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吸血鬼の贄姫  作者: 黄原凛斗
3章:従妹姫の怒り
24/34

――:夢の中の過去夢

ティニア視点となります。

 リヒャルトが従妹に胸ぐらを掴まれているその頃、ティニアはぼんやりと本を読んでいた。

 メグに注意されたがベッドの上で横になりながら本を読み、たまに枕元に置いた魔界にあるというお菓子を食べている。この魔界にあるお菓子はグミというのだが弾力があって甘みがある小粒のお菓子だ。

 シリーズものの続きを読んでいるが半分惰性で読んでいるだけな気がしてきた。とりあえず主人公の少年が二部からまるでヒロインのようだが突っ込んだら負けなのだろう。夢魔という種族も出てきており魔族の存在をはっきりと肯定している作品だ。

 そういえばオリバさんとブラン、それにゼルは純血の吸血鬼ではないそうだ。ブランなんかは吸血鬼の血どころか夢魔一族出身らしくかなり特殊な環境だとゼルから教えてもらった。ゼルにも何やら事情があるらしく、リヒャルトはそういった脛に傷を持つ経歴や特殊な人材を積極的に自分の部下にしているらしい。

 別にその話を聞いて特になんとも思わないけれど少しだけ彼が見えなくなる。

 リヒャルトの気持ちをわかるはずもないがわかりたくもない。彼の向けてくる愛に答えることが怖いから。


 もう捨てられたくないのに。


 次の本を取ろうと一度起き上がりベッドから降りようとした瞬間、胸のあたりに激痛が走った。

「っ――!?」

 突然すぎるほど突然に痛みが駆け巡りベッドから落ちる形で降りることとなる。それだけではなく頭もズキズキと痛みを発し呼吸することさえ苦しくなってくる。

 胸を抑えるが痛みは消えることはなくむしろ増していくような気すらしてきた。

 声を出そうにも息がうまくできずただもがくことしかできない。視界がぼやけてきたのは意識が遠のいていくからなのか。いや、違う。

(泣いて……るの……わた、し……)

 意味がわからない自分の涙に一瞬だけ意識がいくがすぐに痛みのせいで気にもならなくなった。


 途切れていく意識の中、最後に見たのは真っ青になったメグが駆け寄ってくる姿だった。






 ああ、これは夢の中なんだな、とはっきりとわかった。


 今見えているのは私がまだ人間だった頃、住んでいた村の会議の場だ。

『どうして姉さんなの!?』

 痩せた老人の村長に過去の私が迫る。周りの村人はまるで葬式のような顔をしていた。

『公平にくじを引いた結果じゃ。悪く思わんでくれ。変えることはできぬ』

『ふざけんな……吸血鬼への贄だなんて意味もない習わしなのに! 姉さんを無駄死にさせる気!?』

『黙れ』

 村長が厳しい顔で私を睨んでいる。私の顔は憎しみと怒りに染まった見るに耐えない醜い顔だった。

『姉さんを贄にだなんて認めないしそもそも贄を続けること自体馬鹿なのよ!! こんな習わし廃止すべきよ』

『黙れと言っとるのがわからんのかこの役立たず!!』

 村長の一喝に気圧された私は言葉を飲み込んでしまう。村長の言葉に呼応するかのように村人たちは口々に私への攻撃を始める。


『だいたい何もできない落ちこぼれの妹のくせにうるさいよな』

『姉より妹を贄にすればよかったのに』

『役立たずの穀潰しより有能な姉が贄になんて可哀想』

『本当に使えないくせによく吠える妹だ』


 どうしてあなたたちはおかしいと思わないの、と過去の自分は小さい声で反論するがそれは誰にも届かない。この習わしが異常であることに。

『リティアは今日からワシらが預かる。逃げぬように地下牢を用意しろ』

 そばにいた若者に村長は言いつけると会議は解散、といった流れになり村人たちが出ていく。きっと、今は家にいるリティア――姉を迎えに行くだろう。

 その前に……





 場面が切り替わるように暗転し出てきたのは姉にすがりつく私の姿。

『姉さん……逃げようよ……姉さんがいなくなるなんて嫌だ……』

『ごめんなさい……でも私たち二人で逃げきれるわけないわ。それに、これは誰かがやならきゃいけないことだもの。私が逃げたら誰かが代わりになるだけだし』

『でも……』

『ごめんなさい、ティニア』

 優しく抱きしめてくれる姉はまるで聖女のようで私は涙をこぼし子供のように涙を乱暴に拭った。

 母親譲りの綺麗な明るい金髪である姉は私の憧れだった。自分は父親似の赤いくすんだ髪ですごく劣等感を感じたからだ。

 だから、姉が妬ましく羨ましい。

 けれど姉に対する想いの方が強かった。そのはずだった。





 場面はさらに一転。今度は夜中、村人たちに囲まれぼろ布ように蹴られ殴られた私の姿が灯りに映されはっきりと見えた。左の二の腕にはナイフのようなもので切られた痕があり抵抗したことが伺える。あれだけの傷だときっとあとで残るだろうと素人でもわかる。

『村長、ティニアは何も知らないみたいです』

『そんなことあるはずなかろう! リティアが逃げたのじゃぞ! こやつしかありえん』

 姉が逃げた。

 喜びと同時にどうやって逃げたのか、そしてどうして私は連れて行ってもらえなかったのか。そんなことを暴力を振るわれながらも考えていた。

 そんな時、若い村人の一人が部屋へ駆け込んできた。

『村長! ルストの姿がどこにも――』

 ルスト、と聞いて村人たちはざわめく。彼のことは皆よく知っていたからだ。

 リティアの恋人であり、私を捨てた男。

『あの馬鹿め……』

 村長が忌々しげに舌打ちをすると私を見下ろしてなんの感情も感じさせないような冷たい声で私たちに言った。

『リティアとルストの逃げた不始末はティニアに取らせる。贄はこいつにする』

 すると村人たちは安堵の息を漏らした。贄を再選定することに不安があったのだろう。だから、役立たずが贄になって安心したのだ。

 そんな吐き気のする自分勝手さに呆れながら姉のことを考えている。

 どうして姉さんと彼は私を置いていったのか。

 私が要らない子だから?



 そして、再び景色は変わり銀世界の雪山の中。木に縛り付けられた私を見つけたのは――






『君の血は僕のものだ』


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