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悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜  作者: 水月華
第4章

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87.殿下が会いに来てくれました

感想ありがとうございます!


 次の日。午後の時間になると、ジルベールはやって来た。


 もちろん、お忍びだ。護衛はマルセル1人で、ローブで全身を隠している。


 ジルベールのお忍び定番スタイルだ。若干怪しさがあるのは仕方ない。むしろ怪しまれることで、人を遠ざけているらしい。毒を持って毒を制すような感じか。


「こんにちは、レティシア」

「こんにちは、殿下」


 ここでは平民と同じような挨拶をしている。ジルベールを殿下と呼んでいる時点で、目の前の人物が誰かわかってしまうけれど、その対策でジルベールが来たら直ぐにレティシアを呼び出すことになっている。


 2人が今いるところも客室なので、ほんのお遊びだ。理由は特になく、何となく始めたことだ。


「今日も来てくださり、ありがとうございます」

「こちらこそ、時間を作ってくれてありがとう。……ところで、それは?」


 ジルベールが示したのは、トレーに乗った茶器だ。いつもは従業員が準備していたので、自分で淹れる方式になっていることに気がついたのだろう。


「殿下、ずっとこまめに会いに来てくださっているので、そろそろ体が疲れを自覚する頃かと思いました。なので僭越ながら、わたくしがお茶の準備をさせていただこうと思ったのです」

「レティシアが練習したのかい?」

「はい。一応セシルさん達にも確認してもらったので味は問題ないと思いますの」

「嬉しいな。ありがとう。もらうよ」


 ジルベールの答えを聞いて、レティシアはお茶を淹れる。


 セシル達にも太鼓判を押されたお陰で、自信を持つことが出来たレティシアの動きは昨日よりずっとスムーズだ。


 カップを2つと、ティーポットも用意する。ティーポットにティーパックを入れてお湯を注ぎ、蓋をして少し蒸らしてからパックを取り出した。


 ゆっくりカップにお茶を注ぎ淹れる。


 爽やかな香りが、部屋に漂う。その香りを嗅いで、ジルベールが力を抜いたのが分かった。


(味も気に入ってくれるかしら……)


 そう思いながら、ジルベールと自分の前にカップを置く。


 ソファに座り直して、レティシアは一口飲んだ。


 癖でしたことだが、ジルベールは少し不満のようだ。


「……別に毒味しなくて良いんだよ?」

「申し訳ありません。癖ですの。もう当たり前になっていますから、ついやってしまいますわ。……それに、いくらなんでも、警戒心を持ってください」


 それほど信頼しているとも取れるが、2人の関係を考えれば少しくらい警戒心を持った方がいいと思う。それもこの話は初めの頃から、定期的にあるのだ。


 今日はさておき、いつもは従業員が淹れているのだ。何かあったらどうするのだとレティシアは思っていたのだが、ジルベールは従業員がレティシアが不利になることはしないと確信しているのだと言う。


 それでもそれはそれ、これはこれだとレティシアは驚きながらも言っておいた。


 そんなやり取りもしていたからジルベールも言いつつ、レティシアが変える気はないと分かっているのだろう。何せ3ヶ月、定期的に同じやり取りをしている。


 そう言われることは苦ではなく、少し胸がくすぐったくなる。


 一口お茶を飲んで、ジルベールは目を細めた。

 

「うん、とても美味しいよ。リラックス出来る気がする」

「良かったですわ」


 少しジルベールから、何か聞きたそうな雰囲気を感じる。


 聞き辛いことなのか、カップを見つめる瞳が物憂げだ。


「……」

「レティシアは、その……この味は……」


 辛抱強く待っていると、ジルベールの苦しそうな言葉が聞こえた。


 言いづらくて止まってしまったようだけれど、何を聞きたいのか理解した。


 もうジルベール達もレティシアの体の状態は知っている。隠していたわけではないし、これからお互い歩み寄るには知られていてもいいのだ。


 少し微笑んで言う。


「残念ながら分かりませんわ。お医者様に時折相談していますが、やはり時間がかかるそうです」

「……そう、か」


 ジルベールはそれから黙り込んでしまう。


 レティシアもどう声をかけたらいいか分からない。この3ヶ月、今まで婚約を結んでからの8年間よりもたくさん話をしてきた。


 少しずつ歩み寄りは見せていても、お互いを理解出来たかというと自信を持てるわけではない。


「……すまない」

「殿下、謝る必要など無いのですよ。殿下の責任ではありません」

「そうだけれど……もっと、私がレティシアを見ていたらと、どうしても思ってしまう」


 ここはどうしても根深い問題だろう。


 レティシアも、心からジルベールに全く責任がないとは思っていない。


 けれど敢えてジルベールに言葉の刃を向ける必要はあるのか、とレティシアは思う。


 元々、外見の印象も冷たく見えることがあると自覚しているが故に、中々踏み出せないのもある。


「その、」

「はい?」


 お互い悩みながらも、お互いのために考えている。


「……私は、レティシアの心を知りたい。それがどんなことでも……レティシアの痛みを私も理解したいし、喜びがあれば一緒に喜びたい。だから……レティシアも、そう思ってくれるなら、全部、教えて欲しい」

「殿下……」


 ジルベールの言葉はぎこちなくとも、真っ直ぐなものだった。


 レティシアは自然と言葉を紡ぐ。


「……わたくし、殿下の婚約者に選ばれた時、とても嬉しかったです。この人のために頑張ろうって思ったのを覚えています」


「けれど、どう接すれば良いか分からなくて。何を話せば良いかも分からなくて。分からないうちに、殿下と距離ができてしまって余計にどうすれば良かったのか分からなかったですわ」

「……うん」


 段々声が震えていることに、レティシアは気がついていない。


「どうにかしたいのに、殿下はわたくしを見なくなって。そんな態度を取られたのに、たまにわたくしに話しかけてくるのが嫌で。わたくしも殿下を見なくなって、諦めていました。わたくしを好きな人はいないのだと思っていました」

「……」


 そこまで言って、一度口を閉じる。ジルベールを見れない。


 けれど待っているジルベールに、震える唇を開いた。


「わたくし、殿下に気がついて欲しかったですわ」

いつも読んでくださりありがとうございます


作者は豆腐メンタルなので、過度な批判や中傷は御遠慮いただけると幸いです。

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