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悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜  作者: 水月華
第3章

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83.初めてのお友達です


 コレットは話を振られたが、どこか申し訳なさそうだ。


「その、なんていうか……途中で退席しようかと思ったのですが」


 恐らく話の内容から、退席した方が良いと思ったのだろう。


 コレットは入り口近くにいるとはいえ、扉を開ける音などを気にして動けなかったかもしれない。

 

「俺が止めました。このタイミングを外すと、2人が話すことが難しいと思いまして」


 途中で声を上げたのは、ドミニクだった。

 それもあり、コレットは動けなかったのだろう。


 ドミニクの言う通りではあると思うのだが、レティシアはどうすれば良いのか全く分からない。


 そもそも亡命が完了すれば、もう関わるつもりも無かったのだ。


「え、えっと、その……」

「か、体は大丈夫ですか? わたしのことは気にしなくて大丈夫です。無理せずお休みになられた方が……」

「い、いえ。このままでも大丈夫ですわ」


 お互いぎこちないのは当然だ。何せまともに話したことは無い。


 レティシアは一方的に知っているが、コレットは守られていたことは知っていても、レティシアのことは知らないだろう。


 けれどレティシアは全て露呈しているこの場だからこそ、出来ることがあると思った。


 本当ならその機会は自分自身で潰していたはずのこと。

 コレットの前に移動すると、深く頭を下げる。


「コレット・フォールさん。今までの態度、本当に申し訳ありませんでした。貴女を傷つけたこと、許されることではありませんが、謝罪します」

「え⁉︎ いえ、頭を上げてください! 私、さっきも言った通り、分かっていますから! リュシリュー公爵令嬢が私を守るために、敢えてそうしていたことでしょう?」


 コレットはそう言うが、レティシアは頭を上げない。


 被害者でもあったレティシアは、それで済まされることではないと分かっている。


「いいえ。理由がどうであれ、貴女を虐げたのは事実ですわ。それは許されることではありません。それに守ると言えど、わたくしの亡命という目的のために利用していたに過ぎません。しかも最初は貴女に何も言うことなく、亡命するつもりでした。自分勝手に貴女を振り回していただけです」


 レティシアの言葉に、コレットは悩みながらも言葉を紡ぐ。


「……たとえ、リュシリュー公爵令嬢が私を利用したとしても、私はお陰で平和な学園生活を送れました。リュシリュー公爵令嬢が庇ってくれるまで、かなり酷かったですから」

「特待生という立場は、どうしても悪意に晒されやすいものですわ。わたくしはその者達と同類です」

「違います!」


 頭を下げたままのレティシアを、コレットは顔を手で挟んで無理矢理上げさせた。


 流石に実力行使を予想していなかったレティシアは、驚いてコレットを見つめる。


「そ、そんな風に、ご自分を否定しないでください! わ、私は……」


 ギュッと目を閉じる。目を開いた次の瞬間には、コーラルピンクの瞳は強く輝いていた。


「だ、だったら、名前で呼んでも良いでしょうか⁉︎」

「……え?」


 思いも寄らない言葉に、レティシアから少し間の抜けた声が漏れる。


 突然の話題転換に、思考が追いつかなかった。

 

「リュシリュー公爵令嬢も、殿下達に同じようにしていましたよね⁉︎ だから私も、同じようにします! ど、どうか、その……お友達になってください‼︎」


 その表情は羞恥から赤らみ、強い光を瞳に称えつつも潤んでいた。


 一言で言えば、可愛い。


 とても可愛い。


 何も答えないレティシアに、コレットは不安になったのか手を離す。


 けれどその離れた手を、レティシアは掴み直した。


「りゅ、リュシリュー公爵令嬢……?」


 あまりの可愛さに、思わず手を掴んでしまった。コレットも何も言わないレティシアに困惑している。


「……その、フォールさんは、どうしてそこまでわたくしを、高く見ているのでしょうか?」


 結局溢れたのは、レティシアの中にあった疑問だった。


 コレットは落ち着かなそうに視線を動かしながら、答える。


「……私、先ほども言いましたが、リュシリュー公爵令嬢に会うまで虐められていました。その人達と目が違ったんです」

「……目?」

「はい。私に対する目が違ったんです。その人達は本当に、私を気に食わないという目をしていました。けれどリュシリュー公爵令嬢は、凄く辛そうにされていたので……」

「辛そう……」


 心当たりがあり過ぎる。いや、表情管理はしっかりしていたはずだ。


 けれど目まで気にしていたかというと、全く意識していなかった。

 

「表情は確かに無表情で冷たい印象だったのですが、私を見る目が罪悪感に塗れていました。だから何か理由があるのかと思ったら、その後お一人で嘆いてたので私の勘は正しかったのだと思いました」

「……そうですか」


 目は口ほどに物を言うとはこのことか。


 レティシアはコレットに全て見透かされていたという事実に、段々と羞恥心が込み上げて顔が赤くなるのを自覚する。


 2人とも顔を赤くして、レティシアが未だに手を離さないのも相まって何だか怪しい空気になりそうだった。


 そんなことは露知らず、レティシアは思う。ここで誤魔化しても、意味はないだろう。何せ計画はバレて、コレットには見透かされている。


 ジョゼフ達を許したように、自分自身にも許されるように行動するべきだと。

 

「……ありがとうございます。わたくし、お友達がいないので嬉しいですわ。……コレット様」


 そう言うと、コレットはまるで花が咲き誇るように満面の笑みで笑った。


「嬉しいです! レティシア様! 私も、ロチルド商会に行っても良いですか⁉︎」

「もちろんですわ。わたくしも、コレット様のことも知りたいですわ。……お友達として」

「はい! 私もお友達として、たくさんお話ししたいです!」


 レティシアも微笑む。その表情は、とても柔らかい。


 ジョゼフ達にしか見せなかった、心からの笑みだった。 

いつも読んでくださりありがとうございます


作者は豆腐メンタルなので、過度な批判や中傷は御遠慮いただけると幸いです。

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