90.コレット様が来てくれました
また今日から投稿再開します!
待っていてくださった方々、お待たせしました!
またよろしくお願いします
レティシアが交流を深めるのはジルベールだけではない。
ジルベールと出会った2日後。訪ねてきたのはコレットだった。
ジルベールの時と同じように、客室へ案内する。
「こ、こんにちは。レティシア様」
「ようこそ、ふぉ……コレット様」
お互い吃りながら挨拶する。お互い緊張もあるだろう。
ついでにレティシアとしては、スムーズに名前を呼ぶことが難しい。何せ本人の前では家名で呼んでいたのだ。それを変えるつもりなかったので、ある意味仕方ないかもしれない。
これでも最初の頃は家名呼びに戻っていたので、進歩した方である。
ちなみに何故ジルベールの時よりぎこちないかというと、コレットは学園卒業後は就職をして仕事で忙しく交流がまだ少ないからだ。
なかなか時間が取れなくて、会えるタイミングがない。今日会うのも、レティシアがロチルド商会に来てから3回目だ。
それでも1ヶ月に1度は来てくれているのが、とても嬉しいやら申し訳ないやら。
それでも嬉しそうに笑うコレットを見ると、レティシアも嬉しくなるし、せっかくレティシアのために時間を作ってくれているのだから、楽しんで貰おうと気合いを入れるのだった。
「レティシア様、お久しぶりです」
「ええ。お仕事はどうですか?」
「少しずつ慣れて来ました! とは言っても、まだまだ半人前なんですが」
「女官というのは覚えることも多いでしょうから、大変でしょう。それに見習い期間とはいえ、やることは多いのでしょう?」
そう。コレットは女官になるための試験に合格し、無事王城での仕事が出来るようになったのだ。
そもそも女官の試験は、貴族の女性が有利となりやすい。いくらアヴリル魔法学園の特待生といえど、平民がそうそうなれるものではないので、とても凄いことなのだ。
「そうなんですが……殿下はレティシア様にしょっちゅう会いに来ているのに、私は1ヶ月に1度が限界で」
「殿下も確かに大変でしょうが、元々王太子教育も受けております。土台が出来ているので、慣れるのもコレット様より早いのはある意味当然ですわ。コレット様は全部が初めてのことばかりで、慣れないでしょう? そんなに気にすることありませんわ。きっとその内出来るようになります」
「そうですかね。……殿下だけではなく、ドミニク様もマルセル様もご立派で。私も努力しているのに、とても追いつける気がしなくて……。やはり学園での縁は奇跡だった気がするんです」
コレットはきっと今、挫折を味わっているのだろうと、レティシアは推察する。
学園の時と成人になった時の落差に落ち込んでいるのだろう。
それは誰もが通る道だろう。特にコレットは、特待生として努力してジルベール達と知り合った。
そもそもアヴリル魔法学園では、コレットだけが特待生だったわけではない。その中でコレットが飛び抜けて優秀だったという話だ。
ここで優しい言葉をかけても、厳しい言葉をかけても、どちらもコレットの重荷になるだろう。同じような状態にはレティシアだって、覚えがある。
この時にレティシアがしてもらいたかったのは、話を聞くこと。今は落ち込んでいても、コレットの強さならきっと自力で立ち上がれるだろうと、レティシアは信じていた。
「奇跡……確かにそうかもしれません。けれど、コレット様。こんな言葉をご存知ですか? “運も実力の内"だと」
「……私が皆さんと出会えたのも、そうだということですか?」
「ええ。だって、コレット様がアヴリル魔法学園を選ばなければ、まず出会うことはなかったでしょう。その後にハンカチを飛ばされた時、運よく殿下が通らなければ接点はなかったはずです。ドミニク様、マルセル様然り。この繋がりは、コレット様の運が良かったから……そう思うと、何が起こるか分かりませんわね」
「……」
イーリスの祝福による強制力の可能性だってあるけれど、それにしたって、もうゲームからは逸脱している。そもそもイーリスの祝福では、コレットは女官になっていない。
そのことから考えるに、コレットは自分で新たな道を切り拓いたのだ。
けれどそのことをコレットに話すわけにもいかない。これはレティシアがずっと1人で抱える秘密だ。
ならば“運が良かった”なんて、場合によってはマイナスに取られることでも、今はプラスに働くだろう。
「私……ずっと思っていたことがあるんです」
「何でしょう?」
「私はずっと、恵まれているんだって。確かに、辛いことも嫌なこともたくさんありました。けれど孤児になっても、孤児院に入れた。学園に入学出来た。そして就職出来た……。だから、恵まれているんだなって」
「そう思えることが、何よりの強さだと思いますわ。……わたくしは全て敵だと思っていましたから。相手を傷つける方法しか考えませんでした」
自分が亡命することで、最悪の場合は国内にも混乱が生じるはずだった。今はジルベール達がレティシアのために混乱が起きないようにしてくれているが、本来の計画ではそれがなかったのだ。
「私だって、レティシア様の立場だったら同じ道を辿りますよ。あんなの、許せなくて当然です。……あ」
「どうしました?」
「いえ、自分で言って何ですが、こうも環境が違うのに同じことが出来て当然だと思うことが間違いだったなって、思いました。殿下達と何もかも違うのに、勝手に比べて勝手に落ち込むなんて、皆さんにも失礼ですよね」
「そうですね。やはりコレット様は強いですわ」
自分でその答えに辿り着いてくれたことに安堵するレティシア。
これならコレットもその内大丈夫になるだろう。
「それにしても、きっと私虐められてなければ、殿下達に会うこともなかったんですね。虐められたあとに、殿下と出会ったんですか……ん?」
「?」
言葉の途中で何かに気がついた様子のコレット。
レティシアは首を傾げてコレットの言葉を待つ。
コレットは疑問に満ちた顔で、レティシアに尋ねた。
「レティシア様……どうして私と殿下のハンカチのことを知っているのですか?」
いつも読んでくださりありがとうございます
作者は豆腐メンタルなので、過度な批判や中傷は御遠慮いただけると幸いです。




