94.出発です
コレットとの旅行はトントン拍子に準備が出来た。これもクロード達のおかげである。そのまま宿の手配もしてくれたのだ。
なにせレティシアはコレットに自分がとると言ったものの、手配などはやったことがないのでスムーズにするなら任せたほうがいい。
全て任せるのは気が引けるので、後学のためにそばでやり方を見て勉強させてもらった。
コレットから返事も来て、無事に行くことが出来る。
レティシアは初めての旅行に、とても気分が高揚していた。
まるで初めて遠足にいく小学生のように、無邪気で可愛らしくはしゃいでいる。
いや、公爵令嬢であるので傍目から見て、わかりやすくはしゃいでいる訳ではないが、4ヶ月近く一緒にいる者達からすればとても分かりやすかった。
そんな微笑ましい状態に温かい眼差しを受けているのに、レティシアは気がついていない。
浮き足立つような状態で数日過ごし、遂に旅行もといコレットの帰省の日になった。
迎えに行こうかと思ったけれど、コレットのいる場所は王城の敷地内だ。まだレティシアは何となく、王城に近づこうとは思えなかった。
そのレティシアの気持ちを、コレットは尊重してくれている。
コレットが来るのを今か今かと待っていると、ようやくコレットが来た。もちろん約束の時間より少し早いので、レティシアの体感時間がゆっくりなだけだ。
「こ、こんにちは。今回は私のために、準備をしてもらって本当にありがとうございます」
「コレット様、お待ちしておりましたわ」
レティシアの後ろにはクロードとセシル、ルネにジョゼフもいる。
コレットの両手を握りレティシアは歓迎する様子に、恥ずかしそうにしつつもにっこり笑った。
「コレットさん、レティシア様のことをよろしくお願いします」
「はい!」
「これを機に、外出する楽しさを教えてあげて」
「頑張ります!」
「……保護者?」
クロードとセシルがコレットに伝える内容に、思わず声が漏れるレティシア。
そんなレティシアに、ルネとジョゼフは笑って言った。
「まあ、保護者で間違いないでしょう。なにせお嬢様の身元引受人のようなものですから」
「私たちもお世話になっている側ですからね」
「……ルネとジョゼフと離れるのは久しぶりね。昔はすれ違うことも多かったけれど」
レティシアの前世の記憶が戻る前までは、2人の仕事が忙しいのとあまり目をつけられないようにするために、接触を減らしていた。
最近はずっと一緒にいないまでも、すぐに顔を合わせられるような状態ではあったので、すれ違うなんて認識はなかった。
なので寂しさはどうしても感じてしまう。
「……親鳥から巣立つ雛ってこんな気持ちなのかしら」
「ふふ! お嬢様ったら」
「我々も寂しいのは事実なので、同じような感じですね」
笑いあっていると、コレット達は話が終わっていたようだった。慌ててレティシアはコレットに向き直る。
「申し訳ありません、コレット様」
「いいえ。本当に信頼されているのだと、微笑ましく思っていました」
「それは少し恥ずかしいですわ。……それじゃあ、行きましょうか」
「はい」
レティシアは今度はクロード達の方へ向き直る。
「それでは、皆様。行って来ますわ」
「ええ。気をつけて行ってらっしゃい」
セシルを筆頭に見送ってくれ、見えなくなるまでレティシアは彼らに手を振った。
◇◇◇
「ロチルド商会の馬車って、とても乗り心地が良いですね」
「そうなのですか?」
「はい。辻馬車なんて、半日も乗っていると筋肉痛になりますよ。レティシア様はもっと良い馬車に乗っていましたか?」
「……王家の馬車はとても快適でしたわ」
「確かに王家と比べると、どれも見劣りはしそうですねぇ」
レティシアは何だか申し訳ない気持ちになるが、コレットは全く気にしていない。
「ふふ。レティシア様ってやっぱり生粋の貴族ですね。高潔な雰囲気がありますし、そういうところも」
「……亡命するならこういうのも慣れないとですね」
「平民ですと基本辻馬車ですからね。けれどどちらにせよロチルド商会に身を寄せている時点で、そこまで不便はないでしょう? クロードさん達は過保護ですし」
「それはそうですね。危うく今回の旅費も出されそうになりましたし」
「目に浮かぶようです」
コレットにも、クロード(主にセシルだろうが)の過保護は伝わっているようだ。
「コレット様の故郷ってどんなところなんですか?」
「とても温かったですよ。田舎なのですが、それ故に人との距離は近かったです。しつこいわけではく、程よい距離でした」
「では王都に来た頃はだいぶ違っていたでしょう?」
「そうですね。少し驚いたくらいです」
コレットは懐かしそうな表情をしている。
「けれど1番驚いたのは、学園に入学してからですね。空気がとても冷え冷えとしていて、何も信用できませんでした。なにせ裏の顔が凄かったので」
「学園は貴族も多かったので、余計に辛かったでしょう。わたくし達は基本的に騙す側の人間ですから」
コレットは笑みを苦笑に変える。
「そうですね。真の意味で貴族の恐ろしさを知りましたよ。やっていけるか不安にもなりましたが、絶対卒業してやるって頑張りました」
「とてもお強いですわね」
「そ、そんなレティシア様ほどでは」
ちゃんと自分の意志で努力することを選んだコレットは、レティシアよりずっと強いだろう。
レティシアはもう感覚が麻痺していたので、それが異常と気づけなかっただけだ。
「それにしてもコレット様のその強さの根源であろう孤児院に行けるなんて、とても嬉しいですわ」
「一応手紙は先に送っているので大丈夫だと思いますが、緊張はしていると思います」
「わたくしは気にしませんわ。仕方ありませんもの。わたくしの腕の見せ所でしょうか?」
「そうかもしれません。でもレティシア様なら、すぐに受け入れてくれますよ」
コレットの言葉に、少し安心するレティシアだった。
いつも読んでくださりありがとうございます
作者は豆腐メンタルなので、過度な批判や中傷は御遠慮いただけると幸いです。




