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悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜  作者: 水月華
第一章

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⒐攻略対象者の出会いイベント①

「レティシアさまぁ。ごきげんよう」


 静かに本を読んでいるレティシアに、遠慮なく話しかけてくる令嬢。

 レティシアは無表情のまま、答えた。


「ごきげんよう、オデット様」

「珍しいですねぇ。殿下と一緒にいらっしゃるなんてぇ」


 早速探りを入れてくる。この度胸といえば聞こえは良いが、遠慮のなさは貴族らしくない。


「ええ。たまたまお会いしたものですから」


 ここでレティシアの心配をしてくれたなんて言うとどんな曲解をされるか、分かったものではない。

 真実の中に少しの嘘を混ぜながら答える。


「そうですかぁ。羨ましいですわぁ。私も殿下にエスコートしていだたきたいですぅ」

「その機会があれば良いですね」


(殿下の婚約者であるわたくしに喧嘩吹っ掛けてますわね。流石に彼女の琴線に触れたのでしょうが、わたくしが怒れば伯爵家も傾く事を理解していないのが酷いですわ。……まあ、彼女はわたくしと一緒……というかついでに排除されるので良いのですが。彼女がいれば、コレット様に必ず矛先が向きますわ。大事になる前に対処できるようにしませんと。子供っぽいが故に危険なのですよね)


 その後も話しかけてくるオデットに適当に相槌を打ちながら、なんだかデジャヴを感じたレティシアだった。



 ◇◇◇



 学園にいる間は、自由な時間は限られている。授業の合間に休憩時間はあれど、他クラスに行く時間はない。

 学業が本分なので、それに対する不満はない。が、コレットの動きが中々掴めないのが難点だ。

 コレットのいるクラスの前で張り込めば簡単ではあるが、人目を意識するとできることではない。まだ国外追放されるわけにはいかないので、公爵令嬢として相応しい立ち振る舞いをしなくてはならない。


(昨日、チュートリアルのイベントが終わりました。ここから攻略対象を選んで、本格的にゲームが始まるのですね。現実ではコレット様が誰を選ぶかなんて分からないですし、昨日のようにイベントが規定の場所で起こらない可能性もありますわ。こうなると対処が難しいです……)


 この学園は広いので、闇雲に歩き回ったところでコレットを見つけられる確率は低いだろう。

 しかし何もせずに手を拱いている訳にはいかないので、とりあえず確率が高そうな場所を巡っている。

 ちなみにジョゼフのおかげで、ジュスタンと一緒に帰る必要は無くなったので自由に散策出来る。


「レティシア嬢、こんなところでどうしたんですか?」


 急に声をかけられて、声のする方を向くと1人の男性が立っていた。手元に大量の資料を持っている。


「ドミニク様、急に話しかけられたら驚きますわ」

「いやぁ、驚かせるつもりは無かったんですけど」


 一見黒に見える深緑の癖っ毛。カーキの瞳。ドミニク・ド・ナミュール。ナミュール侯爵家の三男でジルベールの側近候補だ。

 彼も攻略対象者である。


「それより、こんな所でどうしたんですか? 殿下を探してます?」

「いいえ。それよりドミニク様、紙を落としてますわよ」


 量が多くて見えていないのだろう。足元に落ちた数枚の紙を拾い、上に乗せた。


「おお、ありがとうございます。いやあ、殿下に押し付けられてしまって。レティシア嬢から一言言ってくれれば、減るかなぁと」

「言いませんわ。ドミニク様のことですからどうせ逃げて、ついに殿下の堪忍袋の緒が切れたのでしょう。日頃の行いですわ」

「手厳しいな。そういえばジュスタンは?」

「お兄様は先に帰られているかと」


 このやり取りで分かる通り、ドミニクは所謂幼馴染だ。レティシアとは多少仲が良いものの、ドミニクと一番仲が良いのはジュスタンだ。

 そして貴族にしては態度が緩い。これは幼馴染関係なく、彼の性格だ。真面目にやることを面倒がり、程々に手を抜く。

 だからこそ、ジルベールから愛と言う名の鞭を振るわれているのだ。真面目にやれば有能であるため、容赦なく仕事を振られている。


「そうですか。……ところで、レティシア嬢何かありました?」

「……特に何もありませんが」

「それにしては雰囲気が変わりましたね。良いことがあったんですか?」


 そしてこれだ。油断したところで急に爆弾を落としてくる。

 ドミニクはそう言った人の機微にとても聡い。前世でも緩そうに見えて、繊細な感性の彼には根強いファンがいた。

 ドミニクルートのストーリーはこうだ。レティシアはジルベールと良好な関係になれないことと、家族のことで悩み、1人泣いていたことがあった。その時たまたま通りかかったドミニクがハンカチをくれたのだ。

 返そうとするレティシアに、ドミニクは笑いながらプレゼントすると言った。

 そのプレゼントは皮肉にも、義務的なプレゼントを除いた、初めてのプレゼントだった。

 レティシアはそこから、ドミニクを意識してしまうようになる。

 とはいえ、レティシアには婚約者がいる身。その気持ちは出してはいけないと、頑丈に蓋をしていた。

 一方でドミニクはそのあまりに弱々しい様子が気になり、怪しまれない範囲でレティシアに関わるようにする。その過程で、レティシアの人となりを理解し、惹かれるようになる。しかし既に婚約者、しかも相手はジルベールなのでその気持ちはしまい、ジルベールとレティシアの仲を取り持とうとした。しかし、2人が歩み寄れなかったのでうまく行かない。ドミニクは遣る瀬無い気持ちで見守るしか無かった。

 そんな時にコレットと出会い、流れで相談することになる。コレットも親身になり、あれこれ2人で考えているとその内2人が恋人になったという噂が流れてしまう。ついにはジルベールにもおめでとうと言われ、否定してもまともに取り合ってもらえず、婚約せざるを得ない状況になる。

 その話はレティシアにも伝わり、レティシアは中途半端に優しくしてくれたことへの怒りや、2人が自由に生きているように見えた嫉妬で嫌がらせをするようになる。

 嫌がらせが行き過ぎてしまった結果、レティシアは妃の資質がないと判断され、ジルベールとの婚約を破棄される。訳アリ物件となってしまったレティシアは、修道院に送られることになる。

 不運なことに、道中の馬車が土砂崩れに巻き込まれてしまい、レティシアはそのまま帰らぬ人となる。

 その一報を受けた2人は、結局レティシアを助けるどころか、追い詰めてしまったと後悔してしまうのだ。


(ただ、レティシアに幸せになって欲しかったと嘆くドミニクのスチルは本当に胸が締め付けられましたわ。しかも両片思いで、ジルベールルートに次ぐ人気でしたわね)


 もちろん前世のレティシアも何度も泣きながらプレイしたものだ。

 それより今は感傷に浸っている場合ではない。


「特にいつも通りですわ。それより、早く行かないと終わらないのではなくて?」

「うっ。はあ。レティシア嬢は手厳しい。それじゃあ」


 図星を指されて、観念したように立ち去るドミニク。広い廊下を曲がっていくのを見守った。

 そこでふと気がつく。


(あら、そう言えばこの状況って――)


 そう思った正にその時、遠くの方で女性の短い悲鳴と物が落ちる音が聞こえた。

 慌ててそちらに向かうと、ドミニクの後ろ姿とコレットが慌てている姿が目に入った。


(やはり! 2人の出会いイベントですわ!)


 踏み出しかけた足を止め、近くの柱に身を隠す。

 聞こえてきた声に、思わず胸が高鳴るレティシア。感激のあまり、声を出さないように両手で口を塞ぐ。


「大丈夫か? 怪我はないか?」

「だ、大丈夫です。すいません、きちんと前を見てなくて」

「いや、俺の方こそすまなかった」


 2人で紙を集めている。

 結構派手に散らばっているので大変そうだ。


(……いくらなんでも殿下、仕事一度に任せすぎではないでしょうか。いえ、ドミニク様が逃げた結果ですから仕方ありませんね)


 一瞬同情しかけたが、本来のドミニクを思い出しすぐにそれは消えた。


「あ、あの、結構前見えづらいですよね。良かったら少し運びますよ」

「いや、女性にそんなことをさせるわけにはいきません。俺は大丈夫です」

「ぶつかったお詫びです。それに私、平民なので力仕事はそれなりに得意です」

「いや、でも……」

「さあ、行きましょう。どこに運べば良いですか?」


 コレットは少し強引に話を進めると、ドミニクの持っていた紙を半分ほど抱える。そのコレットの様子を見たドミニクは諦めたらしく、そのまま2人並んで歩き始めた。

 レティシアはその場で考え込む。


「ふむ、概ねイベント通りでしたわ。場所も変わりありませんし。この前がイレギュラーだったのでしょうか?」


 しかしこれだけではまだ何とも判断がつかない。


「そういえば、コレット様はドミニクルートを選んだのでしょうか? それともゲームのように選ぶことはできませんし、全員とある程度のルートまで進むのでしょうか?」

 

 考えても分かるはずがないか、とレティシアは早々に思考を止める。

 こういった所の判断はかなり早い。

 とりあえずこれからもイベントがありそうなところを巡るしかないかと、レティシアは判断する。


「それにしても、やはりこの目でイベントを見ることができるなんて、最高ですわ! ああ! 転生して良かった!」


 なんてルンルンと花が飛びそうな勢いで、その場でスキップをするレティシアだった。


「……あれは、レティシア……?」


 この時レティシアは油断していた。

 いや、コレットにも見られていたところを考えると、気が抜けているのだ。

 いくら妃教育などで優秀であっても、前世の記憶が蘇ったことで視野が狭くなっているのに、レティシアは気が付かなかった。

 そんな奇行を見ている人物がいるとは、夢にも思わなかったのだ。



 ◇◇◇



 数日後。

 レティシアはロチルド商会に向かっていた。

 ドミニクのイベントを見てからは特にイベントは無かったが、自分のこともしなければならないレティシアはかなり多忙だ。

 しかも合間に妃教育も入っている。分刻みのスケジュールだ。


(本当なら妃教育も辞退したいくらいですわ。ですが適切な理由がありませんし仕方ありません。それより、王妃教育ではないのは幸いですわ。王妃教育に移行していたら、間違いなく処刑ルート一択ですもの)


 王族の秘密も知ることになるのだ。亡命したところで、全力で探されてしまうので逃げ切るのは不可能だ。

 妃教育であれば、まだギリギリセーフだ。本当に良かった。

 それはさておき、今はこっちに集中しなければ。


「とりあえず魔法誓約書も準備しましたし、手続きは今日中に終わるでしょうか」


 独り言を呟きながら歩き、ロチルド商会の門を叩く。

 前回と同じ男性が出迎えてくれた。

 話は通してあるので、初回よりは断然スムーズに話が進む。


「どうぞ、会長、副会長が中でお待ちです」

「ええ。ありがとうございます」


 そう言って案内された部屋に入ると、2人は既に紙を何枚か広げて話し合っている所だった。

 レティシアが入室すると、手を止めてにこやかに挨拶してくる。


「ごきげんよう。遅くなってしまい、申し訳ありませんわ」

「どうも。こちらこそ、先に始めて申し訳ない」

「レティシア様も多忙でしょうから、出来ることを進めさせていただきました。さあ、こちらへ」


 挨拶もそこそこに2人の向かい側のソファに腰を下ろすと、直ぐに話し合いを始める。


「まず、レティシア様の偽名の口座と、我が商会用の戸籍を用意しました」

「仕事が早いですわね。嬉しいですわ。私も魔法誓約書を用意しました。確認してくださいまし」


 そう言って、2人に魔法誓約書を渡す。

 中には、レティシアの情報を他に流さないこと、またレティシアもロチルド商会の情報を流さないことを書いてある。さらにレティシアのことが他所から洩れてしまい、ロチルド商会に不利になりそうになった時はこの誓約書をもって、なんの不手際が無い事の証明とすることが書いてある。

 魔法誓約書の管理は基本的に司法機関が担っている。司法機関から取り寄せた誓約書は、どんな内容であろうと国王でも簡単には取り消しが効かないのだ。

 両者がサインをして魔力を込めることで、魔法誓約書は効力を発揮する。つまり、両者が同意をしないと意味がない。

 そういったことで、他者からの介入を防ぐ目的もある。


「ふむ。私たちはこれで問題ありませんが……レティシア様には利点はあるのでしょうか?」

「ええ。わたくしを匿ってくださることが何よりの利点ですわ。それに、公爵令嬢であるわたくしの扱いづらさは、むしろそちらの負担であります。これくらいでないと、公平性に欠けますもの」


 優しいことだ、とレティシアは思う。普通だったら公爵令嬢の出奔の手伝いなど、関わらない方が身のためだ。

 あらぬ罪をなすりつけられ、裁かれることだってある。それだけでとてもリスキーなことなのだ。


「……分かりました。これで作成させて頂きます。ただ、レティシア様」

「何でしょうか?」

「私共は貴女様を受け入れると決めた時から、それ相応の覚悟はしております。仮に今後、何かあったとしても、見捨てることはしません」


 クロードの言葉に、思わず目を見開くレティシア。

 その意味は分からない訳ではない。つまり今後、それによりレティシアが公爵家から罰を受ける際、ロチルド商会は助けると言っているのだ。


「……それでは魔法誓約書の意味がありませんわ」

「ええ、そうですね。私たちはこれが必要になる日が来ないように、細心の注意を払います。その上で使うことになってしまった場合、それは私たちの責任でもあると考えています。だからこそ、その時はロチルド商会は貴女様の後ろ盾となりましょう」

「…………」

 

 セシルの言葉に、レティシアは何と言えばいいか分からず黙り込んでしまう。

 それはレティシアにとって、とても嬉しいことだった。しかし、なぜここまでしてくれようとするのかが分からないのだ。

 そんなレティシアの心情を汲んだのか、セシルは優しい微笑みを浮かべて言った。


「だって、ほっとけないんです。レティシア様、自覚がお有りか分かりませんがずっと寂しそうな顔をしていらっしゃいます」

「え……」


 そんな事を初めて言われて、レティシアは困惑してしまう。


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