93.護衛はどうしましょう?
2日後。レティシアはコレットに手紙を書いていた。
無事に宿と馬車の確保が出来たからだ。
もっと早く終わらせるつもりが、意外にも時間がかかってしまった訳は、馬車で誰が操縦するかということで揉めに揉めたからだ。
セシルの読みが見事に当たった訳である。
あれはすごかったと、レティシアは今思い返しても遠い目になってしまう。
何せ大勢の人達が我こそはと手を挙げるのだ。レティシアには止めることなど不可能だった。
ただ傍観するしかないレティシアに、セシルは笑っていた。けれどあまりにも収集がつかないので、セシルが取り仕切ったことですぐに決まった。流石である。
最終的に、1番長距離の馬車を御することに慣れている人になった。
順当ではあるので嘆きの声はあれど、反対の声は無かったので本当にできた人達だと思う。
それと同時に、そこまで好まれていると思うと胸が今まで以上にムズムズした。頬が赤くなるのを抑えられなかった。
その表情もまた、従業員達の心を鷲掴んでいたのを知らぬのは本人のみである。
閑話休題。
そんな裏話はさておき、コレットに確認も込めて手紙を書く。
書き損じが無いか確認して、レティシアは胸がドキドキ高鳴っているのを感じた。
(誰かと出かけるなんて初めて……。とてもドキドキするわ……それに、今回はルネとジョゼフはいないのよね。本当に初めてのことだらけだわ)
ルネとジョゼフにも話したところ、とても良いことだと喜んでくれた。
レティシアは初めての旅行ということで、心細さもあった。
正直に言うと、2人にも一緒に来て欲しいと思っていた。
未だ公爵家の一員であることも含め、護衛やお供をつけないリスクは少なからずある。
その不安もあったのだけれど、ルネとジョゼフは言った。
「確かにそのリスクもありますが、それは恐らく他の方法で問題解決になると思います」
「それに友人とのせっかくの旅行です。2人きりの方がコレットさんも力が抜けるでしょうし」
他の方法とは? と思いつつ、コレットのことを考えると確かに緊張するかもしれないと納得した。
そして他の方法は何か、すぐに理解することになった。
◇◇◇
手紙を書き終わって暫くして、ジルベールがやって来た。
「こんにちは、レティシア。フォール嬢と旅行することになったんだって?」
「こんにちは、殿下。誰から聞いたのですか?」
「もちろん、フォール嬢だよ。凄く自慢された」
「まあ」
ジルベールに自慢したいということを言っていたのは聞いていたが、コレットは本当に自慢したのか。
そんな気安い会話が出来るくらい、しっかり友人関係を築けているということか。
思わず笑ってしまう。
「いやまるでフォール嬢の方が恋人みたいに言うものだから、嫉妬しそうになるのを抑えるのに必死だった」
「まあ。そんなに?」
「ああ。まるで惚気だったよ」
コレットの話す勢いにタジタジになっているジルベールを想像してしまって、余計に笑えてしまう。
そんなレティシアを見て、ジルベールも柔らかく微笑んだ。
「それでレティシア。相談なんだけれど」
「何でしょう?」
「2人の護衛に王家の騎士団を付き添わせても良いだろうか」
レティシアはルネの言葉を思い出す。きっとルネはこれを予想していたのだろう。
「あら、殿下ではないのですか?」
「私がいると目立って仕方ないだろう。いくら変装してもバレてしまうかもしれないし、それに……」
「それに?」
「せっかくの2人旅なのに私がいたら台無しだろう?」
「そんなことはないと思いますが……。けれど殿下を放置して盛り上がれませんものね」
「そう言うことだ。とはいえ、さすがに護衛なしは不安だ。クロード殿は傭兵を雇おうとしていたけれど、少し待って貰っている」
レティシアの意志を尊重したいというところか。
卒業パーティーの時、勝手に行動したことを悔やんでいるからこそのレティシアへの伺いだ。
「けれどわたくしは今、中途半端な立ち位置ですし……。それで騎士団を使うのは……」
「確かに今婚約は宙に浮いた状態ではあるが、まだ貴族令嬢であることを考えれば、用心することに越したことはないよ」
「それはそうですわね。では僭越ながらお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ。ありがとう、レティシア」
「まあ、殿下ったら。お礼を言うのはわたくしの方ですわ。お気遣いいただきありがとうございます」
「いいや、私として当然のことだ。レティシアが拒否する可能性も考えていたから、嬉しいよ」
ジルベールの笑顔に、レティシアも釣られて微笑む。
「色々考えたら、殿下の案が1番良いと思ったのです。挨拶はした方が良いでしょうか?」
「いいや。一応レティシア達から少し離れて護衛させるつもりだ。せっかくの2人旅だし、邪魔にならないようにね。だからレティシア達はどこにいるか分からないと思う」
そんなところまで気遣ってもらえるとは。遠目からの護衛はかなり大変だと聞くのに、申し訳ないやら有り難いやら。
「仕方ありませんわね。それでは殿下から、よろしくお願いしますとお伝えしていただけますか?」
「ああ。もちろんだよ。ありがとう」
護衛に関しては、正直傭兵より騎士団の方が慣れているだろう。
コレットやロチルド商会の面々に余計な心配をかけないためにも、頼れるところは頼らなくては。
レティシアの許可を得られたジルベールは、嬉しそうに笑ったのだった。
いつも読んでくださりありがとうございます
作者は豆腐メンタルなので、過度な批判や中傷は御遠慮いただけると幸いです。




