91.帰省のお手伝いをしたいです
「え?」
「いえ、確かに殿下との出会いのきっかけは風で飛んでいったハンカチのおかげというのは間違いないのですが、その時は周りに誰もいなかったと思って」
そのコレットの一言で、レティシアは墓穴を掘ったことを知る。
(ま、まずいですわ。これはこっそり見ていたと思われても不思議ではありません。いえ、今ならまだ誤魔化すことは出来ますわ)
気付かれないように深呼吸をして、レティシアは微笑んだ。平常心と心の中で唱えながら。
「あら、あそこは木々も多いので、ちょうどコレット様の死角になっていたのかもしれません。あの時はコレット様のことは詳しく存じ上げませんでしたし、目の前に現れる必要がなかったのですわ」
「そうなんですね。……レティシア様、そういえばよく中庭の奥に行ってましたものね」
「ええ、そうですわ」
ギリギリ誤魔化せたようだ。何せあそこで隠れて見ていたなんて、言い訳がとても面倒になる。
前世のことでウキウキしていたなんてとても話せないし、それ以外で誤魔化すのは大分苦しい。
それにコレットが自分で納得しているので、問題ないだろう。レティシアの尊厳が若干損なわれている気がするのは置いておいて。
多分、叫び散らかしていたことを思い浮かべているだろう。そこまで叫んでいた回数は多くないのに毎回見られていたのだから、しょっちゅうそういうことをしていたと思われているだろう。
「その時、きちんと弁えているコレット様を見ましたわ。その時から気になってはいましたの」
「……ありがとうございます」
ついでにこう言えば、完璧だろう。事実であるし。
コレットは嬉しそうだ。
「あ、そ、それより、ごめんなさい。私が相談してしまって。れ、レティシア様は何かありますか?」
「大丈夫ですわ。コレット様のお話を聞いて、自分に置き換えて考えることもありますの。わたくしも助かっておりますわ」
とここで、気がついたら相談話になっていたことに気がついたコレットが、慌てて謝罪してきた。
たしかに、人によっては重荷になるかもしれないが、レティシアにとっては全く問題ない。自分の感情が何か理解しにくいので、コレットの話は新鮮に感じられるのだ。
「それに何というか、今まで相談されたことってほとんどないので、嬉しく思うのです」
「レティシア様……」
ルネもジョゼフも相談することはあれど、逆は殆どない。ロチルド商会の話は、仕事として取り組んでいたのでまた違う。
私的なことを相談されるのは、信頼されているようで嬉しかった。
コレットはレティシアの言葉に、様々な感情が込み上げてきたのだろう。グッと堪える表情をした。
「私は……孤児院にいた頃は、幸せで、でもどこか気を張っていました。年長者ということもあって、相談を受ける立場でしたので。だから、えっと。……私も相談出来る人がいて嬉しいです!」
「まあ! わたくしたち、相性が良さそうですわ」
コレットの言葉に、笑うレティシア。コレットの言葉は、選びつつもこちらを慮っているのを感じられて心地が良い。
孤児院で頼りにされていたのも頷ける。コレットは相手の欲しい言葉をくれるのだ。
ふと孤児院の話が出て、レティシアは思うことがあった。
「そう言えばコレット様。お話は変わりますが、就職してから孤児院には顔を出しておりますの?」
「うっ」
あ、これは出していないなと、コレットの反応を見て察した。
忙しいと言っていたし、確か孤児院の場所は王都からも離れていたはず。そうなると帰るタイミングが無いのも分かる。
「て、手紙は出しています。今度の長期休暇も行ければとは思うのですが……」
「新人ですと休暇の申請も出しづらいですわよね。馬車でどのくらいですの?」
「半日くらいなのですが……その、お金もまだ不安で。孤児院は場所が限られていますし、宿泊代と辻馬車代と考えるとどうしても……」
「半日の移動では2日休みと考えると、ほぼ移動に費やされますものね。色々考えたら確かに大変そうですわ」
1泊分の宿泊も馬車代含めたら、安くならないだろう。しかもまだ就職して3ヶ月。貯金も苦しい。
そこまで考えて、レティシアはコレットのために動きたいと思った。
今の自分が出来ることは、1つである。
「今度、2日間のお休みをいただけるのはいつですの?」
「えっと、2週間後くらいでしょうか」
そのくらいなら、充分な期間がある。
「ならその間に馬車と宿の準備をしておきますわ。ああ、せっかくですし、ロチルド商会のお土産を持っていって欲しいですわ。孤児院の人数はどのくらいですか?」
「へ?」
「馬車に関してはクロードさん達に相談する必要もあるので、場合によっては辻馬車になる可能性もあります。しかし宿は場所さえ分かれば先に話を通しておけば問題ありません。女性ですので、ある程度しっかりしたところが良いですね。それから――」
「ま、待ってください! その言い方ですと、全てレティシア様が用意すると言っているようなものですが⁉︎」
「そのつもりですが?」
「へあ⁉︎」
サラッと言ってのけるレティシアに、コレットは目を剥いてた。
その表情が可愛いななんて思いつつ、レティシアは話を続ける。
「わたくし、亡命のためにと資金調達をしていたので、お金は余っているくらいなんです。それにここに来て雑用をしているだけなのに、クロードさん達がお給料までくれて。住まわせてもらっている身ですから遠慮したのですが、皆様も受け取れって言って渡されたんです」
そう、どう考えても、雑用の給料ではない金額を貰っていた。最初は受け取れないと言ったものの、クロードとセシルだけでなく、従業員総出で説得されてしまったのだ。
お人よしが過ぎるというか、経営は問題ないのだろうかと思いつつ、抵抗することをやめた。多勢に無勢である。断れるはずもない。
そもそも、クロード達が自分たちを追い込むようなことらしない。
「なので、コレット様のお役に立てるなら嬉しいですわ。ぜひ、わたくしにやらせていただけませんこと?」
断らせる気もないレティシアは、にっこり笑って提案した。帰りたくないなら話は別だが、コレットはそうではないようなので強引さは必要だろう。
その表情に、コレットはなぜか胸を押さえる。いや、この動きは覚えがある。
過去に自分がコレットの眩しさに同じことをしていた。レティシアに萌えているのだろうか。そんな特別なことしたかなと思う。
「ずるいですぅ。そんな風に言われたら断れないじゃないですかぁ」
「断らせないためにやっているので、当然ですわね」
「うう……でもぉ……はっ! 分かりました。なら、レティシア様も行きましょう! 女子旅です!」
「え?」
さすがコレット。転んでもただでは起きなかった。
いつも読んでくださりありがとうございます
作者は豆腐メンタルなので、過度な批判や中傷は御遠慮いただけると幸いです。




