95.孤児院に行きます
道中は特に問題なく、予定通りに宿に着いた。
途中で休憩したけれど、あんなに争奪戦を繰り広げたにも関わらず、ロチルド商会の従業員は自分の仕事に集中してレティシア達に必要以上に話しかけて来なかった。
けれどこちらを見ているのは知っているので、恐らくそれで満たされているのだろう。
多分、帰ったら彼らがクロードやセシル含めた全員に自慢するであろうことは容易く想像できてしまった。
「レティシア様、愛されてますねぇ。皆さん目がとても温かいです」
宿に着いて荷解きをしていると、コレットにしみじみといった風に言われた。
その言葉に、レティシアは頬を染める。
「少し恥ずかしいですわ」
「恥ずかしく感じるくらいで良いんですよぉ。レティシア様の今までを考えたらまだまだまだまだ足りないくらいです」
「そ、そんなに?」
「そうです」
コレットの力強い言葉に気圧されつつ、確かに今まではそんなことはなかったななんて振り返っていた。
「と、ところでコレット様、孤児院はいつ行かれます?」
「少し休憩したら行きたいです。レティシア様は、体調やその他大丈夫ですか? なんなら明日の紹介でも大丈夫ですよ」
「いえ、わたくしも大丈夫ですわ。是非一緒に行かせてください」
「わかりました」
クロード達がとってくれた宿は、静かでありながら温かさを感じるような雰囲気を持っていた。
女将さんも、適度な距離感でサービスを提供してくれるので、変に気負う必要なく心地よい。
セキュリティもしっかりしているようだ。
感心しつつ、少し休んだらコレットの案内で孤児院へ向かった。
一般的に想像するような孤児院で、少し古いのは隠せないが子供達の活気に満ちていた。
「あ! コレットおねえちゃんだー‼︎」
「おかえりなさい! 院長を呼んでくるね!」
「ねぇねぇ! 見てみて! みんなで作ったんだ!」
コレットに気がつくと、ワラワラとコレットに群がる子供達。それに笑顔で対応するコレットの様子を見て、コレットもとても愛されているのだなとレティシアは思った。
「おねぇちゃんのお友達……?」
「そうだよー。今回皆に紹介したくて、一緒に来てもらったの」
コレットはそう言いながら、レティシアに目配せする。
レティシアも務めて笑顔を心がけながら、話しかけた。
「こんにちは。わたくしはレティシアといいます。短い時間ですが、よろしくお願いしますね」
「わぁ! 綺麗!」
「コレットねぇちゃんよりお淑やかだー!」
「ちょっとーどういう意味?」
「やべ! なんでもなーい!」
皆がワイワイ話すので、レティシアはついていくので精一杯だ。なにせ嵐のようにコロコロ変わる。
そんなレティシア達に、1人の老人がやって来る。きっと孤児院の院長だろう。
「コレット、お帰り」
「院長、ただいま。そして紹介させてください。私の友人、レティシア様です」
コレットに紹介されて、レティシアは平民の挨拶をする。きっと貴族然としてしまえば、余計な緊張を与えてしまうだろうから。
「レティシアです。コレット様にはお世話になっております」
「貴女が……。こちらこそ、コレットがお世話になっています」
深々と頭を下げる院長。白髪混じりで皺もあるけれど、背筋はピンと伸びていた。
「大したおもてなしはありませんが、どうぞこちらへ」
「お気になさらず。むしろ申し訳ありませんわ。そうですわ、良ければこちらをどうぞ」
レティシアはお菓子を差し出す。ちゃんとコレットに人数を聞いて、多めに用意した。
孤児院は国から補助金が出ているとはいえ、甘味を買えるほどの余裕はないだろう。
レティシアが来ることで、緊張して余計な気苦労もしてしまうことは想像に容易い。これで少しでもお詫びになればと思う。
「こんな高価なもの、よろしいのですか?」
「はい」
「ありがとうございます。コレットはとても良い方に巡り会えたのですね」
「違いますわ。わたくしがコレット様に出会えたのです」
「れ、レティシア様」
恥ずかしそうなコレット。本人の前でこう言われると、恥ずかしいのは当然だ。
このあたりで止めておいて、院長に案内された。
その途中で子供達がお菓子に気がつき、一斉に寄って来る。やはりお菓子にしておいて良かったと思うレティシアだ。
「それってお菓子⁉︎ 食べて良いの⁉︎」
「後で、だよ。今はお客様をご案内しないとね」
「お姉さんがくれたの?」
突然1人の女の子がレティシアに話しかけてきたので、思わず驚いてしまうが、笑って頷く。
「ええ。皆喜んでくれると嬉しいわ」
「わあ! ありがとう! コレットねぇちゃんのお友達は優しいねぇ!」
「こら、レティシア様ってちゃんとお名前があるのよ」
コレットが注意して、一瞬考え込んだ子供はぱああっと花が咲くように笑った。
「じゃあ、レティシアおねぇちゃんだね!」
その一言は子供らしくとても無邪気だった。コレットと院長は顔を青ざめさせているが、見たところ5、6歳の子に貴族ですと言ってちゃんと理解できるか怪しいところだ。
それに子供達が認めてくれたようで、レティシアは嬉しかった。
「嬉しいわ。わたくし、妹や弟がいないの。是非そう呼んでくれると嬉しいわ」
「うん! レティシアおねぇちゃん!」
そのあまりに眩しい笑顔に、レティシアは危うく目を焼かれるところだった。
いつも読んでくださりありがとうございます
作者は豆腐メンタルなので、過度な批判や中傷は御遠慮いただけると幸いです。




