3話:風に攫われる
『君の血は僕のものだ』
何度でも思い出す、あの時の言葉。冷たくてでも暖かくて心地よいその言葉は私の全てになった。
誰かに必要とされたかった。姉の代わりじゃなくて、私じゃないとだめだと言ってくれるのを望んでいた。けれど、そこに愛が絡むと話は違う。
愛なんて嘘で求められるのはもう嫌だ。
私が求めるのは私が貴方の糧となることだけです。私は貴方の「もの」でいいんです。
目が覚めると外は夕方のようで淡い橙色の光が差し込んでいる。
少しだけ頭を動かすとリヒャルトの仏頂面がすぐに目に入った。
「……リヒャルト様」
「僕は少々、君を甘やかしすぎたのかもしれない」
そう言って首元に手を添えてまるで首を絞めるように力を込める。痛みはそこまでない。ただ少しだけ息苦しさは感じるものの生命の危機を感じることはなかった。
抵抗する素振りすら見せないからかリヒャルトは苛立たしげに眉を寄せる。
「そうやって流されるままで死んでいくっていうのか君は」
辛そうなその瞳に映るのはされるがままの自分。
私は貴方の餌です。糧です。特別じゃなくていいの。
それなのにどうしてわかってくれないの。
「君が死ぬなんて耐え切れない。だから頼む……僕を愛してくれ」
寿命が削れていく眷属モドキ本人の愛がなければ完全体にはなれない。
だからって、偽りの愛は囁けない。
「君の強情さは相変わらずだね」
困ったような笑顔で一度私から離れる。夕日に照らされてリヒャルトの顔に影ができてどこか儚げだった。
「どうしていれば……君は僕のことを愛してくれたのかな」
「……それは……私の願いを叶えてくれれば、ですかね」
「君願いは僕に吸い殺されることだろう?」
「そうです。けど――」
もし、貴方がその命を全て賭して誓ってくれると言うなら――
ありえない可能性を言葉にしそうになって口を閉じる。
そんな馬鹿げた夢を望んではダメ。
そんなことを考えていると室内にもかかわらず強い風が吹いた。
「……この風――まずい!? ティニア!!」
伸ばされた手に触れる直前に風が私を覆い視界が霞んだ。
髪が風で乱れ私の赤が舞う。これは――
「ティニア!!」
風に呑まれ、彼が遠のいていく。文字通り風に攫われたのだと理解することになるのは次に目を覚ましてからになるだろう。元々体調の良くなかった今の自分では意識を保てずまた暗闇へと堕ちていった。
再び夢を見る。幸せだけど、憎い記憶の夢を。
『可愛い私のティニア。愛してるわ』
姉の微笑みが眩しいほどに美しく、抱きしめてくれると感じる温もりは何よりも尊いもの。
私も姉さんが大好きだった。同時に妬ましかった。この現実はその代償なのだろうか。
このことがなければ私は彼、リヒャルトと出会わなかった。
リヒャルトは私から聞いた情報だけで姉さんを憎んでいる。同時にあの男のことも憎んでいるだろう。その理由は自分には理解できない。
どうして、私のことなのに貴方は自分のことのように怒れるのですか?
風の正体とティニアの行方は……。
お待たせしました!スローペース更新で申し訳ありません。他の小説を書いていることでこちらを疎かにしているようで大変罪悪感があります(もちろん単純に行き詰まることもあるので一概には言えませんが)。そしてお気に入り登録まことにありがとうございます。これからも頑張ります。
 




