74.ドレスアップです
卒業式が終われば、この後はいよいよ卒業パーティーの準備だ。
ようやく自由に動けるようになり、レティシアがしたことは公爵を探すことだった。
見つけたら見つけたで癪なのだが、探さずにはいられない。
しかしどんなに見渡しても、あのアッシュグレーの髪と、オレンジの瞳の大柄な男性はいなかった。
そしてレティシアは、周りから特に大人達から注目を受けていることに気がつく。
その視線は、決して良いものではないのは分かる。その様子を鑑みれば、やはりバンジャマンは来ていないのだろう。
注目を受けていても、その事実がレティシアを安心させた。
やはりバンジャマン達とはまだ顔合わせすら苦痛なのだと再認識する。
離籍届もジョゼフがこっそり置いてきてくれるそうなので、本当にもう顔を合わせずに離れられると嬉しく思った。
「レティシア」
そんな風に物思いに耽っていたレティシア。呼ばれる声に振り返ると、ジルベールが立っていた。
「殿下」
「さあ、卒業パーティーの準備だね。レティシアをとびきり綺麗にしてもらいたいから、もう行こうか」
「はい」
王城に行くのに、レティシア1人で行くのは不自然だ。だからジルベールが声を掛けてきたことは何ら不思議ではない。
けれどジルベールの背後から、令嬢達の熱い視線が送られていることに気がついた。恐らく今回がジルベールと接触出来る最後の機会だから、なんとか声を掛けたいのだろう。
レティシアもこれが最後の機会になる予定だからだろうか。少し同情に近い感情が湧いて、ジルベールに言う。
「殿下。殿下とお話したい方達がいるようですよ。わたくしは大丈夫ですから行ってきてください」
「何を言っているんだ。婚約者を置いて他の女性のところに行くほど、私は不届者ではないはずなんだけれど?」
「いえ、別にそういう訳ではなく」
不貞を勧めるとかそういうことでは、断じてない。ただ、他者との交流もした方がいいのではないかと思ったのだ。
彼女達だけではなく、コレットや他の仲の良い者達とも。
「大丈夫だよ。普段から交流している者達とは、今日までに挨拶を済ませている。それ以外の者達は、学園生活でもほとんど関わらなかった者達だ。レティシアの方が優先度が高いに決まっているだろう?」
ジルベールはこれ以上、この話をするつもりがないらしい。レティシアに手を差し伸べた。
そこまで言われてしまえば、レティシアは無理に言えない。心の中で彼女達に謝りつつ、ジルベールの手をとった。
途端に嬉しそうな表情になるのだから、なんとも単純だと思ってしまった。
ジルベールのエスコートを受けながら、最近のジルベールはよく表情が変わるなぁとレティシアは思う。
こちらの方が人間味があっていいと思うけれど、王太子教育の過程で仮面を被るようになったはずだ。これはその教えに反していないだろうかと心配になってしまう。
けれどそれに対して何をどう言えばいいか分からない。
結局、無言で王城に向かうことにした。
◇◇◇
王城に到着すると、早速ドレスアップの準備だ。
侍女達が集まってきて、レティシアの体をどんどん整えていく。
まずは湯浴みから始まる。薔薇の香りだろうか。オイルの入った湯船に浸かり、身綺麗にされる。
湯浴みが終われば同じ香りのオイルでマッサージをされ、髪にもオイルが塗られる。
急ごしらえなのに、肌や髪がとても綺麗になったことに感動する。
次はドレスに着替える。一度最終調整の時にも見ているが、とても素敵なドレスだった。
ドレスの全体的は色味は、レティシアの髪色と同じネイビー。デコルテから首まで覆うレース生地が、レティシアの貧相な体をカバーしつつ美しく見せていた。胸の辺りはレースの下に同色の布があり、胸の下あたりでふんわりとしたスカートに切り替えられて、こちらもレティシアの体型をカバーしている。
袖もレースになっており、袖と首の裾部分に控えめにジルベールの瞳の色である紫が取り入れられていた。
髪を複雑に結い上げ、化粧もすればドレスアップ完了である。
鏡を見たレティシアは、王城の侍女の技術の高さに再び感動した。
元々顔が整っている自負はあったが、栄養が足りないためにマイナスになっていた。それが消されたのである。
こんなに綺麗なのかと思わず心の中で自画自賛してしまった。直ぐに自分の考えに恥ずかしくなったけれど。
ちなみに湯浴みから終わりまで数時間。卒業パーティーが始まるまで少ししかないくらいに時間がかかった。
正直に言うと、これだけで疲れてしまった。今までこれほど着飾ったことがないので、当然と言えば当然だ。
思わずため息を吐いた時、扉がノックされた。
「ジルベールだ。入っても良いかな?」
「どうぞ」
侍女の1人がジルベールを呼びに行っていたらしい。
入室してきたジルベールは、白を基調としたタキシード姿だった。王家の紋章の刺繍がされていて、繊細で美しい。
「とても似合っているね」
「ありがとうございますわ。殿下も素敵です」
お互いいつものリップサービスをする。
紳士淑女たるもの、社交辞令は必須である。
「それじゃあ行こうか」
「はい、殿下」
卒業パーティーの会場は、王城の敷地内の一角の会場だ。
同じ敷地内とはいえ、とても広い。また馬車での移動になる。
(この卒業パーティーで……最後。断罪……されるのかしら)
結局、絶対に断罪されるかなんて分からない。ジルベールの表情からは、隠しごとをしているようにも見えない。
(断罪されなくても、わたくしは亡命する。殿下の経歴に傷が付いてしまうけれど……もう止まらない。ごめんなさい)
エスコートされる手の温もりを感じながら、レティシアは心の中で謝罪した。
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