プロローグ
〈江戸幕府〉
初代徳川家康が征夷大将軍に任命され、成立させた徳川家を主体として国政を執り行う機関。成立されて二百五十年の間大きな戦もなく国内は安定を保っていた。
しかし、ペリーが率いる黒船が浦賀湾に来航し、長年鎖国体制をとっていた日本に開国を迫った。
その翌年、幕府は要求を受け入れる形で開国に応じた。
この出来事をきっかけに、幕府に不満を持つ者が反乱を起こしたり、各地で外国人排斥運動が勃発するなど治安が悪化。
再び日本が動乱の時代を迎えることになった…
ざっくりとしか覚えていないけどそんなことを授業で言っていた気がする…。
別にあんまり歴史には興味がないし、テストで赤点さえ取らなければ別に覚えなくたっていいと思ってた。
過去にどんなことがあったからって、どうせ社会に出て実際にそんな知識が必要になるとは思ってなかった。
俺は普通の公立校に通う高校生だった。
勉強はたいしてできるわけでも、できないわけでもない、中の中ぐらいの成績だった。
ただ、運動の方は人よりもよくできた。
親父の教育方針もあっていろんなのスポーツを経験した。すぐにだいたいの奴よりは上手くなった。
その中で特に突出して上手かったのは剣道だった。
全国でも指折りの実力でいろんな学校からスカウトが来るほどだった。
いろんな学校を見学したが、最終的に今の学校に落ち着いた。俺より実力がない奴が練習にうるさく言ってこない自由な雰囲気が決め手だった。
高校に入ってからも以前と同様に簡単に上達した。高校三年にもなると全くと言っていいほど相手はいなくなった。
高校生だけにとどまらず、大学生や一般人相手だろうがとにかく負けなかった。
周囲からは『剣聖』とまで呼ばれて俺には敵わないと俺を遠ざけるようになった。
このころからとてつもない虚無感に襲われるようになった。
最後にいつ負けたかな、そんなことを思う日が多々あるくらい負けとは縁遠いものになっていた。
もともと好きで始めたわけでもないからいつ辞めても悔いはないけど、他に特にやることも見つけられない。
かといって勉強に励むつもりもなかった。
ただ何となく流れの中で剣道を続けていた。
そんな何も目標もなく過ごしていたある日、台風が発生した。
学校が早く終わって部活もなし、やることもないしさっさと家に帰って寝ようと自転車をこいでいた。
途中から雨が降り始めて風も強くなった。最悪だ。濡れたくなかったのに…
これ以上は濡れたくない。とにかく早く帰りたいから普段は使わない道を選んだ。
川沿いの道で砂利道で整備されていないが、風邪を引くのが嫌だし、この道を通った。案の定その道は走りづらく、走りは安定しないし、パンクしないか心配だった。
しかし、車通りはほとんどなく、この調子なら予想したよりも速く家に着きそうだ。
砂利道を抜けようとしたその時、いきなり今日一番の突風が吹いた。そのせいで思いっきりバランスを崩し、砂利道でコントロールができない。
バランスを崩したまま柵にぶつかった。
そのまま俺は自転車から投げ出されてヤバイと思ったときには川へ転落していた。
普段は穏やかで浅い川のはずなのに、台風の影響で濁流と化し、泳ごうにも勢いが強くて泳げない。
俺はなす術もなく濁流に呑み込まれた。
俺、このまま死ぬんだ。まだ、若いのにな……
そう考えているうちに意識が遠くなっていった。