Prerequisites [i]
※なろう投稿システムの練習中です。内容や話順は予告なしに変更される場合があります。
前振りすっ飛ばしたい方は最後の段落だけ読めばいいかと。でも最初から全部読んで欲しい(本音)
“第一法則:高名だが年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている”
――SF作家 アーサー・チャールズ・クラーク、1962年
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時折ある程度の停滞や後退が見られるにせよ、人類の歴史において科学技術というものは概ね発展あるいは拡大の方向に進んでいると言えるだろう。嘗ての夢物語が今日の日常、という事例はその枚挙に暇がなく、それ故に科学技術の限界を公に論じることはある意味冒険でもあり、徒なそれ――特に記録に残るような――には若干の危険が伴う。曰く、
“空気よりも重い飛行機械は不可能である”
――物理学者・初代ケルヴィン男爵 ウィリアム・トムソン、1895年
あるいは、
“640キロバイトのメモリは誰にとっても十分だろう”
――プログラマ・IT実業家 ウィリアム・ヘンリー・ゲイツ三世、1981年
しかして今や空気より遥かに重い航空機が当たり前のように空を飛び、そして市井の人々が普通に購入できる情報端末には標準でギガバイト級のメモリが搭載されている……といった具合にである。
この世は進歩に満ち溢れている。まるで年中行事のように新発見とされる何らかを見出したとの主張があり、「画期的な」だの「不可能を可能にした」だの「教科書を書き換える」だの大袈裟な惹句がマス/ソーシャルを問わずメディアに氾濫し、まだ起きてすらいないその影響に対して勝手に一喜一憂し、そして雑多な時事ネタの一部として消費された挙句に殆どの人がそれを後の記憶に留めない……そう、全く世界は進歩で一杯のゴミ溜めだ。
勿論、先般ご承知の通り、「何某を可能にする科学技術が開発された」とは「何某を提供する製品・サービスが遍く普及する」を直ちに意味しない。むしろ両者の間には無数の技術的、人的、資源的そして法制度的に高くて深い山谷が立ちはだかるのが常であり、結果としてその実現には良くて数年の期間が必要とされ、そして悪ければ――割合としてはこちらの方が圧倒的に多いのだが――永久に日の目を見ない。またはプログラミング言語の解説風にこう言い換えても良い……進歩の「宣言」は頻出するがその「実装」はごく一部だけである、と。
さて、話の前提、お膳立てが済んだところでもう一つだけ引用をしてみたい。
“我々は意識メーターを持たない”
――心理哲学者 デイヴィッド・チャーマーズ、1998年
ここで言う「意識」とは各人の自我体験――自身を自身であると自覚すること――と所謂クオリア――自身が五感を含む身体からの物理的刺激を受けた際に感じるそれ、あるいは夢や追憶の際に思い出される何か――のことであり、前記の引用はその「意識」を各人の外側から客観的に測定する手段が今のところ存在しない、という実情を表している。ごく素朴に考えれば、そもそも「意識」とは主観的存在の最たるものであって、科学的実験操作に最も要求されるべき客観性とは根本的に相容れない……となるのだが、それでは思考放棄と何ら変わらない、という意見もまたご尤もであろう。
しかし目下「我々は意識メーターを持たない」のだとしても、何時の日か物理学の言葉で人間の高次心理を語れるようになり、精神の内的宇宙を輝ける科学の光明で遍く照らし、主観の客観化、あるいは「仮想主観技術」を現実のものとした世の中を考察することくらいはできようか……よろしい、ならば想像だ、軍事用保存食から始まった缶詰が今やワンコインで買えるまでに至った経緯や、無線音声通信技術の精髄としての携帯電話を引き合いにして――著名な歌謡曲の歌詞を引用するまでもなく、それは容易い。
その技術はまず実験室の片隅から生まれ、基礎研究を終えある程度手法が確立された段階で精神医療に、そして軍事にも応用されるであろう。最初は徐々に、やがてコストとリスクが一定水準を下回った時点で一気に普及する。普及率の向上はその実装を更に洗練されたものとし、またそれと平行して法律の整備及び業界ガイドラインの策定が時には迅速に、また時には関係者の不作為が疑われかねないほどの牛車の歩みで行われる。然るべき時が過ぎ、技術そのものの信頼性、それを補助する各種周辺――特に安全確保に関する――技術、そして多方面に亘る法律を含む社会インフラ整備……それらが全て揃った時点でようやく民生商用利用への道が開かれるのだ。
斯くして「究極の舞台」はその幕を切って落とされる。そこで演じられるのは箸にも掛からぬ駄作か、それとも万雷の拍手を巻き起こす傑作か――
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この物語は仮想主観技術が広く民生利用されている世界で、それを応用した娯楽遊戯に参加することになった、とある人物の「体験談」である……はずなのだが、我々もそれを全くの絵空事と片付けない方がよいだろう。何しろ「嘗ての夢物語は今日の日常」なのだから。
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