二人の裏切り者
お題:マンネリな裏切り 制限時間:30分 もうお題に忠実かどうかは突っ込んだら負けです
何度も何度も、私は彼と対立する。そして、思いが交わらないままで終わる。
図書室に来た振りをして庭へと出る。曇り空はどんよりとしていて重苦しいが陽の光に弱い今の自分にとってはちょうどいい天気かもしれない。
空へと手を伸ばす。届くことはないけれど、たったひとつの願いをどうか、どうか――。
「ティニア、また?」
優しい声はもう分かりきっている。だから視線を動かす気はない。
「もう、外に出ちゃ駄目だって何度言えばわかるのさ」
あくまで優しく、そして子供をたしなめるように彼は言う。そして、後ろから包み込むように抱きしめられ、耳元で彼の低い声が染み渡る。
「裏切り者」
そう責める声は冗談なのか本気なのか読み取れない。けれど、私が言う言葉はひとつだ。
「リヒャルト様を裏切った覚えはございませんが」
「うん? 君は思ってなくても僕にとっては裏切られてるようなものだし? もうマンネリ化してるけどね。そろそろやめたら?」
部屋の窓には鉄格子、どこに行くのも許可と付き添いが必要。決して、この屋敷から一人で出ることは許されない。愛が重すぎる。重量級だ。
「リヒャルト様がいけないんです……私の、ささやかな願いすら叶えてくれないのですから」
「それを叶えてしまったら、君は僕の手から消えてしまうじゃないか。そんなの許さないしありえない」
もう一度言うけど愛が重い。しかし、このヘタレ……いや、リヒャルトはこんなことは言うが基本的に過保護で甘やかす駄目男なのだ。束縛癖と独占欲に目をつぶれば……やっぱり目をつぶっても無理だった。
彼は歪んでる。
「リヒャルト様はご結婚なさらないのですか?」
「ティニアとならいつでもいいよ」
「私はありえないのでそれ以外でお願いします」
一瞬でも彼に『スキ』を見せてはいけない。一度はまれば抜け出せない泥沼の想い。結ばれるなんて、あってはならない。
物語のシンデレラはこの世にはいない。
いるのは、贄姫と吸血鬼。歪んだ想いの二人。
「さて、体の調子が崩れるといけない。中に戻ろうか」
「……頼んだら外に出して下さりますか?」
「ううん、無理」
「…………最低ですね」
「うん。僕は君のせいで最低な男になっちゃったんだ」
私を裏切り者だと貴方は言うけれど、貴方も裏切り者なんですよ。
私を、あのときのように、吸い殺してくれないのだから。
貴方の愛は私には必要ない。だから、私の願いを叶えてくれないあなたもまた裏切り者。
貴方の愛は私を殺せないから。