76.衝撃の事実です
「ジルベールの婚約者、レティシア・ド・リュシリュー公爵令嬢は、長年家族であるバンジャマン・ド・リュシリュー、ジュスタン・ド・リュシリューに虐げられて来た」
「⁉︎」
レティシアは陛下の言葉に、目が落ちんばかりに見開く。
そして周りの人間全員も、会場が揺れるのではと思うほどに動揺が一気に広がった。
「それは躾から逸脱した、レティシア嬢の尊厳を踏み躙るものであった。とても人間とは思えないほど、凄惨なものであった。許しがたい事である」
陛下の表情は苦しげに歪んでいる。その表情が、ジルベールにそっくりだなとレティシアはどうでもいいことを思った。
思考が停止して、そんな全く関係ないことに興味をとられてしまう。
「それが発覚したのは、1年ほど前。ジルベールの密告であった。調べれば、幼少の頃から彼女は虐げられていた。レティシア嬢の噂は我々も把握している。しかし、皆考えて欲しい。そのような境遇の者が、心から笑える日はあったのだろうか? “人形令嬢“と呼ばれてしまったのは、それに気が付かなった我々の責任である!」
再び会場の空気が揺れる。
レティシアに視線が集まる。その視線にたじろぎ、体のバランスが崩れてしまう。
しかし腰に回された力強い腕に支えられ、倒れることはなかった。
視線を上げれば、ジルベールと目が合う。
ジルベールは少し眉を寄せて、悲しそうにしていた。
「そして察しがいい者は、今この場にリュシリュー公爵がいない理由が分かるだろう。本来であれば、彼らをここへ呼ぶつもりだったがレティシア嬢の心情を尊重し、姿は見せていない」
「は……」
ようやく出たレティシアの声は、誰にも聞こえない程に小さな声だった。
しかし、密着しているジルベールには聞こえたのか、ぎゅっと更に体を支えられる。
「そして、今入ってきた4人。彼らはそんなレティシア嬢を支え続けた者達だ! 特別に私が許可した。レティシア嬢の家族のようなものだからな」
卒業パーティーに参加するのは、卒業生とその保護者。基本的に2人、ないしは1人なのに。4人もいるなんて。
陛下の心配りがすごい。
皆そんな陛下の懐の深さに感動して、拍手が鳴り響く。最初は小さかった音が、どんどん共鳴するように広がっていった。
レティシアは相変わらず思考が働かない。というよりこれは夢だろうかと思い始めていた。
そうでなければ、レティシアにとってあまりに都合がいいのではないか。
だってレティシアは確かに、直前まで皆から好意的ではない視線を受けていたのだ。
なにもそれに対する反応がないのは、おかしいのではないだろうか。
そう考えた、まさにその時だ。1人、誰か声を上げるものがいた。
「待ってください! リュシリュー公爵令嬢は、平民の特待生を虐めていたことがあるのではないですか⁉︎ それに、暴行未遂事件の首謀者の可能性もゼロではないでしょう⁉︎」
誰だ。その1番レティシアが気になっていたのを確認してくれる猛者は。
レティシアが視線を向けると、そこには1人の男性がいた。確か家が王族と仲良かったはず。
(というか、生徒会メンバーの1人ではなかったかしら?)
鈍い思考の中で、その男性の立ち位置を思い出す。役職には特に就いていなかったけれど、メンバーの一覧に名前があった気がする。
レティシア自身も気になっていたが、誰にも言われないので確認できていなかったことを確認してくれたのだ。
これはどう答えるつもりだろう。だってレティシアは何もしていない。調査に協力していないだけでなく、バンジャマンには自分が命令したと嘘を吐いたのだ。
けれどその説明をしたのは陛下では無かった。
「それに関してだが、まず暴行未遂事件。あれはレティシアは全く関わっていないどころか、通報してくれたのだ。そのおかげで、暴行未遂で終わったのだ」
そう、レティシアのすぐ横から、声が聞こえた。
誰が話しているか、分かるけれど分からない。分かりたくない。
「元ブローニュ伯爵令嬢。彼女は特待生に並々ならぬ感情を持っていた。レティシアが彼女の側にいたのは、彼女の動向を探るためだ。だからこそ、早めに気がついて対処出来たのだ」
「な、なんで……」
なんでそのことを知っている?
学園ではレティシアが何かアクションを起こしたという足跡は残していない。あくまでオデットを傍観していたように見せていたはずだ。
さらに混乱するレティシアを置いて、ジルベールの暴露は続く。
「さらに特待生を虐めたという噂だが、あれも事実無根だ」
いえ、証拠歴然です。人前で思いっきり貶しましたが⁉︎
最早言葉にならない声が、レティシアの体の中で暴れる。
「それには彼女に説明してもらおう。フォール嬢」
「はい」
ジルベールの呼びかけに、人混みの中からコレットが出てくる。
彼女の格好は、学園からレンタルされたドレス姿。髪も簡単に結い上げられている。
シンプルだけれどその姿は、とても輝いて見えた。
「皆さん、ご存知かと思いますが、私が虐められていたという噂を立てられた張本人です。けれど実際にはリュシリュー公爵令嬢には虐められていません」
「な……ちょっと」
レティシアの中で嫌な予感が急速に膨れ上がる。そのせいで、停滞していた思考が一気に動き出した。
これ以上、コレットに話をされたら、きっと今までの工作が無駄になる。そう直感した。
急いで止めようとするも、またジルベールに力強く引き寄せられて言葉が出なくなる。
「だって、リュシリュー公爵令嬢は、私を守ってくれていたんです! 私が虐められないように! わざと虐めるフリをしたんです!」
そのコレットの言葉は、陛下のように魔法を使っていないにも関わらず、会場の隅にまで届いた。
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