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悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜  作者: 水月華
第4章

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86.やはりセシルさんは凄いです


「けれどルネさんもジョゼフさんも、頼られればとても喜ぶと思いますよ」


 セシルの言葉に、レティシアは少し悩む。


「そうでしょうか? 2人も慣れない環境で努力しているので、これ以上負担をかけるのはと思ってしまいますわ」

「もう、あの2人がレティシア様に頼られたら、逆にやる気があがりますよ。負担ではなく、ブーストです。それに2人はまだ負い目を感じているので、それを払拭するためにも相談してあげてください」

「セシルさんがそこまで言うなら……今日言ってみますわ」

「はい。是非」


 セシルの言葉は素直に信じられる、不思議な力があるような気がする。


 穏やかな時間を過ごした後、クロードとセシルはまた仕事に戻っていった。


 レティシアも茶器を片付けるために、トレーに乗せて流しのところに運ぶ。


 そこに進むまでも長い距離では無いが、何人かの従業員とすれ違う。その度に笑顔で挨拶してくれたり、一声かけてくれることがとても嬉しかった。


 今までは、そんな風に大勢に気にかけてもらえることなんてなかったから。


 レティシアは信じられる人達が1人でもいれば、それで良いと思っていた。公爵家のこともあり、中々心を開けなかった状態がずっと続いていたから、それが当たり前になっていた。


 世間一般の普通でないとしても、レティシアにとってのこれが普通であり、そこに違いがあっても仕方ないのだと思っていた。


 そう思っていないと、潰れてしまうというのもあったのだろう。


 けれど環境が変わると、ここまで自分の世界が広がるとは思わなかった。


 確かにレティシアの世界は狭かったのだろう。そして、ルネ達が何故あそこまで罪悪感を抱いているのかも、想像することができた。


 色々な人の温かさに触れたから思う。ルネとジョゼフは確かに、レティシアを裏切っていたのだろう。


 どんな理由があれ、レティシアの味方だと言っていたのに王家に情報を流していた。それは裏切りと言う他ない。


 けれどそう思っても、レティシアは2人に改めて失望することはなかった。


 どんなに、2人がレティシアを裏切りたくないと思っても、2人は言わば一般人。


 それを国のトップから命令されて、面と向かって背けるかといったら100人中何人がそれを出来るだろう。


 レティシアも自分がその立場になったことを想像したら、絶対出来ると言える自信はない。


 そう考えたからこそ、レティシアは2人を責める気など到底起きなかったのだ。


 だからレティシアと共にいることを選んでくれただけで感謝している。

 

 けれど2人はそうではないだろう。

 

 レティシアに出来ることは、待つことだ。レティシアの2人への思いを隠さず言って、その思いを受け取って2人がいつか、自分自身を許せるように。


(きっと、わたくしが2人を頼れば、もっとそう思える。セシルさんはそういう意味も含めて、わたくしにアドバイスしてくれたのね)


 セシルには頭が上がらない。きっと、時間を見つけてルネ達にも同様の話をするかもしれない。


 レティシアが話しやすくする為に。


(とにかく、すぐに2人とお話ししたいわ。ああ、夜が待ち遠しい。……いえ、待って。明日殿下を迎える準備もしなくては。きっとそろそろ疲れを自覚する頃のはず。疲労回復のお茶は、セシルさん達も太鼓判を押してくれましたし、これでいきましょう。あとは……)


 色々考えながら、レティシアは準備を始めるのだった。



 ◇◇◇



 その日の夜。


 与えられた部屋でレティシアはジョゼフとルネにお茶を出していた。


「どうかしら? 何か直したほうが良いところはある?」

「大丈夫ですよ、お嬢様。とても美味しいです。いつの間にこんなことも出来るようになったのですね」

「ジョゼフさんの言う通りです! むしろお嬢様が淹れてくれただけで、値打ちが付きますから!」

「ふふ、ありがとう」


 2人に褒められ(ルネは贔屓が過ぎている気がしなくもないが)、嬉しくなるレティシア。


 ついでに昼にセシルに相談していたことを話してみた。


「良かったわ。セシルさん達も太鼓判を押してくれたのだけれど、どうしても心配で。そうしたら2人の方が上手だろうから聞いてみなさいって言われたの」

「セシルさんが? ……そう言えば、仕事の終わりにお嬢様から話があるだろうと言われました。この事ですか?」

「ええ。今回教えてもらっているのは、簡略化されたものなの。せっかくだから、本格的なものも学んでもいいかなって考えたのよ」

「そうだったのですね」


 レティシアが今淹れているのは、一つ一つ1杯分にあらかじめ分けられたものだ。所謂ティーパックタイプ。


 対して公爵家で淹れていたものは、茶葉の量から淹れ方まで工程が多めのリーフティーが主なものだった。


「忙しかったら無理にとは言わないけれど、良ければ教えて欲しいわ」

「お嬢様……」


 ルネはそのまま俯いてしまう。


 やはり難しいだろうか、とレティシアが思った時だ。


「わ、私、頑張ります! お嬢様、是非、教えさせてください!」


 ガバっと顔を上げて、レティシアの両手を掴むルネ。


 あまりの緩急の差に驚いて、少しのけ反ってしまった。


「う、嬉しいわ。けれど、無理しないでね。疲れた時は気にせず休んで欲しいわ」

「お嬢様のためになるなら、むしろご褒美です‼︎」

「私も僭越ながら、やらせていただきます」

「あ、ありがとう。よろしくね」


 目が一気に輝き出したルネに気圧される。ジョゼフも近づいては来ないけれど、目が同じように輝いている。


 その勢いに押されつつも、ふと日中のセシルの言葉を思い出す。


 本当に2人にとって、ブーストになっているようだ。


 セシルの観察眼の鋭さに、改めて尊敬するレティシアだった。

いつも読んでくださりありがとうございます


作者は豆腐メンタルなので、過度な批判や中傷は御遠慮いただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
最後まで見るから、頑張って走り切って欲しい。応援してます!!
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