肩を竦める奴、そしてニヤニヤ顔になる奴。お前ら正直だな。部下を代表してイチローが総括する。
「ま、俺らが乗るまでにはそのテストとやらは終わらせといて欲しいですな」
■太平洋標準時 17:04、「向こう側」前進拠点より東北東、凡そ10キロメートル地点、上空150フィート――
「こちらパペット1、現在そちらに向け順調に飛行中」
遠隔操縦無人航空機として作られたが故の、必要最少限の航法表示機器類を残すだけの質素な機内前部にある通話装置のスピーカーからは、何処に居るのかも定かではない操縦手との遣り取りが誰に聞かれるでもなく余裕のある無人のキャビンに響き渡る。
「メジャー分隊よりパペット1、『こっち』じゃGPSも使えないのによく飛べるな」
「あーメジャーへ、慣性航法装置もあるし、何より上からはそちらの火の手がよーく見えている、大丈夫だ、問題ない」
俗に言う所の「旗」が考察される対象になったのは何時からなのかはさておき、その無問題と言う名の旗が人知れず掲揚されると、突如として対地可視光/赤外センサーに多数の非味方目標シグナルが出現した。機体左右の7.62ミリ機関銃が自律的に最脅威目標に指向して鉄の雨を浴びせ、三体ほどを即座に血祭りに上げたが時既に遅し。撃ち漏らした目標群から計二本の眩い火箭が放たれると、明らかに誘導された飛跡を描いて哀れな操り殺人人形に突き刺さる。
異界の夜の帳に紅蓮の双花が咲き誇り遠雷めいた轟きを響かせれば、糸の切れた操り人形は今際の灰煙を棚引かせながら非情なる屋外劇場の床に自由落下の勢いで頽れ落ちた……
■太平洋標準時 17:05、「向こう側」前進拠点より東北東、凡そ14キロメートル地点――
……金属とガラスの構造物が拉げ潰れる不協和音が聞こえてくる。言わんこっちゃない。
「テスト失敗」
「あっちゃあ、『マリオネットホーク・ダウン』ってか」
「おいおい、まだクソ共居やがんのかよ」
「無茶しやがって……」
たった今、帰路もまた9マイルほど歩く羽目になることが決定した訳だが。おまけにお客さんの接待もしなきゃならんとはな。と言うかお前らそんなにアレに乗りたくなかったのか。まあ俺もだがな。
「うん、まあ、そう言うことだ……いいか、帰投するまでが遠足だ……よし行くぞお前ら!」
※1 "ThermoElectro-Mechanical Powered Exo-Skeleton"の頭字語。「熱電/機力外装骸甲」。"quarter-tonne armor"「1/4トン鎧」とも。総質量約250キログラム。
※2 現地の太陽(と思われる天体)の昇る方角を「東」としている。なお磁気コンパスは役に立たない模様。
※3 太平洋標準時(A国N州時間)と現地時間とはかなりの不一致がある模様。
※4 口さがない関係者はしばしば "NSTs" および当該構成員を、そのお役所言葉自体への揶揄をも暗に込めて "nasties"「クソ共」と呼ぶ。
※5 互いに掴み合いが可能な距離での戦闘行動。交戦距離で比較すると概ね乱闘戦≦近接格闘戦≦近接戦闘。
※6 "ALuminum/ICE thermite pyrotechnics"の頭字語。「アルミニウム/氷系テルミット火工品」。
※7 Northrop-Grumman/Sikorsky QUH-60 "Marionette Hawk" RC UAV utility helicopter ノースロップ・グラマン/シコルスキー 遠隔操縦無人汎用ヘリ QUH-60 「マリオネットホーク」。
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** ToTTLW® and "Tales of The-Third-Law's World®" are registered trademarks of Beliefia Productions, LLC. TTLWverse™, "The Reality Has No Logout Menu™" and "Tempests Episode I: The Obvious Menace™" are trademarks of Beliefia Productions, LLC.