2話:青白い君の頬
再びリヒャルト視点です
「いやいや、僕は魔王になる気はないって何度言えば」
「一族の顔に泥を塗るつもり? リヒャルトが候補に選ばれて一族全員が期待したっていうのに!」
「だって魔王なんて面倒だし」
胸ぐらを掴まれながらも真顔で応じるリヒャルトにさすがにネグルはイラついたのか掴んだままリヒャルトを投げようとする。しかしさすがにそこまで甘くないのかリヒャルトはそれを防ぎ逆にネグルを投げ返した。
ぶつかった先で派手な音がしネグルも声にならない絶叫をあげたが素知らぬ顔でリヒャルトは言った。
「痛くないだろ君なら」
「うるさい! 乙女を投げるなんて一体どういう了見よ!」
「胸ぐら掴んで投げようとする君を乙女とは認めたくないな」
リヒャルトは胸元を直して机に座りなおすと書類を見ながら彼女に向かって吐き捨てた。
「早く出ていきなよ」
「嫌よ」
「迷惑なんだけど……」
「聞いたわリヒャルト。眷属の女を囲っているそうね」
「それが」
「眷属とは言え元人間を囲うなんて恥にも程があるわ! 早く捨ててきなさい!」
リヒャルトはとうとうネグルを無視し始め書類をまとめて部屋から出ようとする。ネグルはギャーギャー何やら喚いているがリヒャルトは聞こえないふりをする。
すると今度はオリバが部屋に駆け込んできた。
「リヒャルト様大変です!」
「オリバ! 今リヒャルトは私と話してるんだから下がりなさい」
「ネグル様、どうかご容赦ください。リヒャルト様、ティニア様の部屋にお急ぎください!」
「――! ティニアに何かあったのか!?」
リヒャルトはなんとなく予想はついていた。しかし頭の中でたいしたことないと願っていた。くだらないくらいがちょうどいい。しかし、オリバはそんな希望を打ち砕く。
「ティニア様が意識不明で……原因不明の重体です」
リヒャルトはその先を聞かず走り出していた。
ティニアを失うなんて考えたくない。そんな思いでティニアの部屋へと急ぐ。
部屋へと急いで駆け込むと住み込みの医師がティニアを見ている。その横で不安そうにメグはティニアを見つめている。
「……ティニア」
顔色が悪く息も乱れている。ここまでひどい状態のティニアを初めて見た。
「何かわかったか?」
「ティニア様のお体は異常をきたしております。やはり、完全に眷属に、もしくは吸血鬼にならない限りこういった事態はまた起こるかもしれません」
「……とりあえず、今は大丈夫か?」
「まだ様子見ですが……ひとまず命に別状はありません。発見が早くて助かりました。メグがすぐに見つけていなければ危うかったかもしれません」
リヒャルトは視線をティニアとメグのほうへ向けると今にも泣きそうな状態でティニアの手を握っているメグと目があった。
「メグ、ありがとう」
「いえ……私がもっと早くお体のご様子に気づいていれば……」
「仕方ない。いずれ起こることだったんだ」
真っ青なティニアの頬を撫でる。いつもは嫌がられるのにそれすらないことに寂しさを覚える。ティニアが元気じゃないことに不安を抱いてしまう。
「ティニア……どうか僕を愛してくれ」
完全に吸血鬼にするにはティニアの気持ちがなければいけない。互いに想い合い、吸血行為をすることで完璧な眷属、吸血鬼の下位互換として生まれ変われる。今のままでは遅かれ早かれティニアは死んでしまう。不老長寿をティニアに与えるためにはそれしかない。
もう一度ティニアの頬を撫でる。もちろん、いつものようにはたいてくる手も憎まれ口も飛んでこない。
そんな光景をネグルは部屋の入り口から観察していた。
「ふぅん……」
青白いティニアの寝顔と悲しげなリヒャルトの顔を交互に見て、意味ありげに微笑んだ。
次回、少し更新が遅れるかもしれません




