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吸血鬼の贄姫  作者: 黄原凛斗
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3/34

平行線な想い

お題:凛とした道のり 制限時間:1時間  しかしお題通りには(以下略)



 吸血鬼の貴族であるリヒャルト。そして彼に救われ彼の眷属となったティニア。

 決してお互いの思いは通じない、悲しいほどに平行線の関係。


 こんなにも、共にいるのに私は貴方の役に立てない。私を生かした貴方の真意は謎のまま。

 まるで姫君のように扱ってくれる。けれど会うことは決して多くない。求めることもわからないまま私は貴方の眷属としてこれから終わりのない人生をを長々と続けるのだ。

「お嬢ー、リヒャルト様からの贈り物ッスよー」

 扉を叩く音と共にリヒャルトの従者の一人であるゼルが綺麗な装飾が施された箱を置いた。

「……どーしてたかが包装にこんな派手なことするんでしょうかあの人は……」

「どーしてでしょうねぇ。いいじゃないですか、愛されてて」

「私が欲しいのは愛じゃないわ」

 そう言うとゼルは苦笑しつつも箱を開ける手伝いをしてくれる。従者の中でも一番話しやすい男で軽い性格なためこういった関わりがほかの従者たちより圧倒的に多い。

「あーあ、リヒャルト様かわいそ。まあ、お嬢の気持ちはわかりますよ。俺も一応あの人に忠誠を誓う従者なんで」

「あらそう。貴方のことなんて割りとどうでもいいわ」

「……今ちょーっと俺傷ついたんスけど」

 箱の中身がようやく姿を現したかと思うとそれは淡い桃色のドレス。しばらくゼルと共に沈黙していたがようやくその意図を悟り、箱とドレスを抱え暖炉へと放り込んだ。

「ちょ!? お嬢何して――」

「燃やす、そして何も見なかったことにする」

 マッチを暖炉へ放り込むと薪に火がつきドレスとともに勢いよく燃えていく。

「ああ! 怒られるの誰だと思ってるんスかー!!」

「あなたでしょ」

「わかってるならしないでくれッス!!」

 暖炉に視線を合わせるためにその場にしゃがみ込む。パチパチと音が響き、背後で「あー、なんて言われるのやら……」とぶつぶつ愚痴を漏らしているゼルの声が聞こえてくる。

「……あの方は私を叱ることが基本ないのよね。こんなことしても」

「そりゃ……まあ、リヒャルト様はお嬢大好きですから」

「……私はあの方に心酔しているけれどあの人を愛してはいないもの」

「お嬢本当にブレないッスね。凛としすぎて尊敬するッスよ」

 呆れ半分で言うとゼルは部屋から出ようと背を向ける。

「そうそう、ゼル。リヒャルト様に伝言お願いしてもいいかしら」

「へいへい。俺が殺されない内容でお願いしますよー」

「いい加減、私を餌にしてください。あと愛人なんてまっぴらです。ついでにゼルに八つ当たりするなら当分貴方とお食事しません。って、お願いね」

 微笑みを浮かべるとゼルはうんざりしたようなため息をつき礼をした。

 足音が遠ざかり自分以外誰もいなくなった部屋で未だ燃え続ける炎の音を聞きながら窓の傍へと寄り添った。カーテンを引くとそこには鉄格子。甘い束縛。その束縛が心地いい反面吐き気がするほど苛立たしく感じる。

「私は……愛されたいわけじゃない……」

 いつかあの人に血を吸われ、一滴残らず搾り取ってあの人の糧になって欲しい。それが願いだというのに、あの人は私に愛を向けてくる。

「早く……早く私を吸い尽くして……」


 あくまで彼女の道は今までと変わらない。愛を拒み血を捧げるためだけに生き続けるのだから。








 一方、その頃。

「あぁ? 燃やされた? んなこと予想してたよ、だからお前を遣わせたんだろうが止めろよ」

「いや、あの、すいません……」

「謝罪なんかいらない。全く……ティニアは相変わらずだな」

 リヒャルトの部屋でゼルは土下座のままだ。リヒャルトは不機嫌を隠せない様子で机を指先で叩く。

「ああ……ったく……」

「それはそうと、お嬢――いえ、ティニア様から伝言が」

「ほ、本当か!?」

 目に見えて喜ぶようすにゼルは主人を思わず哀れんでしまった。部屋で待機している従者二人もなんとなく伝言内容が読めたのか哀れみの視線をリヒャルトに向けている。

「彼女の言葉なら一言一句違わずに言えよ。ほら、早く」

「えーっとですね……『いい加減、私を餌にしてください。あと愛人なんてまっぴらです。ついでにゼルに八つ当たりするなら当分貴方とお食事しません』……だそうです」

 十秒ほど沈黙状態に陥り耐えられなくなったのか従者の一人ブランが「ぶっは!」と吹き出した。それを肘で諌めるもう一人の従者オリバの様子がゼルの視界に映る。

 そしてリヒャルトは面白いくらいに落ち込んでいた。机に突っ伏しどこか遠くを見るような目になっている。

「……くそぅ……ティニア……相変わらず冷たいな…………ゼルに八つ当たりしようと思ったのに……」

 半泣き状態でブツブツと呟く大の大人の姿にブランがまたもや吹き出す。ずっと黙っていたオリバはブランを軽く叩きつつリヒャルトに苦言を呈した。

「リヒャルト様。お気持ちはわかりますが……もうちょっと威厳というものをですね」

「威厳とかしらねーよんなもん!! 奥さんいるオリバはいいよな! 僕なんか……僕なんか……」

「ティニア様はずっと、この屋敷に来てからああいった方ですし……諦めたらどうかと」

「いーや、諦めないからな!!」

 ふてくされたように宣言するもののリヒャルト本人にもあまり自信がなかったりする。

「僕は……彼女以上に惹かれた女性はいないんだ」


 凛とした瞳に強い意志。どれだけ道のりが長かろうと彼女と結ばれたい。

 そう願うものの、一番の障害が彼女であり自分であることは間違いなかった。


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