98.訪問者です
コレットとの旅行から数日後。
ジルベールが再びやって来た。
ちなみにレティシアは、慣れない旅路で帰ってきてから2日ほどベットとお友達になっていた。
あまりの体力の無さに驚いてしまった。外出しないと、体力は最低限になるのだと身をもって知ったのである。
それもあり、本当は旅行の次の日にジルベールがお伺いを立ててきたが、断ったというエピソードもある。
「体調はどうだい?」
「すっかり元通りですわ。体調というより、体力がないだけなので心配いりません」
「問題ないのなら良かった」
「ええ。先日は申し訳ありませんでした。まさかここまで自分の体力がないとは思いませんでしたわ」
本当に驚いた。帰って早々、土産話をしようと思っていたのに急に体の重さを自覚して、食事すらとれずに寝てしまった。
次の日もかろうじて食事はとれたが、すぐに眠くなってしまい、ほぼ寝ていた。
今まで不眠だったのはどこに行ったのかというほどに、熟睡していた。
「まあ、レティシアの場合、生命維持で精いっぱいだったとは思うよ」
「皆様にも言われましたわ。けれどさすがにこれは問題なので、これから運動しようという話になったんです」
「それはいいことだね。けれど決して無理しないように。ゆっくりしていこう」
「ええ。それで相談なのですが……」
「何かな?」
レティシアは少し緊張しながら、ジルベールに提案する。
「良ければ、これからお散歩をしませんか? 殿下とお会いする時、部屋で談笑するのも良いですが、外でもしてみたいのです」
「……私と?」
「はい。けれど無理にとは言いませんわ。殿下もお疲れでしょうし――」
「いや、そんなことはない。ぜひ、一緒に行かせてほしい」
ジルベールも忙しいだろうと遠慮したレティシアだが、ジルベールは食い気味にのってくれた。
「すまない。まさか私を誘ってくれると思わなくて、驚いてしまったよ」
「嫌というわけではないのですね?」
念のため確認すると、ジルベールは即座に否定した。
「もちろんだよ。嬉しい。レティシアが私を頼ってくれてとても嬉しいよ」
その表情はとても明るいもので、嘘ではなさそうだ。
というか気のせいでなければ、背後に花が咲いていそうだ。少し可愛いと思ってしまう。
「良かったですわ。では、早速行きませんか? とはいえ、近場の公園なのですが」
「ああ。最初は近いところがいいよ。すぐに帰れるしね」
そういうと、ジルベールはレティシアに手を差し伸べる。
なんだかエスコートされるのも久しぶりだ。懐かしい気持ちになりつつ、その手を取った。
◇◇◇
それからジルベールが来ると、二人で公園を散歩するのが恒例になった。
もちろん、変装をしている。ジルベールはロチルド商会に来る時は怪しさを感じるローブを羽織っていたが、今は良いところのお坊ちゃんのような格好だ。
堂々としているほうが目立たいのか、今のところ誰かに気が付かれたことはない。
そんな風にジルベールと過ごしていくうちに、レティシアは自分の気持ちと向き合えるようになっていた。
コレットとは文通をしたりたまに会ったりして、ヒントをもらうことが出来た。そのおかげで、レティシアは少しずつ自分の気持ちを理解出来たのだ。コレットには感謝してもしたりない。
やはりレティシアはジルベールを嫌いになれない。そのことは理解した。
けれど、一緒にこれからの人生を歩むということは、まだ選べなかった。
レティシアは自分がジルベールの隣に立っていいのか、自信が持てないのだ。
そんな日々を過ごしているうちに、コレットと旅行に行ってから3か月ほど経っていた。
時間が過ぎるのはあっという間のようで、ゆっくり過ぎているようにも感じた。
そんな折、ある人物が、レティシアの元を訪ねていた。
「今日はありがとうございます。ドミニク様」
「久しぶりですね、レティシア嬢。殿下に遠慮してたら中々来れなくて」
「ふふ、殿下は小まめに顔を出してくださいますもの。ドミニク様のお話も殿下やコレット様から聞いておりますわ」
来たのはドミニクだった。レティシアがロチルド商会に身を寄せてから初めてである。
「本当に体調も良くなっているようで安心しました。半年以上前とは比べ物にならないですね」
「ええ。皆様のおかげですわ」
「殿下との散歩はどうですか?」
「初めのころより長い距離を歩いても疲れなくなりましたの。少しずつ体力もついてきて嬉しいですわ」
ドミニクやマルセルとは直接やり取りしていないが、ジルベールやコレットが話している。
もちろん、レティシアに許可を取っているので律儀だ。
「ところで、今日はどうされたのです? 色々頑張ってらっしゃるそうですが、体は大丈夫ですか?」
「このくらい大丈夫です。……実はもっと早く来たいと思っていたのですが、勇気が出なくて」
「勇気ですか?」
「はい」
そういえばドミニクの表情は来てからずっと固いものだった。
けれどレティシアは、ドミニクに何かされた覚えはない。
ドミニクが必要だった勇気とはなんなのだろう。
ドミニクは深呼吸してから、口を開く。
けれど言葉はその口から出ず、何度も開いたり閉じたりしている。
そんなドミニクを見て、レティシアは話題を変える。
「無理して話す必要はないと思いますわ。けれど、何かお話ししたいということでしたら、お茶をまず飲みませんか?」
そう言って、温かなお茶を差し出す。
レティシアが最近気に入っている、リラックス効果のあるお茶だ。
ドミニクに勧めると、少し迷ってからお茶を口に運ぶ。
「美味しいですね」
「そうでしょう? 最近のお気に入りなんです」
しばらくお茶で喉を潤していると、ドミニクは意を決したように口を開いた。
「その、レティシア嬢に謝罪をしたくて」
その言葉に、レティシアは目を見開いた。
いつも読んでくださりありがとうございます
作者は豆腐メンタルなので、過度な批判や中傷は御遠慮いただけると幸いです。




