89.絆の深め方は色々あるようです
ジルベールが帰る時間になった。
商会の外に出て、ジルベール達を見送るレティシア。これも平民の挨拶と同じように、自然と始めたことだった。
「レティシア、今日もありがとう。そして、本音を話してくれてありがとう。レティシアのことを本当の意味で少し知ることが出来たと思う」
「わたくしもありがとうございました。お互い、もっとこのような話をした方がいいのかもしれませんね」
「そうだね。今まで出来なかった分、出来るようにしたいよ。……名残惜しいが、行くね。また来る日は、クロード殿に確認するよ」
「はい、お気をつけてお帰りください。……マルセル様も、殿下をよろしくお願いしますわ」
マルセルはジルベールと共に来ていたが、2人で話しているときは席を外している。
そしてジルベールが帰る頃になると、また戻ってくるのだ。
レティシアに話しかけられたマルセルは、嬉しそうに笑った。
「はい。お任せください。またレティシア様と会えることを楽しみにしています。……そうだ、ドミニクもコレット嬢も会いたがっていましたよ」
「ドミニク様、結構お忙しそうですものね。こちらは予定を調整出来ますとお伝えください。コレット様もいつでも会いに来てくださいと」
「伝えておきます」
そして別れの挨拶をして、ジルベール達は帰って行った。
レティシアは馬車が見えなくなるまで見送り、商会に戻った。
「レティシア様、お帰りなさい」
「ただいま。と言っても、ちょっと目の前に出ただけですよ?」
「その挨拶が大切なんですって」
「ふふ、それもそうですね。出迎えられることが、こんなにも嬉しいなんて思いませんでしたもの」
そう言ってくれるのは、初めてここに来てから1番顔馴染みの彼だった。
ずっとレティシアを気にかけてくれる。
ここに来てから、"帰る場所”というものが何か理解出来た気がする。
今まで生まれ育ったところだろうが、レティシアに帰るという感覚は無かった。
誰からも帰宅を歓迎されていなかったし、レティシアも屋敷にいる時が1番息が詰まっていた。
心から安心出来る場所。ここにいると生きていると実感出来る。
やる気が出るのと、心が安らぐ。そんな場所が"帰る場所"なのだと思った。
レティシアにとっての、帰る場所はここなのだ。
そんな場所を作れたことが、とても嬉しかった。
◇◇◇
ロチルド商会に来てから、色々当たり前が変わってきた。
その一つ。今日あったことを、ルネとジョゼフに報告することにしている。
以前のようにお互い細かいことを知るようなことが難しくなった。
だからその日あったことをルネ達に話すのは、とても楽しかった。同時に2人の話を聞くことも嬉しいものだった。
「それで、初めて殿下と本音を語り合ったの。言いにくいことも頑張って伝えたら、なんだか距離が近くなった気がするわ」
「お、おじょうざまあああああ」
「ちょっとルネ、どうして泣くの?」
ジルベールとのことを話しているうちに、ルネの様子がおかしいなとは思っていたのだが。まさか泣くとは予想外だった。
「ううっ! お嬢様が本当に穏やかになられて、嬉しいんですっ。本当に、どうなってしまうのかと思っていましたから……」
「ルネ……」
「で、殿下も今までのことで、無理やりお嬢様を囲い込もうとしていたのが不安で。けれど、わ、私もお嬢様を裏切っていたので、何も言えませんしぃっ」
ルネは自分が何か言える立場ではないと思いつつ、ジルベールが暴走しないか心配していたらしい。
やはり罪悪感があるのだなと思うレティシア。ここで否定しても何にもならないので、笑って言った。
「殿下もルネと同じような心情なのでしょうね。わたくしの気持ちをしきりに気にしてくださったわ。……でも、そうね。きっと殿下がわたくしを無理やり囲い込もうものなら、使えるもの全て使って逃げようとしたでしょうね」
「お嬢様……」
「けれど殿下はわたくしの気持ちを尊重してくださっているわ。だからわたくしも、ここにいるの」
ジルベールとの会話で理解した。ルネ達にもレティシアの本心を伝えることで、きっともっと絆を強くすることができるだろう。
「そのおかげで、ロチルド商会がわたくしにとってかけがえのない場所ということを知ることが出来たわ。だから感謝もしているの」
「本当にご立派です。お嬢様」
「ありがとう、ジョゼフ」
「私より、ずっと大人です。素敵な淑女です」
ジョゼフもルネのように言わないけれど、思うところがあるだろう。
ジョゼフの方がよっぽど大人だと思うのだが、そう言われるのは悪くない。
自分にとって尊敬出来る人物に認められるのが、これほど嬉しいのかとレティシアは満たされていた。
ジルベールとは、会う時間を長くすることで関係改善の兆しが見えた。けれど逆にルネとジョゼフとは。会う時間を減らすことでより絆が深まった気がする。
巣を立つ雛鳥はもしかしてこんな心境なのだろうか、なんて思ったりした。
穏やかな時間を過ごしながら、レティシアは自分が今後どうしていきたいのか考える。
けれどまだ、答えは出ない。まだまだ時間はかかるだろう。
それでも良いと。皆がレティシアが満足する答えを見つけるまで、待つと言ってくれたから。
レティシアは今まで自分と向き合うこともしなかった。ただ、日々を生きるのに精一杯だった。
これからしっかり向き合おうと、改めて思うのだった。
いつも読んでくださりありがとうございます
作者は豆腐メンタルなので、過度な批判や中傷は御遠慮いただけると幸いです。




