82.レティシアの提案とは?
遅刻してしまい、失礼しました
「まずは体を楽にしてくれ。それから詳しく聞かせてほしい」
レティシアの提案を一蹴せず、ジルベールは続きを促す。
「はい。わたくし達はお互い不器用なのでしょう。何度も言っている通り、わたくしにも悪いところがあります。けれどジルベール殿下にも思うところがあるのも事実です。貴方様が誠にわたくしを欲しているのなら、その心をお見せください。激務とは存じておりますが、顔をお見せいただきたいのです。これまでに作られた溝を埋める努力をしていただきたいのです」
レティシアの提案は、令嬢が出していいようなものではない。要するに自分自身に尽くしてほしいと言っているようなものだ。
そもそもジルベールとレティシアは政略結婚の意味合いが大きい。
2人の心が繋がっているわけではないのに、結ばれることが決まっていた。
けれどきっとこうしないとお互いに、強いては、ジョゼフ達にわだかまりが残ったままだろう。
それでジルベールが出来ないと言えば、レティシアは当初の予定通りに亡命するだけだ。
「レティシア……君は……それで良いのかい? 君が無理したら何の意味もない」
「無理でしたらこんな提案はしませんわ。それに殿下が無理ならこの提案はなかったことになるだけです」
ジルベールは言葉に迷っているようだ。
それに対応したのは陛下だった。
「レティシア嬢、其方は本当に……優しいというか何と言うか。……その言葉、ジルベールや他の者に流されているわけではないな?」
「もちろんでございます。わたくしは、わたくしの意志で言っております。……それにリュシリュー公爵達には、このような気持ちすらありません。これが私の意志であるという、何よりの証拠になると思います」
「……そうか。してジルベール。お前は淑女にここまで言われてどうするつもりだ?」
陛下はレティシアの本気を理解したのだろう。
ジルベールに問う。
逡巡していたジルベールは、レティシアと陛下の話を聞いて、覚悟が出来たのだろう。
「……レティシア、君の温情に感謝する。お互いのことをもっと知れるように……頑張るよ」
「はい。わたくしの方こそ、よろしくお願いしますわ」
そして4人の方にもレティシアは向き直る。
「……ということで、よろしくお願いしますわ。これまで通り、ロチルド商会でお仕事を出来ればと思います」
「もちろんです。……実はそう言う可能性もあると思って、ある程度準備してあります」
「さすがセシルさんですわ」
人を見る目があると聞いていたが、ここまでとは。
ジョゼフとルネはどうすればいいか、悩んでいるようだ。
「ジョゼフ、ルネ。あなた達も来てくれると嬉しいわ。……その場合、公爵家を辞める事になるけれど」
「元より、お嬢様について行く心積もりですよ。お嬢様が許してくださるなら、地の果てまでだってお供します」
「私もです! お嬢様、ありがとうございます!」
きっと1番罪悪感を感じたのはこの2人だろう。
味方でいると言いながら、王家とも繋がっていた。別にレティシアはそれに対して怒るつもりなんてない。
けれど、きっと自分達が1番許せないと思うから、レティシアはただ受け入れるだけだ。
「最後に陛下にも確認させてください」
「ああ。もちろんレティシア嬢が、ジルベールにチャンスをくれるというなら、私達もそれを認めよう」
あまりにあっさりした答えに、レティシアは驚いてしまう。
「そ、そんなあっさりと……良いのですか? 国にとっては、第一王子の結婚が長引けば不信感が――」
「それは王家の問題であり、レティシア嬢が気にする必要はない。それに罪滅ぼしでもある。公爵とはそれなりに顔を合わせていたのに、気が付かなった我らの責任もある」
「……」
王妃も続ける。
「貴女が慈悲深い心で提案したことを出来ないなどと言えば、王家は地に堕ちたも同然。……ありがとう」
「そんな……」
レティシアが思うよりも、どんどん話は纏まっていく。
まず、レティシアはリュシリュー公爵家に籍は置いたまま、ロチルド商会に身を寄せる。これは一度平民になれば、再び婚約者としての地位を取り戻すことが難しいということはおろか、どこかの養子になるというのも困難になるからだ。
だったら先にどこかの養子になれば良いという話もあるが、仮にレティシアが婚約者に戻りたくないということになれば、双方居心地が悪い。
レティシアも、バンジャマン達と関わらなくていいなら、と妥協案を受け入れた。
そしてジルベールは任意のタイミングで、ロチルド商会に行くということになった。
今回はジルベールがレティシアに、誠実な行動を見せるということが重要だ。公務などがある状態で、その時間を作るのは難しい。
だからこそ、レティシアへの想いがわかるということだ。
敢えて回数を設けないのは、レティシアがそれにより判断しやすいと思ったから。回数を設ければ、義務感で来ていると思っても仕方ない。
「……わたくしに都合が良いことばかりですわ」
「当然だ。ここまでのことを思えば」
レティシアの気まずげな声に、陛下は答える。
けれどこれで下地は整った。
ようやく話がまとまり、レティシアはほっと息を吐く。ここまでどうなるかと思ったが、何とかなった。
そういえば、卒業パーティーはどうなったのかと思ったけれど、考えるのが億劫になり辞めた。
「ところで、レティシア」
「はい?」
「実はフォール嬢がレティシアと話したいとずっと言っていてね。まあ、ここにいるのはそれが理由なんだ。どうか話をしてくれないだろうか?」
そう言われて、今まで黙って部屋の隅にいたコレットが少し申し訳なさそうに手を上げた。
いつも読んでくださりありがとうございます
作者は豆腐メンタルなので、過度な批判や中傷は御遠慮いただけると幸いです。




