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吸血鬼の贄姫  作者: 黄原凛斗
即興Ver
6/34

雪と願いと交わらない想い

お題:昼の大雪 制限時間:30分   雪は二人の大事なポイントなので……いやでも即興で書く内容じゃないなと今でも思ってます。

 昼頃に大雪が降ると聞いた。だからと言って外に出るわけでもないが。

 雪、と聞くと昔のことを思い出す。最悪で最低なあの日のこと。

「……メグ、リヒャルト様は今日は?」

 自分付きのメイドであるメグに尋ねると何故か嬉しそうにはきはきと答えた。

「リヒャルト様は本日はお屋敷でお仕事です。一緒にいれますよ! ひとつ屋根の下ですよ!」

「いや、そういうのはいいから」

 しょんぼりとしたメグの表情が見えるがいつものことなのであまり気にしない。何故かこの屋敷の人(と呼ぶべきか悩む吸血鬼)たちはことあるごとにくっつけようとしているかのようなことを言う。私にはそんな考えは微塵もないのに。

「そもそもリヒャルト様は仕事なんだから。ただ、刺繍やらせてもらえないのはちょっとね」



 先日、屋敷から出られないので刺繍をして暇を潰していたのだがうっかり針を指に刺してしまい、血の匂いを感じたのかわずか数秒でリヒャルトが駆け寄ってきたのだ。


『ああああああティニア! 血、血!! うわああああああティニアの綺麗な指に傷があああああ!!』

『ああ、大丈夫ですよこれくらい。ちょっと舐めとけば治り――』

『駄目だ駄目だ駄目だああああああ!! 医者呼んできて医者!! あとティニアは絶対刺繍禁止!!絶対にさせないからね!!』



 あれ以来、刺繍が禁止になりそれ以降も危険だとリヒャルトが判断したものはできなくなってしまった。そのせいで暇つぶしできることが減ってしまい暇過ぎて死んでしまいそうだった。

「……外出たい」

「もう、ティニア様。またそんなこと――」

「だいたい、曇ってるから陽も出てないし別にちょっと外出るくらい……」

 異常なまでに過保護なリヒャルトのせいで外出禁止、部屋から無断で一人で歩くのも禁止、趣味もいくつか禁止、禁止、禁止……。そんな生活なのだからどこかで妥協してくれてもいいじゃないかと常常思う。

「メグ、私、やっぱり外出たいからちょっと今からする行動を見なかったことにしてね」

「は? え、ティニアさ」

 メグの静止を聞く前に窓を開け、外に出る。すると、もうすでに雪がちらほらと舞い始めていた。

「ティニア様、だめですってば!! って、ティニア様!? ティニア様ー!?」

 急いでメグの視界から外れ庭を駆ける。久しぶりの開放感に思わず気分が高揚するが、嫌な気配を感じてため息をついた。

「……早いですね、リヒャルト様」

「早い、というか……メグの声がこっちまで聞こえたし。それに、僕にとって君を見つけることはそんなに難しくないからね」

 あくまで優しいその声音。でもわかってる。苛立ちがその中に混じっていることを。

 振り返れば彼はそこにいるだろう。毅然とした佇まいで私を見つめているはずだ。

「ティニア? 何度言ったらわかるんだい? 外に出たら駄目だって」

「……あなたがそうやって何でも禁止するから、私もこうやって発散したいのですよ」

「そう。じゃあ、窓に鉄格子でもつけようか。そうすれば出れない」

 思わず振り返ってしまい彼と目が合う。彼の表情は相変わらず穏やかだ。

「最低ですね」

「うん、僕は最低な男だよ? 君を愛してるから」

 雪がはらはらと降り続ける。白い妖精が舞い踊っているかのようにはらはらとそれは堕ちていく。地面に堕ち、溶けたり、そのまま残ったり。

 雪が降り続く中、私は彼と出会った。その出会いは最悪で最低で私が救われた人生で一番最高だった日。


「リヒャルト様、私を吸い殺してくれますか?」

「駄目」


 この問答はきっと終わらない。平行線は交わらない。

 あの奇跡のような雪の日に、私は彼に救われた。明日にはこの大雪はきっと積もって使用人たちが苦労するだろう。その程度、その程度のことのはずなのに、私は雪を見ると期待してしまうのだ。


 また、あの日のように彼に血を吸われることを。





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