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第一節 8to9

 まず、この物語の説明をしておきたいと思います。

 簡単に申し上げますと、DISORDERSの外伝となります。

 そして、それぞれの話(この物語中では節、と表しますが)の後に、○to○とあるのですが、この○の中には本編の話の数が入ります。例えば1to2とあった場合、その節は第一話から第二話までの間に起こっていた話、という事です。ある特定の話と同時進行していた場合はonly○、となりますが。

 また、展開上こちらは更新されるのは遅く、本編が二十話目だというのに、まだ一節目、ということが殆どです。

 とはいえこの物語は読まなくても本編にそれ程支障はないと考えています。しかし、本編の伏線となる要素を多く含んでいますので余裕のある方は是非読んでみて下さい。

 レレが目を覚ましたのは、病室を思わせる白い部屋の中の、ベッドの上だった。服はいつの間にか着替えられ、上下ともに淡い緑の無地のロングシャツ及びロングパンツになっている。自分にかけられていた布団を少しめくり、上体だけを起こす。直後、腹部に強烈な痛みが走った。思わず、またベッドに横たわる。

 やがてここに至るまでの記憶がはっきりしてきた。そうだ。自分は、市民になろうとしていた都市から依頼を受けガード達の居るセンターを襲撃し、そしてそこで囚われていた市民達を救助しようとしていた。でも、センターに突入する時に一人の旅人にやられてしまったのだ。となると、ここは何処だろう。天国かしら。しかし、それにしては無機質ね。

「目が覚めたようですね。良かった。」

 不意に声をかけられた。声のしたほうに顔を向けると、扉の近くにお盆を持った男が一人立っていた。グレーのスーツに、顔を包帯で巻いている。そして綺麗好きなのだろう、両手には白い手袋をはめている。レレは、直ぐにそれが誰だかわかった。センターを守っていた旅人と共に居たガードだ。

「まだ名前を名乗っていませんでしたね。僕の名前はローエンといいます。貴方のパンチ、効きましたよ。」

 ローエンはゆっくりとレレの寝ているベッドに近づき、手にしていたお盆から器とスプーンを手にとり、レレに手渡す。レレは、まだ響く腹部の痛みに耐えながら上体を起こし、それを受け取った。器の中は温かいコーンポタージュで満たされていた。甘い香が鼻腔を擽る。

「インスタントもので申し訳ないですね。まだ周囲が慌しいもので。」

 微笑みながらローエンがそんな事を口にする。レレは戸惑いながらもスープを口に運んだ。香に違わず、甘い味が口の中に広がる。インスタントでありながら、心から温まるような心地がした。

「ここはセンターの中にある医務室です。貴方は、三日寝ていましたよ。」

「そう、だったの。」

「お陰さまで腕を吊っていた包帯も取れました。とはいっても、服の下は包帯でぐるぐる巻きですが。」

 笑顔であっさり言い切ったローエンであったが、聞いているレレの心中では罪悪感が見る見るうちに広がっていく。自分は異能者、しかもダブルだというのに彼らガードは自分を三日間も医務室で休めさせていた。その間に自分を処分する事など他愛も無い事だったはずなのに。そんな彼に自分は大怪我をさせてしまった。腕を吊るすための包帯は外せた、といっていたけれども、かなりやせ我慢しているに違いない。

「……御免なさい。」

 自然と、そんな言葉が彼女の口から漏れていた。しかし、ローエンは謝罪の言葉を聞いても、穏かな笑みを保っていた。

「ふふふ、気になさらないで下さい。僕の言い方も悪かったようですし。食事が済んだら、このお盆にのせてドアの近くに置いて下さい。あ、身体が動かないようでしたら、ベッドの脇でも宜しいですよ。」

 レレは視線を横に動かし、ベッドの脇に小さな机が一脚あることに初めて気がついた。ローエンがお盆を其処に置くと、部屋を後にする。

 とりあえずは、自分はここに居ても良い、そのようにレレには思われた。

 一方のローエンは、センターの廊下を歩きつつ、今後の彼女の処遇について頭を悩ませていた。彼女は異能者でダブル、そしてセンターで暴れていたというはっきりとした事実がある。自分は異能者狩りの担当者であったが、ガードの中ではそれほど権力のあるほうではない。今回の件の事実をある程度ねじ曲げる事事態は不可能とは言い切れないが、無罪放免には出来るだろうか。

 そもそも、ローエンはここの都市の、正式なガードではない。数週間前まで旅人であった。長期の仕事の契約を結んでいたが、それも明日で切れてしまう。

「自分に出来る事は、限られているという事でしょうか。」

 愚痴を、不本意ながらも漏らす。出来ない事も出来ると信じてしまう、その度に都市を統治するガードの存在を目の当たりにし絶望する。結局、同じ考えをもつ都市の中でも、彼らの誤った、矛盾した統治というものに縛られてしまう。その度に都市を離れ、旅人となり、そして新たな都市を目指す。

 異能者の何処が悪いというのか。彼女達が初めから異能者となりたい、そう思っているに違いないと考えているのだろうか。

 どうしてもレレをこの都市の市民にさせてあげたい、そう思うのは、同じ考えを持ちながらも異能者ならば排除するという、ガードのやり方に反発する心から来ているものだろう。

 ローエンはオフィスにある彼専用のデスクまで行き、椅子に腰掛けると両肘を突いて頭を抱えた。周囲は怪訝そうな顔で彼の様子を伺う。四日前の夜発生した襲撃事件の首謀者たちには既に処遇は下したというのに、ガード一人に重傷を負わせたレレにはまだ具体的な決定はしていない、という事に少なからず不満を覚えているのだろう。無理もなかった。

 以前、ローエンは彼らに、何故異能者というだけで同士を排除するのか、異能者と後から分ったとしても同士であるなら、同じ願いを持つものならば市民のままでも良いのではないか、そうセンターの所長に詰め寄った事があった。

「だってね、キミ、異能者は我々の生活を脅かすよ。考えてみたまえ。未知の力を持つ人間が隣に住んでいたら、枕を高くして寝られるかね。」

 これが、返答であった。

 不思議な事に、ローエンが今まで訪れた都市で、明確な異能者と判断する基準は無かった。では、一体何を以って彼らは異能者と判断するのだろうか。確かに未知、というのは怖いものがある。しかしそれが何時も自分たちに被害をもたらすとは限らない。いや、寧ろそこをどうにかして良い方向へと解決するのが自分たちガードの使命ではないのか。

 居ても立ってもいられず、センターから出る。天気は曇り。正門はまだ修復作業が進められている。作業の足場となるパイプの隙間を抜けて、広場へ繋がる大通りへと出た。そのまま広場へと向かうと、天候のせいもあるのか、今日は広場に居る人は少なかった。

「おや、あの人は。」

 すると広場中央の噴水の側にあるベンチに、見慣れぬ人が座っているのがローエンの目に止まった。森林迷彩の戦闘服を着た若い女性だ。肩にはアサルトライフルをかけている。しかし面持は美麗で、そのギャップが強烈な印象をローエンに与えた。

「旅人の方ですか。」

 気になって、その女性に話かけることにした。女性は目を丸くして彼の顔を見た。きっとぼんやりしてたのだろう。

「うん、そうね。あまり長居する予定は無いんだけど。」

「というと、途中に寄ったという事ですか。」

「そんなところ。もう一人一緒に旅しているのがいるんだけど、その人がゆっくりしたいって言うから。ところで貴方は?」

「僕はローエン、ここでガードとして働いています。長期間契約ですが。」

「ローエンね。私はハリマ。格好は変だけれども、一応旅人よ。」

 そういうと戦闘服を身にまとったハリマは笑みを浮かべた。邪気の無い笑顔だ。つられてローエンも笑う。しかしどうも心の底から笑えなかった。

「どうしたの。何だか疲れてるみたいだけど。腰掛けたらどうかしら。」

 ハリマが場所を譲るようにベンチの端に寄った。初対面の人間に、とローエンは一瞬渋ったが彼女のもつ雰囲気には何故か癒されるものがあった。

 ベンチの端に腰掛けると、思わず彼の口から溜息が出た。

 彼女はさっき、長居する予定は無い、といっていた。となると、自分の愚痴を聞いてもらっても別にいいだろう。覚えていたとしても、他の都市で良い思い出話となるだろう。ローエンはそんな事をふと思った。

「良かったら、僕の話を聞いてもらえませんか。この都市にいる間は秘密にしてもらいたいのですが、ここから離れたら話の種として笑っても良いですから。」

 一体何を言っているのだろうか。いきなり喋りだしてしまった自身に、ローエンは少なからず驚きを覚えた。しかしもう遅い。彼女は静かに頷いてくれた。

 そして、彼の心の鬱憤を全て彼女に話した。時間は、だいたい二十分程。彼がこれほど長く話すのは珍しいものだった。 

「そんな事があったのね。」

 暫らく沈黙が続き、やがてハリマは口を開いた。そんな彼女の目は、真剣そのものだ。ローエンの背筋に電気が走った。

「ねぇ、ローエンは明日契約が切れるんでしょう。だったら、さぁ。」

 急にハリマがローエンに寄って耳打ちをする。その内容を聞いた彼は、信じられないような表情を見せた。

「本気ですか。」

「本気。ついでに今センターにいる女の子の事も、何とかしちゃいましょうよ。この都市の信条は来るもの拒まず、でしょ。」

「それは助かるのですが。しかし、何故ですか。どうして初対面の人の事なんか。」

「私、物好きなのよ。」

 ハリマに見つめられたローエンは、黙り込んでしまった。だが、もし彼女の協力が得られれば、願ったり叶ったりである。

 少しの間考えてみたが、やはりそれが今思いつく最良の手段な気がした。根拠は無いが、彼女には何故か納得させるような不思議な魅力を持っていた。

「分りました。これから、宜しくお願いします。」

 



 ――――――――――――――――


 

 

 数時間後のことである。

 某都市を統治するセンター内で、全ガードが既に死に絶えた人として発見された。ある者は銃撃を受け、ある者は切り裂かれ。

 それから数日後、新たなガードが組まれる事となった。人員は、市民の中から選ばれた。

 ある意味でその都市は生まれ変わった。レレは、その都市の中で一市民として認められた。

 来るもの拒まず。

 それが全市民共通の信条であったからだ。そしてその足かせとなっていた旧ガードは既に存在しない。自然な流れであった。

 一方その中に、長期契約を結んでいたローエンの姿は無かった。彼は、旧ガード体制崩壊の翌日、混乱のまだ止まぬ都市を後にしていた。


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