4話:叫び
目の前に広がる光景は焼けた痕の残る家たちと、自分以外に誰もいないであろう寂れた記憶にある村。
贄にされた後のことを知らない。だから、もしかしてとは思った。
「……これは、あの人のやったことなの?」
死体はない。代わりに墓とでも言うように墓標が建てられている。それはいったいどれだけの死体なのか――。
時間は少しだけ遡る。
目を覚ましたのはどこか見覚えのある森。しかしすぐ近くに村のようなものが見えるため森で迷うことはないだろう。しかしそれよりも自分がなぜここにいるのかが問題だ。
「風……」
風に攫われたと偽り無いことだが風が自然現象とは思えない。とすれば誰かの陰謀か。
ようやく森を抜けて村へとたどり着いた。
そう思っていたのに――
「……これ、は」
この景色を私は知っていた。小さい、本当に小さな村で毎日が平凡に過ぎていく貧しい村。けれど、家が焼けたまま放置されることはない。
ましてや誰も住んでいないことなんてあるはずない。
かつて自分の住んでいた村は完全に崩壊していたのだった。
ふと、視界の端にまるで墓のようなものが映った。近づいてみるとそれは墓標なのか粗末なものでここに眠る、とだけ書かれていた。その字を私は見たことがある。
「リヒャルト、様……」
もし、村人たちが何者かの襲撃によって全滅したのだとしたら? それが人外である吸血鬼だったとしたら? 無力な彼らに抗う術はないだろう。
「……これは、あの人のやったことなの?」
その呟きに応える声が背後から飛んできた。
「そうよ。貴方の主であるリヒャルトがやったことよ」
見覚えのない姿だった。
明るく長い金髪で癖がある。青い目はまっすぐと自分を見ていて可憐さな顔はまるで嘲笑うようなそんな表情。装飾華美なドレスは貴族のようで真っ先に思いついたのが吸血鬼関係だった。
「……貴方は?」
「私はリヒャルトの血縁、とだけ言っておくわ。それよりも、これを見てどう思う? 無実の人間が殺戮された様を」
両手を広げて村の参上を見せつけるように彼女は言う。
何もかもが壊れたこの村を見て言えること。それは――
「……いい気味、ですね」
自分でも気づかないうちに笑みを浮かべていることに気づく。とても楽しそうな自分の声音と笑顔に彼女は驚愕していた。
「どういう意図でここに連れてきたかは知りませんが私が言えることはひとつだけです。なんていい気味なんでしょう! あいつら全員死んだのかと思うと嬉しくて仕方ない! どうせ誰も私のことを好きな人なんていなかったもの。罪のない人? 贄の犠牲者見殺しにしてる時点で誰も無罪なわけないんだよ!! はっ、ふざけんな偽善者どもめ! いい気味だよ本当! いったいどれだけ苦しんで死んだんでしょうね? きっとリヒャルト様のことだもの。じっくり嬲るように殺したんでしょうね! 死に間際の村長はなんて言ったのかしら。命乞いでもしてくれたかしら。ああ……贄なんてくだらない習慣を続けてる低脳どもが消えてくれたのかと思うと本当に嬉しい!」
久しぶりに心の底から喜びの思いを発散する。どうしようかこの思い。溢れ出る喜びを。
「な、なんで……? 普通人間なら恐れ慄きリヒャルトのそばから離れたくなるでしょう!? よ、喜ぶって――」
何を言っているんだろう彼女は。
私は元々陰気で最悪な女だっていうのに。
時間が空いたにもかかわらず対して話進んでいなくてごめんなさい!そして恋愛小説なのに恋愛にならないのはいつものことですごめんなさい。
ちゃ、ちゃんと恋愛になる、予定……ですよ……?(震え声)




